こだわりクラシック Since 2007

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オジェー追悼をもう1本いこう。

 アーリーン・オジェー(ソプラノ)
 ガブリエレ・ジーマ(メゾ・ソプラノ)
 ペーター・シュライアー(テノール)
 ヴァルター・ベリー(バリトン)
 ローラント・ヘルマン(バス)
 アルノルト・シェーンベルク合唱団
 (エルヴィン・オルトナー合唱指揮)
 コレギウム・アウレウム
 グスタフ・クーン(指揮)
(ユーチューブ)
http://www.youtube.com/watch?v=N-N8xsjwRvk

リッカルド・ムーティ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ルチア・ポップ(S)
アライサ・ヴァミリオン(A)
フランシスコ・アライサ(T)
オラフ・ベーア(Br)
サミュエル・ラミー(Bs)
http://www.youtube.com/watch?v=oaz5fvqODiY

ハイドンという作曲家は欧米では日本よりもはるかにメジャーなようで、カラヤンもベームもバーンスタインもバッハの宗教曲はほとんど振らなかったのに(カラヤンはロ短調ミサのみがレパートリーで、マタイは録音のみ)ハイドンのオラトリオは繰り返し振っている。テンシュテットやムーティ、レヴァインもしかり。アダムとイブのストーリーは欧米人にはよほど魅力的なのだろうか。

この演奏はハイドンの生誕250年記念イヤーにウイーンで演奏されたもの。この年はカラヤンもVPOを用いてこの曲を演奏しそれも優れた演奏だったが、この演奏はオリジナル楽器のコレギウム・アウレウムをカラヤンの助手だったクーンが指揮している。シュライヤー、ベリーといった歌手もどことなくカラヤン好みだが、私にとってこの演奏の最大の見所はオジェーのソプラノだ。現在までに商品化されたオジェーの映像としては最も初期のものだろう。ポップやマティスの演奏も良いが、ここでのオジェーの歌唱もそれらに並ぶ優れたものだろう。ポップより僅かに器楽チックな歌い方が古楽器のオケと合っていると思う。年代物の映像の割には画質も音質も良好で鑑賞に差し支えない。TDKのソフト事業は買収されて資本が変わったので国内盤は見込み薄だろう。


『天地創造』は創世記の時系列的な進行に沿って3つの部分から成っており、アダムとイブは第三部にしか登場しない。
第一部〜カオスの描写から神による創造の4日間
 第1日:混乱が去り、秩序が形成
 第2日:自然は天空とその下の水に分離される
 第3日:陸地と海が分けられる
 第4日:昼と夜、季節、日や年を分け、地を照らす光が出現
第二部〜天地創造の第5日と第6日
 第5日:水と大空に生き物の出現
 第6日:陸地に生き物の出現
第三部〜アダムとイヴの登場

第一部と第二部のガブリエル(ソプラノ)とラファエル(バス)がアダムとイブも歌ってしまえば歌手はソプラノ1人、テノール1人、バス1人の3人で済むことになるが、アダムとイブに別のソプラノ(メゾソプラノ)とバスを起用する場合は歌手は5人必要になる。このクーンの演奏もムーティの演奏も5人のソロを起用している。

奇しくもオジェーと同年に生まれ同年に亡くなったポップも天地創造を大変得意にし、バーンスタインとムーティとの演奏がレーザーディスクで発売されていたほか、ドラティともレコードを録音、その他に最近テンシュテットとのライブ演奏がCD化された。オジェーよりも僅かに表情が濃いが決してオーバーになるほどではなく、ほどほどにチャーミングでこれも魅力的。モダンオケがバックであればハイドンはこのくらいで良いと思う。ぜひDVD化を期待したい。

ポップのムーティとの演奏はユーチューブにたくさん上がっている。ここではオバサン眼鏡をかけているが、これもなかなか可愛らしい。ただしラミーの声は私はハイドン向きではないと思う。
http://jp.youtube.com/results?search_query=La+Creaci%C3%B3n+muti&search_type=&aq=f

