こだわりクラシック Since 2007

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クリスマスにちなんでクリスマス・オラトリオにしようかと思ったが、やはりここは静粛な気分でマタイ受難曲を聴くことにした。

・J.S.バッハ:マタイ受難曲
 イアン・ボストリッジ(T:福音史家)
 フランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒ(Bs:イエス)
 シビッラ・ルーベンス(S)
 アンドレアス・ショル(C-T)
 ヴェルナー・ギューラ(T)
 ディートリッヒ・ヘンシェル(Bs)
 コレギウム・ヴォカーレ
 フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
 録音時期:1998年8月


マタイ受難曲はかなり好きな曲だ。リヒター(1958年盤、1979年盤)、ガーディナー、アーノンクール(1970年盤と2001年盤)、ヴェルトホーヴェン(フェルトホーフェン)、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)、コープマン(DVD、2005年)、クレオバリー(DVD)、このヘレヴェッヘ(1998年盤)などを聞いてきた。

マタイ受難曲はリヒターの1958年盤を未だに聴いている人が少なくないようだ。フルトヴェングラーの第九やクナッパーツブッシュのパルシファル(1962年盤)、あるいはベームのモーツアルト「レクイエム」と並んでLP時代から名盤の誉れ高い演奏だが、私はこの手の「名盤」はことごとくNGだ。

リヒターのマタイ受難曲は1曲目で10分もかかる超スローテンポだが、この8分の12拍子を8分音符を1拍にして4分の3拍子のように振るのは(リヒターの時代の習慣だったとはいえ)楽譜の読み間違いであることは明らかだ。この曲はアーノンクールやガーディナー、ヘレヴェッヘはほぼ7分、やや遅めのヴェルトホーヴェンやBCJでもほぼ8分であり、リヒターのテンポではもはや別の曲と言って良いくらいだ。

ご多分にもれず私もマタイ受難曲を聴いたのはリヒターが最初だが、なかなかこの曲になじめなかった。初めてこの曲の良さが分かったのは1988年録音のガーディナー盤が出てからだ。まさに垢を落としたフレッシュな表現で初めてこの曲の良さが理解できた。良くも悪くもやや明るい表情の肯定的なバッハなので、この曲ならばもっと深刻な表現を望む人もいるかもしれない。女声のアルト(オッター)が歌っている点でも以降の演奏とは異なるが、カウンターテナーは苦手という人もいるだろう。今でも優れた演奏の一つだと思う。私も長い間愛聴した。

アーノンクールが1985年の再録音を自ら廃盤にしたため(「これはコンセルトヘボウのマタイであって私のマタイではない」という理由らしい)、1970年盤が1994年になってCD化された。歴史的名盤という観点からはリヒター盤よりむしろこの演奏の方がふさわしい。この曲を本来のテンポに戻したのだから。ただこの演奏はソロも合唱も女声を使わない構成になっているのが異色だ。冒頭で児童コーラスとの対比が付きにくくモノトーンな印象を受ける。合唱も現在のバロックコーラスほどはこなれていない。しかし2001年盤は音量変化とテンポに妙なアゴーギグがついた演奏になってしまったのと比べれば1970年盤の方がはるかに好感が持てる。1985年盤はどういう演奏だったのか聴いてみたい。

オランダ古楽界の重鎮であるヴェルトホーヴェンは1999年に東京でメサイアを振り、それが素晴らしい演奏だったことからこのマタイも購入した。アーノンクールやガーディナーよりもわずかに遅めにテンポをとった落ち着いた演奏だ。カウンターテナーのアンドレアス・ショルも自然な素晴らしい歌で、私のカウンターテナーアレルギーを解消してくれた(笑)。ただ通奏低音に所々チェンバロも加えている(8番のアリアなど)のは趣味が分かれるだろう。私はマタイの通奏低音は控えめの方が好きだ。オルガンとチェロぐらいで十分だと思うのだが?

