|
マーラー:大地の歌
レイノルズ(アルト)
トーマス(テノール)
クリップス指揮ウィーン交響楽団
1972年(ライブ・ステレオ)
最近の世代でマーラーの交響曲を振らない指揮者は稀だが、昔はマーラーは振らなかった、あるいは歌曲ぐらいしか振らなかった指揮者も多かった。フルトヴェングラーがフィッシャー=ディースカウとのさすらう若者の歌しか振らなかったのは有名な話だが、同様にクナッパーツブッシュやベームも(多分フリッチャイも)亡き子をしのぶ歌などの伴奏が少しあるぐらいだ。
もう少し若い世代のサヴァリッシュも、ピアノ版大地の歌を1989年に日本で世界初演するという偉業を成し遂げているにも関わらず、他にはF=Dのピアノ伴奏で歌曲を少し弾いているだけで指揮者としてはほとんど振っていない(助六さんの情報によると1967年に4番を振ったことがあるそうだ)。同様にシュタインもほとんど振っていないと思う。ワーグナーやブルックナー、あるいはR.シュトラウスの演奏では有名なこれらのドイツの名指揮者が意外にもマーラーの交響曲を振っていないのだ。
ドイツ系だけでなくミュンシュやモントゥー、あるいはクリュイタンスといったフランス系でもマーラーは歌曲しか振らなかった指揮者は多いし、ヨッフムやカルロス・クライバーのように、交響曲は(私の知る限り)振らなかったが大地の歌だけは振ったという指揮者も少なくない。実はカラヤンも(恐らくDGの要請で)1973年に初めて5番を録音する前は大地の歌しか振らない指揮者だった。最近の指揮者ではバレンボイムも2005年に7番を録音するまでは歌曲と大地の歌の録音しかなかった(実演では1番と5番をパリで振っているそうで、2007年には9番もベルリン・シュターツカペレで振っているが)。
さてクリップスとウィーン交響楽団の大地の歌はこの1972年のオルフェオ盤以外に1964年6月14日のヴンダーリヒ/F=Dとのライブ(モノラル)が最近DGから発売された。クリップスも大地の歌しか振らなかった人かと思っていたが、助六さんが伝記を調べて下さったところ、1964年の大地の歌の直前の5月24日にはヴィーン響で8番を演奏しており、他にも6番と7番以外は全部振ったことがあるそうだ。それは大変意外だ。でも大地の歌に対するクリップスのアプローチは交響曲としてではなく連作歌曲集としてのアプローチだと私は思う。
そもそも、このディスクを聴いてみたのはトーマスの大地の歌が聞きたかったというのがきっかけだったのだが、クリップスの指揮はトーマスの歌を邪魔しないように配慮していると私は思う。最近は雄弁なオケと軟弱なテノールによる演奏も多くなったので、そういう演奏に慣れた耳は70年代を代表するワーグナーテノールだったトーマスの雄弁な歌にびっくりしてしまうかもしれない。こういう大地の歌はなかなかもう聴くことはできないのではないだろうか。
かといってクリップスのオケが軟弱だという訳ではない。それどころかかなりいいのだ。クリップスは70年から亡くなる前年の73年までこのオケの芸術顧問を務めたが、このオケとの相性の良さを感じさせる名演だ。前任の首席指揮者だったサヴァリッシュはウィーンのオケとの相性はイマイチだったようだが、この演奏でのウィーン交響楽団は、知らなければウィーンフィルかと思うほど見事な復調ぶりだ。クリップスが高齢でなければもう少し長い間黄金時代が続いたことだろう。
アルトのアンナ・レイノルズはジュリーニや小澤の第九で名前は知っていたが、第九のアルトはソロらしいソロがないのであまり印象に残らなかった。バーンスタインのマーラーの8番(旧録)やリヒターのメサイアとバッハのカンタータなどの録音もあるようだが私は聞いていない。このため、まともに聞くのはこのディスクが初めてだが、ベイカーばりのしっかりした歌でこれもびっくりした。オペラのキャリアが長いクリップスだけあって、歌手を選ぶ目はさすがにしっかりしている。
このディスクはかなり地味な存在だとは思うが隠れた名盤と言っていいと思う。音質も優れている。
(追記)
ウィーン交響楽団の大地の歌はこの72年のオルフェオ盤と64年のDG盤以外にも、67年にクライバー指揮(ソロはクメントとルートビッヒ)の演奏がある。下記のユーチューブで聞くことができる。
http://www.youtube.com/watch?v=m_Qg7g3ehY8&feature=related
さらにハントが編纂したカイルベルトのディスコグラフィーによると、64年6月にカイルベルトとウィーン交響楽団との大地の歌が放送されたという記録がある(ソロは同月のクリップス盤と同じヴンダーリヒとF=Dとなっている)。しかし同年同月に同じオケとソリストが別の指揮者で演奏するとは考えにくいので、これはDG盤と同じクリップス指揮の誤りか、maskballさんがお持ちのカイルベルトの同年4月のバンベルクでの演奏の誤りかどちらかだろう。その64年4月のカイルベルトとバンベルクとされる海賊盤の演奏もDG盤のクリップスのウィーン交響楽団の演奏と同じでないかどうか確認する必要がありそうだ。
ヴンダーリヒのディスコグラフィーを書いた下記HPにも64年6月14日のウィーン交響楽団の演奏をカイルベルト指揮としている情報は誤りと書いてある。
http://www.andreas-praefcke.de/wunderlich/discography/lvde_kri.htm
|