テンシュテット盤ではポップさんがガブリエルだけでなく第三部のイヴも歌っているのが注目される。
(試聴サイト)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1406745

天地創造のDVDは他にもオリジナル楽器のホグウッド盤や、スコットランド室内管弦楽団のシュライヤー盤、PAL盤でのみ入手可能なショルティ盤、ウイーンフォルクスオパー盤などたくさんあって、マタイのDVDよりもはるかに多いように思われる。バッハはプロテスタントなのでカトリックは敬遠する傾向があるようだが(カラヤンがラテン語のロ短調ミサしか振らないのはそのため)、ひょっとしたらハイドンは宗派に関わらず振りやすいのかもしれない。その辺りの事情をご存知の方がいらしたら教えてほしい。

日本人はハイドンのオラトリオをもっと勉強する必要がありそうだが、かく言う私もスコアすら持っていない。IMSLPにフルスコアが上がっているので勉強しよう。
http://imslp.info/files/imglnks/usimg/1/1c/IMSLP16854-Haydn_creation_oratorio_full_score.pdf

対訳などを掲載したサイトも紹介しよう。
http://nagoyashimin.sakura.ne.jp/data/papa/frame/haydon_frame.html

・ハイドン:『天地創造』Hob.21-2〜独唱、合唱、管弦楽のための3部のオラトリオ
 第1部
 第1曲 ラルゴ : 混沌の描写 レチタティーヴォと合唱 : 「はじめに神は天と地を創造られた」-「そして、神の霊が水のおもてをおおっていた」(天使ラファエル、天使ウリエル)
 第2曲 アリアと合唱:「いまや聖なる光の前に」-「絶望と激怒と恐怖が」(天使ウリエル)
 第3曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「神はおおぞらを造り」(天使ラファエル)
 第4曲 ソプラノ独唱付き合唱:「喜ばしき天使たちの群れは驚きをもって」-「そして、彼らの喉から声高く」(天使ガブリエル)
 第5曲 レチタティーヴォ:「また神は言われた。天の下の水は一つ所に集まり」(天使ラファエル)
 第6曲 アリア:「泡立つ波をとどろかせて」(天使ラファエル)
 第7曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。地に青草と」(天使ガブリエル)
 第8曲 アリア:「いまや野は爽やかな緑をさしいだして」(天使ガブリエル)
 第9曲 レチタティーヴォ:「やがて天使たちの軍勢が」(天使ウリエル)
 第10曲 合唱:「弦の調べを合わせよ」
 第11曲 レチタティーヴォ:「神は言われた。昼と夜とを分け」(天使ウリエル)
 第12曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「いまや輝きにみちて、陽は」(天使ウリエル)
 第13曲 独唱付き合唱:「もろもろの天は神の栄光をあらわし」-「この日は訪れくる日に」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)

 第2部
 第14曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。水は、生命をもち」(天使ガブリエル)
 第15曲 アリア:「力強い翼を広げて」(天使ガブリエル)
 第16曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「神は、大きな鯨と」(天使ラファエル)
 第17曲 レチタティーヴォ:「やがて天使たちは彼らの不滅の竪琴を奏で」(天使ラファエル)
 第18曲 三重唱:「若々しき緑に飾られて」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)
 第19曲 独唱付き合唱:「主は、その御力によりて大いなり」
 第20曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。地は生きものを」(天使ラファエル)
 第21曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「大地はただちにその胎を開き」(天使ラファエル)
 第22曲 アリア:「いまや天は光にあふれて輝き」(天使ラファエル)
 第23曲 レチタティーヴォ:「そこで神は、その御姿に従って」(天使ウリエル)
 第24曲 アリア:「威厳と気高さを身につけ」(天使ウリエル)
 第25曲 レチタティーヴォ:「そこで神が、つくられたすべてのものを」(天使ラファエル)
 第26曲 合唱:「大いなる御業は成りぬ」
 第27曲 三重唱:「おお主よ、すべてのものはあなたを仰ぎ見」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)
 第28曲 合唱:「大いなる御業は成りぬ」