BCJも落ち着いた演奏で好ましい。テュルクやコーイはヴェルトホーヴェン盤と共通だが、コーイはここではイエスを歌っている。BCJは実演では児童合唱をソプラノで代用していたのが残念だったが、ここでは児童合唱を用いている(と言っても女子高生だそうで少年ではないらしいが)。ただチャペルでの録音が残響過多で必要以上にのんびり聞こえてしまうところがあるのが残念だ。

コープマンはハイビジョン収録された最新のDVDだ。鮮明な映像で演奏も良いが、この演奏も通奏低音に所々コープマン自身のチェンバロを加えている。そればかりかリュートも通奏低音に加えている様子が映像で確認できる(6番のアリアなど)。音だけを聞くと少しわずらわしく感じるが、映像で見ると結構楽しめるかもしれない。趣味が分かれるところだ。最近の演奏にしては珍しく女声のアルトを用いている。画質重視の2枚組なので値段は少々高い。日本語字幕付きというのは評価できる。

クレオバリーのDVDはカークビー以外の女声ソロと女声合唱を児童合唱とカウンターテナーで構成した演奏。完全に男声だけで構成したアーノンクールの旧盤はかなり渋い響きだったが、こちらは女声が1人いるだけでだいぶ雰囲気が違う。さすがカークビーというところだ。カークビーとマイケル・チャン(カウンターテナー)以外のソリストが弱いので音楽的な水準は第一級とは言えない。しかしクレオバリーの親しみやすい演奏が廉価で手に入る(CDより安い!)のは意味のあることだと思う。ただし日本語字幕はない。

さて最後はヘレヴェッヘ盤だが、彼にとって再録音にあたるこの演奏は現代のスタンダードと言えるものだろう。カウンターテナーはここでもアンドレアス・ショルだ。本当に芸術的な歌で、知らないで聴かせたら男声だとは思わないだろう。フェルマータはガーディナーよりもやや長めに感じられる。ヴェルトホーヴェンやコープマンといったオランダ古楽界の演奏家が通奏低音にチェンバロを加えるので隣国ベルギーのヘレべッヘはどうかと思ったがヘレベッヘは使っていないようだ。私はマタイはその方がいいように思う。録音状態も含めて今一番勧められるのはこの演奏だろう。私が持っているのはCD−ROMが付属する特別エディションだが、残念ながら日本語では表示されない。

バッハは熱心に取り組んでいらっしゃる方が多く、全訳をネットでいくつも見つけることができた。諸兄の情熱に敬意を表したい。川端純四郎氏の1曲目の訳を紹介しておく。

川端純四郎氏による全訳
http://www.jade.dti.ne.jp/~jak2000/

伊藤啓氏による全訳
http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/music/

柴田長生氏による全曲MIDIデータと全訳
http://homepage3.nifty.com/chosei/bach.htm



Kommt,ihr Tochter,helft mir klagen,    来たれ、娘たちよ、来て私と共に嘆け、
Sehet - Wen? - den Braeutigam,      見よ、 - 誰を? - あの花婿を、
Seht ihn - Wie? - als wie ein Lamm!   見よ、彼を - どのような人を - 子羊のような人を。
O Lamm Gottes,unschuldig         おお、神の子羊、罪なくして
Am Stamm des Kreuzes geschlachtet,    十字架の上にほふられ、
Sehet, - Was? - seht die Geduld,     見よ、- 何を? - あの忍耐を、
Allzeit erfunden geduldig,        どんなに嘲られても、
Wiewohl du warest verachtet.       ひたすら忍び、
Seht - Wohin? - auf unsre Schuld;    見よ、 - どこを? - 私たちの罪を。
All Suend hast du getragen,       すべての罪を担われた。
Sonst muessten wir verzagen.       さもなくば私たちは望みを失ったであろう。
Sehet ihn aus Lieb und Huld       見よ、愛と恵みのゆえに
Holz zum Kreuze selber tragen!      みずから十字架を担われた方を。
Erbarm dich unser,o Jesu!        私たちを憐れんで下さい、おお、イエスよ。

(N.デチウス作詞コラール"O Lamm Gottes,unschuldig"1529,第一節)


