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・ワーグナー:楽劇『ワルキューレ』全曲
(第二チクルス)
マルタ・メードル(S)・・・・・ブリュンヒルデ
アストリッド・ヴァルナイ(S)・・・・・ジークリンデ
ハンス・ホッター(Br)・・・・ヴォータン
ラモン・ヴィナイ(T)・・・ジークムント
ヨーゼフ・グラインドル(Bs)・・・・フンディング
ゲオルギーネ・フォン・ミリンコヴィチ(A)・・・・フリッカ、他
(第一チクルス)
ジークムント:ラモン・ヴィナイ
ジークリンデ:グレ・ブロウェンスティーン
ブリュンヒルデ:アストリッド・ヴァルナイ
フンディング:ヨーゼフ・グラインドル
ヴォータン:ハンス・ホッター
フリッカ:ゲオルギーネ・フォン・ミリンコヴィッツ他
バイロイト祝祭管弦楽団
ヨゼフ・カイルベルト(指揮)
録音:1955年8月 バイロイト祝祭劇場[ステレオ]
しばらく前から評判のカイルベルトが指揮した世界初のステレオ録音による指輪だが、私が本当に楽しみにしていたのはメードルがブリュンヒルデを歌ってヴァルナイがジークリンデを歌ったこの第二チクルスの方だ。1950年代のバイロイトは毎年指輪を2チクルスしか上演しなかった。1951年と1952年は2回ともヴァルナイが歌ったが1953年から1958年までの間、第1チクルスのブリュンヒルデはヴァルナイ、第2チクルスはメードルが歌った。
ヴァルナイもメードルはこの時期ジークリンデも歌っていた。特にヴァルナイにとってジークリンデはオペラデビューとなった役である。このため1954年の公演では第一チクルスでメードルがジークリンデを、第二チクルスでヴァルナイがジークリンデを歌いブリュンヒルデと入れ替わりにするキャスティングも実現した。しかし1953年はレズニック、1956年はブロウェンスティーン、1957年はニルソン、1958年はリザネクと、ジークリンデは別の歌手に2回とも歌わせていた年が多い。
この録音が行われた1955年も第一チクルスではブロウェンスティーンがジークリンデを歌っているのだが、どういう事情からか第二チクルスでは前年同様にヴァルナイがジークリンデに回るというキャスティングが実現し、メードル、ヴァルナイ、ホッターの3人が揃いぶみが録音されることになった。私が持っている「新バイロイト(冨山房)」という本ではブロウヴェスティンが2回とも歌ったことになっているので何らかの事情でヴァルナイに替わったのではないだろうか? 稀代のワーグナー歌手3人が揃ったこの第二チクルスの録音が商品化されたことはワーグナーファンにとって大変喜ばしいことだろう。
音が良いと宣伝されたこのシリーズだが、決して最新録音のようにはいかない。第一チクルスのワルキューレ第三幕のように音揺れが全くないという訳ではないし、ステレオの音場感もやや広がりを欠く。この録音は名プロデューサーだったヴィクター・オロフの助手だったピーター・アンドリーが行ったものだが、この録音のすぐ後の1955年11月にオロフとアンドリーがウイーンで行った「影のない女」の世界初録音ほどの水準には達していない。もしオロフが録音していればさらにすばらしい録音になったはずだがオロフはアンドリーやカルショーほどにはワーグナーに関心を示さず、もっぱらR.シュトラウスとモーツァルトの録音に功績を残した。
それでも音そのもの、特に舞台上の声は思いのほか良く録れている。テープの保存状態も良かったようだ。発売が見送られたためマスターテープが繰り返し再生されることなく倉庫に眠っていたことも経年劣化が少ない理由として挙げられそうだ。第一チクルスも第二チクルスもそれぞれ1発ライブだったにも関わらず演奏、録音ともにこれだけの品質を保てたことは称賛に値するだろう。同時期のEMIの録音や放送局の録音の品質を大きく引き離している。
とりわけヴァルナイとメードルのソプラノ時代の記録としてはこれまで発売されたどのCDよりも音の状態が良い。メードルはフルトヴェングラーに認められフィデリオやワルキューレでは正規録音があるにはあってカラヤンとのトリスタンとイゾルデなどの放送録音も一部商品化されている。フルトヴェングラーのイタリアでの指輪(放送用ライブ)にも参加していたが、いずれもモノラルで音は決して良いとは言えない。音が悪いとメードルの声は高い音がちょっと吠えているように聞こえてしまう傾向が少しあるので第二チクルスの指輪の発売は本当に楽しみにしていた。
なお余談だが、1幕幕切れでジークムントとジークリンデが倒れこむズドンという音はここでも聞こえるようだ。でもベーム盤のキングとリザネックほど大きな音では入っていないので注意して聞かないと分からない。
第二チクルスの神々の黄昏も発売されたがジークフリートは発売されないそうで大変残念だ。録音か演奏
に何か問題でもあったのだろうか? 第一チクルスの録音を使って修正してでも発売してほしいものだ。実際第一チクルスの神々の黄昏は一部で第二チクルスの録音を使って修正されているそうで、本当はウーデがグンターを歌っているところをホッターが歌っている箇所があるそうだ。
ホッターは有名なショルティ盤にも参加しているが、60年代にはだいぶ声が衰えてしまっていたので全盛期の50年代の録音がこのように良い音で聴けるのはたいへんうれしいことだ。ホッターの声はもともと老け声だったようで(失礼!)、晩年のショルティ盤やモノラルのクナッパーツブッシュ盤では正直どこが良いのか良くわからなかった。今回のカイルベルト盤を聞いて初めて「なるほど」と私は思った。
実はこのカイルベルトの指輪は私がHMVのコメントなどに発売希望を一所懸命書き込んでいたものだ(笑)。テスタメントはいい仕事をしてくれた。ただメードルは2001年に、ヴァルナイも2006年に、この録音を聞かずに亡くなってしまっている。もう少し早ければ....
ドイツ語だがメードルとベーレンスが対談している2001年の映像をユーチューブで見つけた。亡くなる直前の映像ということになりそうだ。
http://www.youtube.com/watch?v=4WGPXbEERWY&feature=related
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