 第3部
 第29曲 ラルゴ-伴奏付きレチタティーヴォ:「薔薇色の雲をやぶり」(天使ウリエル)
 第30曲 二重唱と合唱:「おお主なる神よ、天地はあなたの御恵みに」-「主の御力に祝福あれ」(イヴ、アダム)
 第31曲 レチタティーヴォ:「われらは創造主に感謝を捧げ」(アダム、イヴ)
 第32曲 二重唱:「やさしき妻よ、おまえの傍らにあれば」(アダム、イヴ)
 第33曲 レチタティーヴォ:「おお幸いなる夫婦よ、持てるものより多くを欲し」(天使ウリエル)
 第34曲 終曲合唱:「すべての声よ、主に向かって歌え」

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ロ短調ミサ曲と言えば時々取り出すのがリリングとオジェーが演奏した1985年のこのディスクだ。

演奏:シュトゥットガルト・バッハ合奏団/ゲヒンゲン聖歌隊
指揮:ヘルムート・リリング
ソプラノ:アーリン・オジェー
アルト:アンネ=ゾフィー・フォン・オッター
テノール:アルド・バルディン
バス:ウォルフガング・シェーネ

リリング(1933〜)はリヒターと並んでモダンオケによるバッハ演奏のスペシャリストとして知られる。リヒターより一回り若い世代ではあるが、リヒターは1926年生まれなので実際は7つしか変わらない。手兵の合唱団ゲヒンゲン聖歌隊(ゲッヒンガー・カントライ、G醇Bchinger Kantorei)を組織したのは1954年なのでリヒターがミュンヘン・バッハ合唱団の指揮者になったのとほぼ同時期だ。牧師の家系に生まれているという点も共通する。

両者ともモダンオケによるバッハ演奏という点でも共通するが、リリングとリヒターは基本的に考え方が異なっていると思う。Wikiによればリヒターは新バッハ全集を「特定の音楽家の主観的判断が優先されている」と批判していたそうで、旧バッハ全集に終生固執した。一方、リリングは新バッハ全集の校訂に積極的に関与し新しい研究成果やオリジナル楽器演奏家の意見をモダン楽器による演奏に積極的に取り入れた。現在は国際バッハ協会会長の要職にある。

新バッハ全集は完璧ではないが多くの点で旧全集より優れていることはもはや誰の目にも疑いがない。リヒターは1981年に急逝してしまうが、生きていれば82歳なので現役で演奏活動をしていても決しておかしくない。しかし私は200人の合唱団と100人のモダンオケによるバッハをリヒターが今どのように演奏するのか全く想像できない。晩年(と言っても54歳だったが)のリヒターは演奏に迷いがあったと言われているが、それは現代的なバッハ演奏とどう折り合いをつけるかという点ではなかったのだろうか?

実は似たような事情のバッハ演奏家がもう一人いる。グレン・グールド(1932〜1982)だ。グールドのバッハはチェンバロ作品の演奏にピアノという響きの豊かな楽器を用いながらも、独特のスタッカート奏法で敢えてピアノの響きを殺すことでチェンバロへの接近を図った独特のものだが、バッハに近づいた部分とかえって遠ざかった部分が半々で存在すると私は思う。

アーノンクールやコレギウムアウレウムなどオリジナル楽器によるバッハは70年代からあったが、リヒターとグールドの死後、その呪縛から解き放たれたかのようにオリジナル楽器が一気に主役の座に躍り出たという事実は注目に値するだろう。まさに歴史の転換点だ。メンゲルベルクのマタイに涙する人は未だにいるのだからリヒターやグールドのバッハに未だ感動する人がいてもおかしくはない。ただしこれらの演奏はあくまでも「リヒターのバッハ」であり「グールドのバッハ」であることを理解した上で聴くべきだと思う。