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今回は趣向を変えて大編成の声楽曲を取り上げる。

サヴァリッシュはクライバーと並んで私が好きな指揮者である。特にオペラと声楽について日本の音楽界にとても大きな貢献をしたと思っている。ちなみにコンサート指揮者であれば他に好きなのはチェリビダッケ、テンシュテット、ベルティーニ、ヴァントといったあたりだ。古い世代ではホーレンシュタインと(出来不出来が激しいが)クナッパーツブッシュを好んで聞く。

この曲は1829年にバッハのマタイ受難曲を復活上演したメンデルスゾーンが1846年に作曲した2番目のオラトリオである。第1部は予言者エリアが干ばつに苦しむ人々に雨をもたらして救う話を,第2部は王女による迫害とエリアの予言と昇天を扱っている。聖書を基にした作曲家自身によるドイツ語の歌詞で歌われる「メンデルスゾーン版の受難曲」とも言える内容だ。

1968年に録音されたこのCDは(恐らく)この曲の初のステレオ録音で、長くこの演奏の模範的な演奏とされてきたものだ。私も大変優れた演奏だとは思うが、残念ながら英語の対訳すらついていないので正直細かいところまではよく理解できないでいた。

指揮:ヴォルフガング・サヴァリッシュ
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ライプツィヒ放送合唱団
バスI(エリア):テオ・アダム
ソプラノI(寡婦、天使):エリー・アメリング
ソプラノII(若者、天使):レナーテ・クラーマー
コントラルトI(天使):アンネリーズ・ブルマイスター
コントラルトII(女王、天使):ギゼラ・シュレーター
テナーI(オバディア):ペーター・シュライアー
テナーII(エイハブ):ハンス=ヨアヒム・ロッチュ
バスII:ヘルマン=クリスティアン・ポルスター他
(PHILIPS 420 106-2 )

サヴァリッシュはこの曲を十八番にしており、1986年のN響の第1000回定期演奏会の記念コンサートと2001年のN響設立75周年記念コンサートでも取り上げている。1986年の演奏はソニーからCDでも出ていたが、少し前に第二部がテレビで再放送された。映像で見て全盛期のサバリッシュの熱い棒に感銘を受けたと同時に、字幕のありがたさを改めて感じた。

ミサ曲は通常どれもラテン語のほぼ似たような歌詞で歌われるが、メンデルスゾーンが敢えてオラトリオを復活させたのは、聞き手が歌詞の意味を理解できることを重要視したためと思われる。しかし私は残念ながらドイツ語に堪能ではないので対訳が必要なのだ。

1986年の演奏もポップ、ザイフェルト、ヴァイクルと素晴らしいキャストを揃えている。まるで1988年のミュンヘンオペラのアラベラを思わせるキャスティングで、チーム・サヴァリッシュのベスト・メンバーだと言える。

ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団
ソプラノ:ルチア・ポップ
アルト: アリシア・ナフェ
テノール:ペーター・ザイフェルト
バリトン:ベルント・ヴァイクルほか
下記サイトにCD(ソニー SRCR-2738)の試聴サンプルあり
http://joshinweb.jp/dp/4988009273839.html

ブラームスが1868年に完成したドイツ・レクイエム(ドイツ語によるレクイエム)もメンデルスゾーンがドイツ語による受難曲やオラトリオを復活させた影響を受けているのではないかと私は推測している。そういえばサヴァリッシュはフィッシャー=ディースカウ、ユリア・ヴァラディ夫妻と共に素晴らしいドイツ・レクイエムを聞かせてくれた。NHKにはこの素晴らしいエリアとドイツ・レクイエムの映像をぜひDVD化してもらいたいものだ。

ユーチューブを見てみたがこれらの映像は見当たらなかったが、サヴァリッシュのコンサート映像では80年代のチェコフィルとの第九の映像と、(現時点では)最後の来日である2004年のベートーベンの7番の映像を見つけることができた。
http://www.youtube.com/results?search_query=sawallisch+beethoven

なおエリヤの歌詞対訳をネットで見つけることができたのでこれも紹介しておく。
(湘南シティ合唱団ホームページより)
http://www2u.biglobe.ne.jp/~n-kodama/sub251.htm
(名古屋市民コーラスHP)
http://nagoyashimin.sakura.ne.jp/data/elia/frame/eliya_frame.html

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