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 ラモン・ヴィナイ(トリスタン)
 アストリッド・ヴァルナイ(イゾルデ)
 イーラ・マラニウク(ブランゲーネ)
 グスタフ・ナイトリンガー(クルヴェナール)
 ルートヴィヒ・ヴェーバー(マルケ王)、他
 バイロイト祝祭管弦楽&合唱団
 オイゲン・ヨッフム(指揮)
 録音時期:1953年
 録音場所:バイロイト祝祭劇場
 録音方式:モノラル(ライヴ)

アストリッド・ヴァルナイ(イゾルデ)
セット・スヴァンホルム(トリスタン)
ジェローム・ハインズ(マルケ王)
ヨゼフ・メッテルニヒ(クルヴェナール)、他
メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
ルドルフ・ケンペ(指揮)
録音:1955年3月19日 メトロポリタン歌劇場

FMやテレビで放送された音源を著作権者の許可を得ずに商品化した、いわゆる「海賊盤」はLP時代から存在していて、メジャーレーベルの名曲名演を表の名盤とすれば裏名盤とも呼べるほど愛好された演奏も少なくない。例えばザルツブルグ音楽祭の音源では54年のベームのアリアドネや57年のミトロプーロスのエレクトラ、59年のセルの魔笛、62年のカラヤンのトロバトーレなどが、バイロイト音楽祭の音源では50年代のクナッパーツブッシュやカイルベルトの指輪、52年のカラヤンのトリスタン、あるいは55年のクナッパーツブッシュのオランダ人などがその類のものだった。その多くはその後オルフェオやテスタメント、時にはDGやソニーのようなメジャーレーベルによって正規に復刻されて表の名盤として楽しめるようになった。おかげでヴァルナイやメードルのブリュンヒルデやメードルのイゾルデをまずまずの音質で聴くことができるようになった。

しかしヴァルナイがイゾルデを歌った1953年のバイロイトのトリスタンだけは、どういう事情からか各社の復刻リストから漏れており、いまだに裏名盤街道をばく進中だ(笑)。私の記憶ではこの演奏は80年代にすでにCD化されていたので20年以上も現役を続けている海賊盤だ。前年トリスタンを振ったカラヤンがバイロイトと決別したためヨッフムに指揮が回ってきたものだが、ヴァルナイのイゾルデともども前年の演奏に勝るとも劣らない演奏だと思う。私にはニルソンのイゾルデはどうも単調に聞こえてしまって、ヴァルナイとメードルが理想のイゾルデだ。

ヨッフムもところどころ思い切ったテンポの動かし方をしていて勢いを感じさせる演奏だ。ヨッフムは翌54年にはローエングリンも振っている(これも裏名盤歴の長い演奏)ほか、70年代にはブーレーズの後にパルジファルも指揮した実力者である。その割に、ワーグナー全曲の正規録音は1952年にDGに録音したローエングリンと1976年に同じくDGに録音したマイスタージンガーぐらいしか残っていないようだ。今回のアンドロメダ盤のCDは3枚に詰め込んだこともあって値段がかなり安くなったが(2000円前後)、1幕のフィナーレ直前で唐突に切れて2枚目に移るのでちょっとびっくりする。音質はこの手のものとしては上等なもので鑑賞に不自由はしない。特に声はよく入っている。ワーグナー好きなら聞いておいて損はないと思う。2枚の写真はこの53年のイゾルデだそうだ。

ヴァルナイのイゾルデには1955年のメットでのライブ音源もある。これは比較的最近の2005年になってこのワルハラ盤で初めてCD化されたようだ。1953年のバイロイト盤と比べて音のレンジが狭くAM放送を聞いているような感じだがそれなりに安定はしている。これもヴァルナイのイゾルデはなかなか圧倒的だ。こちらはスヴァンホルムがトリスタンを歌っている。バイロイト盤のヴィナイのバリトンのような声のトリスタンに違和感を感じる向きにはこちらの方がいいかもしれない。

ただし、2幕と3幕の演奏に一部カットがあったようで(あるいは録音が一部欠落していたのかも?)、2幕も3幕もたったの55分で終わってしまう。HMVのサイトがこの件にまったく触れていないのはちょっと不親切。ヴァルナイのイゾルデとしては一般的にはバイロイト盤の方が良いと思うがバイロイト盤を聞いて面白いと思った方はぜひこちらも聴いてみて欲しい。