リヒターが50年代からF=Dやヘフリガーとの録音に恵まれたこともあり、早くから巨匠として扱われていたのと比較して、リリングが国際的に知られるようになったのは70年代からだ。しかもアーノンクールやガーディナーの活躍もあって80年代以降のバッハ演奏は急速にピリオド楽器による演奏が主流になってしまった。このためリリングのようなモダン楽器によるピリオドアプローチというスタイルはすでにやや古い物と見られがちだがリリングはもっと巨匠として尊敬されて良いと思う。

N響の主席オーボエ奏者で、バッハ演奏家としても知られる茂木大輔氏は最も尊敬する指揮者としてリリングとサヴァリッシュの名を挙げた。本人から直接聞いたので間違いない。茂木先生のHPも紹介しておこう。

茂木大輔の家頁
http://www007.upp.so-net.ne.jp/mogijepage/

クラシック演奏家が人の意見を取り入れて解釈を変更することは実際はかなり難しい。リリングのすごいところはモダンオケを使いながらも新しい変化の波を受け止めて消化している点にあると思う。HMVの紹介によるとリリングはこのDVDを含めてロ短調ミサ曲を5回も(1977/1985/1988/1999/2005)録音しているそうだが、初録音でリヒター並みの130分近くかかっていた演奏時間は最新録音では107分まで短くなったそうだ。これはオリジナル楽器による演奏とほぼ変わらない速さであり大変な変容と言えそうだ。

この1985年の演奏でもすでに121分と、1977年盤よりは10分近く速くなっている。冒頭4小節のアダージョを半拍を1拍で振る(4つ振り×2で8つに振る)「倍伸ばし」をやっている点を除けばテンポ的にそれほど大きな違和感はない。オケや合唱も今となってはやや大型だが、かといってギョッとするほど大きいという訳ではない。バッハのスタイルを外していない点がさすがだ。

特にオジェーとフォン・オッターの女声ソロはほぼ理想的と言えるだろう。オジェーの映像はモーツァルトが2点(ショルティとのレクィエムとバーンスタインとの大ミサ曲)残っているがオジェーを見出したリリングとの映像は私が知る限りこれだけだと思う。この映像はLD時代から発売されており、ロ短調ミサの映像は長らくこれ1種類しかなかったと思う。DVD化もされたがすでに廃盤のようで残念だ(リリングのDVDは今ではほとんど手に入らないようだ)。画質はやや年代を感じるが音質はまずまずだ。

ちなみに冒頭4小節のアダージョだが、先日紹介したビラーのDVD(2000)は冒頭で指揮者が映っていないが楽譜通りに振っているように聞こえる。2005年のブロムシュテッとの映像は同じライプツィッヒのオケだが「倍伸ばし」をやっているようだ。実はオリジナル楽器のヤーコブス盤(1992)も「倍伸ばし」をやっているように聞こえる。楽譜を見る限り「倍伸ばし」の根拠はないと思うのだが何か理由があるのだろうか? リリングは新盤でも倍伸ばしをやっているのだろうか、それとも楽譜通りに変更したのだろうか?
http://choralwiki.net/wiki/images/sheet/bach-ms1.pdf

リヒターのミサ曲ロ短調も映像が残されていて、冒頭は倍伸ばしで振っているのが分かる。ちなみにバリトンをプライが歌っていて、今からすればちょっと表現過剰に聞こえるが、リヒターの大編成のモダンスタイルにはこれで合っているのかもしれない。皆さんはどう思われるだろうか?
http://www.youtube.com/results?search_query=richter+bach+mass&search_type=&aq=f


(追記)
リリングは2013年現在も健在でシュトゥツガルトで毎年公開レクチャーコンサートを開いていることが分かった。多くの映像が見られるが私はドイツ語を理解できないのが残念だ。
http://www.youtube.com/results?search_query=Rilling+Stuttgart+Gespr%C3%A4chskonzert&sm=3

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