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ショパン:
・ワルツ集[第1番−第14番](*)/前奏曲集Op.28より[第1番−第15番](#)
録音:1962年10月、ジュネーヴ(*)/1960年、ジュネーヴ(#)
・前奏曲嬰ハ短調Op.45、24の前奏曲Op.28
1972年7月6日ステレオ、ロンドン
http://ml.naxos.jp/album/BBCL4138-2
ヴラド・ペルルミュテール(P)
コルトーとロンが率いる戦前のパリ音楽院のピアノ科はペルルミュテール、フランソワ、ハイドシェックといった数多くの名ピアニストを輩出した。パリ音楽院には入学していないようだが、他にリパッティやミケランジェリ、1974年に交通事故で夭逝したイタリアのチアーニらもコルトーに師事している。しかし彼らの音楽性はそれぞれ相当に異なる。ミケランジェリの精妙な音楽はコルトー自身の音楽とはかなり方向性が違うし、コルトーは確かにロマンティックでファンタスティックな演奏家ではあったが、かといってフランソワやハイドシェックほど自由奔放という訳ではない。
共通するのは鍵盤を叩くノイズ(上部雑音と言うそうだ)を出さない絶妙な鍵盤コントロールぐらいだろうか。現代の音楽教育と違ってコルトーはそれぞれの個性を大事にしたのだ。私は全員好きなので多様な個性を育ててくれたコルトーに感謝したい。コルトー自身の、良い意味で19世紀的で、しかし控えめに節度を持ったロマンティシズムに一番近い音楽性を持っているのはペルルミュテールなのではないかと私は思っている。「コルトーは好きだがフランソワやハイドシェックは癖が強くて」、と思っている方も実は少なくないのではないかと思うが、そういう方もペルルミュテールの演奏には感動するのではないだろうか。
ペルルミュテールがコンサートホールレーベルに1962年に録音したショパンのワルツは、いつどこで入手したか記憶にないぐらいずっと前から私の手元にある。確か学生の頃に駅売りか何かで偶然見かけて入手したのだと思う。私がペルルミュテールのディスクを聴くのは初めてだったが、当時評判の高かったルービンシュタインのステレオ再録音よりもこっちの方がずっと良いと思った。ワルツを一枚だけどれかと言われれば私はこの演奏か、以前紹介したブライロフスキーのステレオ新盤を選ぶだろう。伸びやかで健康的に生き生きしたルービンシュタインのモノラル旧盤や、粋なフランソワのモノラル旧盤も素晴らしいが。
この演奏は、ひょっとしてコルトー同様にプレイエルを弾いているのではないかと思うくらい素朴なシンプルな音楽だ。そこから出てくる薫り高い音色は私を惹きつけて放さない。イワン・ジョーンズの復刻によるスカンジナビアン盤はまだ入手可能なようなのでぜひ多くの人に聞いて欲しい。リパッティ盤に似て14曲を独自の配列に並び替えて演奏している(順番は5、7、8、1、9、4、3、14、10、11、13、12、6、2でリパッティとは異なる)。コルトーが練習曲集の順番を変更して演奏したのはちょっとやり過ぎだと思うが、ワルツに関しては演奏家の解釈で並べ直すのは良いことだと思う。ショパンのワルツ集は前奏曲集や練習曲集のようにまとめて作曲された作品ではないので、通常の演奏のように出版順に演奏すると一番の大曲が冒頭にきて遺作はおまけのようになってしまうからだ。他にピリシュがリパッティの順番で演奏していた例がある。
ワルツの余白に24の前奏曲から15曲だけが収録されていて、私はこれが全曲CD化されるのを首を長くして待っているのだが、スカンジナビアン盤も15番までしか入っていないのでびっくりした。16番〜24番の録音はどこへ行ってしまったのだろう? まさか原盤紛失などの事故ではないか心配だ。
90年代まで演奏活動を行ったペルルミュテールは、24の前奏曲を81年にニンバスに再録音しているのだが、残念ながらタッチが弱くなってしまっていて良い演奏とは言えない。ニンバスには同時期に計6枚のショパンを録音しており、ピアノソナタなども聴いてみたが感動できなかった。ペルルミュテールは70年代前半までの演奏が良いと思う。そこへ幸いなことにBBCが72年の前奏曲集をCD化してくれた。ニンバス盤とBBC盤はナクソス・ミュージック・ライブラリーでも聞くことができる。
http://ml.naxos.jp/artist/43934
それでも1960年盤の前奏曲集を全曲CD化してほしいものだ。ペルルミュテールの60年代のショパンはワルツと前奏曲と、もう一枚ショパン作品集(幻想曲、タランテラ、スケルツォ第2番、舟歌、子守歌、「革命」練習曲、バラード第2番)があって、これはフランスではACCディスク大賞を受賞した名盤なのだが、これもどういう訳かCD化されていない。何とか聞いてみたいものだ。
ペルルミュテールが2002年に亡くなった際や、2004年の生誕100年の際は特に話題になった記憶がない。没後10年の今年、その演奏にもう一度注目してほしい。
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