余談だが、オテロ歌いとして名高くトスカニーニとの録音もあるヴィナイは60年代にはバリトンとしてイアーゴを歌っておりデル・モナコとダラスで共演したライブ録音があるようだ。ヴァルナイやリザネクのようにソプラノが後年メゾに転向する例は多いが、テノールがバリトンに転向する例はそれほど多くないと思う。最近ドミンゴがバリトンとしてシモン・ボッカネグラを歌ったそうなのでどんな演奏だったのか聞いてみたい。

 ヴァルナイのバイロイトの出演記録は下記アドレスを参照。
http://www.bayreuther-festspiele.de/fsdb_en/personen/381/index.htm

ヴァルナイのプロフィールも引用しておこう(HMVサイトより)

【プロフィール】
アストリッド・ヴァルナイは、1918年4月25日、ドイツ系フランス系ハンガリー人のコロラトゥーラ・ソプラノ歌手、マリア・ヤヴォール・ヴァルナイを母に、ハンガリー系オーストリア人テノール歌手で後にストックホルムとオスロの歌劇場で舞台監督を務めたアレクサンダー・ヴァルナイを父にスウェーデンのストックホルムに生まれますが、1920年、ヴァルナイが2歳の時に一家は、ノルウェーのオスロに移り、その後、アルゼンチンを経てアメリカに移住。彼女は最初ピアノを学びますが、ほどなく母親から声楽を学ぶようになり、やがてメトロポリタン・オペラの指揮者で声楽コーチでもあったヘルマン・ヴァイゲルト[1890-1955]に師事することになります(同氏とは1944年に結婚)。
 プロとしてのデビューは伝説的なものでした。1941年12月6日のメトロポリタン歌劇場、ラインスドルフ指揮する『ワルキューレ』のジークリンデ役に出演が予定されていたロッテ・レーマン[1888-1976]の急病による代役出演というもので、準備万端だった彼女は素晴らしい熱唱で応え、ラジオでの中継も加わって一夜にしてその名を知られることとなります。幸い、デビュー公演は中継録音が残されており、古い音の中からも彼女の抜群の表現力を聴きとることが可能です。なお、前年のレーマンのジークリンデはこちらで聴けます。
 さらにプロとしての2度目の公演もセンセーショナルなものでした。今度は同じ『ワルキューレ』のブリュンヒルデ役に出演のはずだったヘレン・トラウベル[1899-1972]の急病による代役出演でこれも成功を収めています。
 以後のヴァルナイはワーグナーを中心にメトで数多くの公演に参加、1955年に最愛の夫を亡くし、ルドルフ・ビングと決裂するまでのあいだ、200回に及ぶステージを務めます。そのエネルギーは海外にも向けられ、1948年にはヨーロッパを訪れ、コヴェントガーデンとフィレンツェ五月祭にデビュー、1951年にはバイロイト音楽祭に初登場。特にバイロイトの公演は大成功を収め、以後、1968年までの間に240回に及ぶ公演でその実力を証明し続けることとなるのは有名な話。以後の彼女はウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座など世界各地の劇場に出演して高い評価を獲得してゆきます。
 バイロイトでのヴァルナイは、ニルソンと並んでまさにワーグナー・ソプラノの最高峰でした。ヴァルナイの歌には、深く底光りするような独特の美しさを放つ声質に加え、あたりをはらう威厳から繊細なしなやかさ、濃厚な情念にいたるまで圧倒的な表現力が備わっており、オペラの進行とともにドラマを生き抜く実在感のすごさはニルソン以上と考えられます。
 そんなヴァルナイは、夫のヴァイゲルトが亡くなった1955年以降、50年以上に渡ってミュンヘンに居住していたこともあって、オペラ・ファンにはアメリカの歌手というよりはドイツの歌手といったイメージのほうが強いものと思われます。なお、メトに里帰りしたのは1974年の『イェヌーファ』で、最後の出演は、1979年のクルト・ワイル『マハゴニーの興亡』というものでした。
 1960年代に入るとヴァルナイは声の変化からドラマティック・アルトに転向、性格的な役柄に挑戦してその道でも成功を収めていますが、その様子がよくわかるのが何といってもカール・ベーム指揮する『エレクトラ』のDVDでしょう。ここでのクリテムネストラ役はまさに「怪演」であり、ドラマティック・ソプラノのヒロイン役からの鮮やかな変身ぶりにその劇場的才能の豊かさを実感させてくれます。ちなみに、最後のステージは、1995年、77歳の時だったということです。2006年9月4日、ミュンヘンの病院で永眠。

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