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ドイツの名バリトン、ヘルマン・プライが1998年7月22日に亡くなって今年で15年になる。
ヴェルディ:歌劇「椿姫」
アルフレード:フリッツ・ヴンダーリヒ(T)
ヴィオレッタ:テレサ・ストラータス(S)
ジェルモン:ヘルマン・プライ(Br)
アンニーナ:ブリギッテ・ファスベンダー(Ms)
ジュゼッペ・パターネ指揮
バイエルン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
1965年3月28日、ライヴ録音(モノラル)
この演奏はストラータスがまだ20代半ばだった頃のヴィオレッタだ。プロンプターにかなり頼っているので恐らく初役だったと思われる。スカラ座やロンドンでは聴衆がまだカラスの呪縛から抜けていない時期にこのようなリリックなヴィオレッタで成功したのは、1.場所がミュンヘンだったこと、2.指揮がパターネだったこと、3.それに配役に人材を得たことが大きい。4つ目の理由はエヴァーディングの演出だろうが、これは解説の写真から推測するしかない。
50年代にカラヤンがウィーンに持ち込んだイタリアオペラの原語上演の流れは60年代にはミュンヘンにも波及した。この録音はヴンダーリヒとプライがドイツ語でなく原語でイタリアオペラを歌った珍しい演奏だ。ヴンダーリヒは恐らくこれが唯一、プライも他にロッシーニのセヴィリアの理髪師があるだけだと思われる。
助六さんの情報によるとフイッシャー=ディースカウはヴェルディのロドリーゴ(ドンカルロ)、ファルスタッフ、マクベス、ジェルモン(椿姫)、イヤーゴ(オテロ)、アモナスロ(アイーダ)を舞台で歌ったそうだ。プッチーニではドイツ語だがミケーレ(外套)とジャンニスキッキも舞台で歌っている。さらに録音だけのようだがリゴレットやレナート(仮面舞踏会、ドイツ語)、スカルピア(トスカ)も歌っている。
それと比較するとプライのイタリアオペラは極めて少ないが、ここでのプライの歌唱は親友ヴンダーリヒともども暖かみのある歌で、娘への愛情とヴィオレッタへの哀れみを感じさせる好唱だ。F=Dもこの役を優しく歌ってはいるがプライと比べれば厳しいお父さんだ(笑)。ストラータスも年齢を考慮すれば健闘している。「花から花へ」は最後はいっぱいいっぱいという感じだが、後年のコトルバスのようにリリックなヴィオレッタがミュンヘンで受け入れられる素地を作ったとも言えるだろう。クライバーの名演は突然出現した訳ではなく、ミュンヘンにおけるこのようなイタリア語原語上演の積み重ねの上に実現したのだ。
プライとヴンダーリヒの優しさに包まれたこの異色の演奏を好事家限定でお勧めしたい。音は安定しているがモノラルだ。センターマイクによる収録だったようで、歌手が舞台袖に移動すると声が遠くなる瞬間がある。
(追記)
プライが歌ったロドリーゴ(ドン・カルロ)の珍しい映像を見つけた(ドイツ語)。イタリア語で全曲聴いてみたかったものだ。
http://www.youtube.com/watch?v=y1SBC49MrWo
F=Dはキングとロドリーゴとドン・カルロの2重唱を歌っている。これもドイツ語だ。ドン・カルロより貫禄がありすぎるロドリーゴで、プライの方が合っているように私は思うがいかがだろうか?
http://www.youtube.com/watch?v=pd0WOZSLAKU
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考えてみるとカラスが舞台から遠ざかっていった64−65年にフレーニ、モッフォ、ストラータスとレジェロのトラヴィアータが同時に出てきてるのは、両大戦間以来軽いヴィオレッタの伝統は綿々と続いていたのに加え、カラス革命が10年以上続いて皆少し感動疲れでか細いヴィオレッタで休みたい気持ちもあったのかも知れませんね。
でもカラス以降でドラマティックなヴィオレッタ歌いというとグレギーナとネトレプコくらいではないでしょうか。
まあ最近ではチョーフィの繊細でセンシティヴなヴィオレッタはなかなか魅力あるし、私も「ヴィオレッタはドラマティコ・ダジリタ。カラスの教訓はどこに行った」とか偏狭なことを言う気はなくなってます。
2013/12/4(水) 午後 0:51 [ 助六 ]
プライのジェルモン、優しい父親の心の痛みが伝わってくるような歌唱に慰めを与えられますね。
現役時代は「何歌っても好々爺で同じ」なんても思ったものでしたが、今没後15年を経て聞き返すと、こういう形式的発声スタイルとか超越して内容的慈しみのある歌には不思議な新鮮さを覚えます。
こういう心の優しさを感じさせる柔らかいバリトンは今ちょっと思いつかないですね。
2013/12/4(水) 午後 0:54 [ 助六 ]
これは本当に「異色の名盤」という表現がふさわしいですよね。正当的なイタリアベルカントとはまるで離れているのにこの曲の本質を突いている奇跡的な演奏だと思います。プライとヴンダーリヒの相性の良さを再確認できる1枚でもあります。
2013/12/7(土) 午前 7:11 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]
回想録によるとプライはジェルモン、ロドリーゴの他、運命の力のドン・カルロを歌ったことがあるそうです。54年にハンブルクでのことで、プライは軽いバリトンではなく「パパゲーノはだめ」と考えていた(!)レンネルトから役をもらったとのこと。当然独語でしょう。Youtubeにも独語の歌唱が上がってますね。他にトロヴァトーレの老いたジプシー役も歌ったことがあるそうですが、これは脇役ですから若いときでやはり独語でしょう。要するにプライがレパートリーに持っていたヴェルディの大きな役はジェルモン、ロドリーゴ、ドン・カルロの3役だけで、伊語で歌ったのはジェルモンだけみたいですね。
2014/1/4(土) 午前 10:00 [ 助六 ]
独語でもいいからプライのロドリーゴを全曲聴いてみたかったものです。ヴンダーリヒのドン・カルロなら素晴らしい演奏になったのでは。
この椿姫以外にドン・ジョヴァンニとゼビリアの理髪師(いずれも独語)は2人が共演したライブ演奏が残っているので、魔笛やコジ、オネーギンももし残っていれば聞いてみたいものです。特に魔笛。
2014/1/5(日) 午前 11:34 [ たか改め「みんなのまーちゃん」 ]