|
チェロ:フルニエ
ピアノ:バックハウス
1955年録音
下記サイトに試聴あり
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1890673
2チャンネルあるいはそれ以上のマルチトラックの録音機が普及し始めたのは50年代半ばからだが、マルチマイクの録音はモノラル時代から行われてきた。メインマイクから離れた楽器の音を明瞭にとる、あるいは離れた楽器の音が到達する時間差が生じるのを防ぐのが狙いだ。
特にデッカはマルチマイクの採用にSP時代から熱心だった。DGやEMIのような歴史やブランド力がない新興レーベルだったデッカにとって「音が良い」ということはマーケティング上の絶対条件だった。1948年にフルトヴェングラー指揮するVPOとブラームスの第2交響曲を録音した際は指揮者が1本のメインマイク以外のマイクの撤去を命じたと伝えられる。(それにも関わらずこの録音はフルトヴェングラーのSP録音としては良い音だという噂だが筆者未聴)
このフルトヴェングラーの録音をプロデュースしたのはヴィクター・オロフであり、彼もSP時代からマルチマイク使いだったことが分かる。しかしマルチマイクの難しいところは、録音に問題が発生した場合にどのマイクが原因なのか分かりにくくなるという点にある。しかもマイクの数が非常に多くなってくると1本1本に問題がなくてもマイクが拾った音同士が干渉して歪みが発生する場合がある。
60年代以降のようにマルチトラックのレコーダーが使用できればバランスを後から変更したり、歪んだトラックは使わずに2チャンネルにトラックダウンすることが可能になる。しかしモノラル時代、あるいはステレオ初期はテープに録音した時点で最終形になってしまうので、どのようにマイクをセットしてどのようにミキシングするかは大変に経験と勘に依存する作業だったであろう。
実際カルショーが1959年に録音した有名なカラヤンのアイーダの録音は歪んでいる。リマスター盤でも余り変わらなかったのでマスターテープが歪んでいるのだろうと思っていたら、カルショーの手記でもその件が触れられていた。スケジュールを変更して2幕をもう一度録り直したが直らなかったそうだ。カルショーはどのマイクが問題を起こしているのか特定できなかったのだ。
私が思うにカルショーはマイクを使いすぎ、マイクに頼り過ぎだと思う。60年代からクラシックの収録にもマルチトラックのレコーダーが使われ初め、後からバランスを変更できるようになったことは彼のような録り方をする人にとって大変な朗報であっただろう。
明らかにマルチマイクを使った録音であってもオロフの場合はカルショーのような人工的な感じはしない。私はこれはオロフ自身が音楽家だったためではないかと推測している。オロフのバイオグラフィーを探したところは1898年生まれだそうで、指揮とピアノとヴァイオリンをしたそうだ。デッカにはロッシーニのセビリアの理髪師序曲や、カンポーリの伴奏をオロフが指揮したパガニーニの協奏曲の録音もあるようだ。
オロフのバイオグラフィー
http://www.answers.com/topic/victor-olof?cat=entertainment
私がヴィクター・オロフの名前を最初に意識したのがこのフルニエのブラームスである(私が持っているのは1990年に出た輸入盤)。モノラル録音だということは知って買ったので音質には余り期待していなかったのだが、ありがちなモノラル録音のように音が寸詰まった感じがしない。1955年なのでモノラル最後期とは言えこんなに上手に録れるものかとびっくりした。
フルニエのチェロも素晴らしい。私はロストロのようにゴリゴリ弾くよりはこのぐらいの優雅さをもって弾く方が好きだ。古い録音だからと敬遠せずにぜひ聴いてほしい名盤だ。
|