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・マーラー:大地の歌(作曲者によるピアノ伴奏版)
 ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)
 トーマス・モーザー(テノール)
 シプリアン・カツァリス(ピアノ)
 録音:1989年9月
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2664344

・マーラー:大地の歌(シェーンベルクとリーンの編曲による室内楽版)
 フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮アンサンブル・ミュジク・オブリク、
 レンメルト(A)、ブロホヴィッツ(T)
 録音:1993年4月
http://www.hmv.co.jp/product/detail/930622
(追記:ユーチューブに何曲かアップされているのを見つけた)
http://www.youtube.com/results?search_query=Herreweghe+mahler+erde&aq=f

 まず作曲者自身によるピアノ版大地の歌は、オケ版の編曲ではなくオケ版と並行して作曲された別の作品で、オケ版とは小節数や音、歌詞が一部で異なるほか、第3曲から第5曲の表題が変えられているそうだ。下記HPによると例えば第5曲の「春に酔う人」(ピアノ版では「春に飲む人」)では、第4連の「春」の語の3回の繰り返しを2回に減らしている、第6連一行目の繰り返しがオケ版では単純な繰り返しだがピアノ版では変化がついているなどの違いがあるそうだ。でも楽譜を入手して比べないとこの違いを音だけで聞き分けるのはなかなか難しいと思う。
(梅丘歌曲会館HP)
http://homepage2.nifty.com/182494/LiederhausUmegaoka/songs/M/Mahler.htm

 マーラーの死後、ピアノ版の自筆譜は妻アルマが所持していたが、アルマは1950年代に画商のオットー・カリルに贈り、これをステファン・ヘフリングが校訂したものが1989年にマーラー全集の補巻として出版された。これによりオケ版とピアノ版との比較研究が可能になり、1990年に出版されたオケ版のクリティカルエディションにはその成果が反映されているそうだ。

 世界初演は、1989年5月15日の東京(国立音楽大学講堂)で、ヴォルフガング・サヴァリッシュ(ピアノ)、マリャーナ・リポブシェク(アルト)、エスタ・ヴィンベルイ(テノール)によるものだった。その時の映像がニコニコ動画にアップされているのでアカウント登録すれば見ることができる。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7558099

 同年9月に録音されたこのディスクは世界初録音だ。ピアノ版の初演が日本であったことも、カツァリスが録音したことも当時から知っていたが、私はこの頃はこの曲を交響曲として聞いていたのでまるで関心がなかった。しかし最近は歌曲として聞くようになったので、であればピアノ伴奏もいいかもと思って聞いてみた。やはりいい。世界初演を聞き逃したのが大変残念だ。マーラー自身が残したこのバージョンを聴けば、この曲は歌曲であることにだれしもが同意するのではないだろうか。オケの音に耳を奪われずに歌に集中できるのでこの歌の本来の姿がよりはっきり伝わる。これで1000円なら激安だ。

 同時期にモーザーはショルティ盤で、ファスベンダーはジュリーニ盤でも歌っているが、声を強く張り上げる必要がないので、オケ版とは多分だいぶ違う歌なのではないだろうか。ショルティ盤やジュリーニ盤と聴き比べもしてみたくなった。ピアノ版はこれ以外に3種類あるようだ。ラーデマン盤のようにアルトの代わりにバリトンを起用した演奏はオケ版でもあるが、アルトの代わりにソプラノの西松甫味子が歌った盤は珍しい。また、ソプラノの平松英子が独唱で全曲を歌った珍しいバージョンの演奏もある。下記HPで試聴できるのでぜひ聞いてみてほしい。

・西松甫味子(S)伊達英二(T)古川泰子(P)(音楽之友社 1992)

・ベルンハルト・ベルヒトルド(テノール)ヘルミーネ・ハーゼルベック(メゾ・ソプラノ)
 マークス・フォルツェルナー(ピアノ)(Avi 2008)

・ロバート・ディーン・スミス(T)イヴァーン・パレイ(Br)
 シュテファン・マティアス・ラーデマン(p) (Telos Records)

・平松英子 (sop)野平一郎 (pf)(ミュージックスケイプ 2002)
http://www.musicscape.net/cd/mscd0012j.html

 一方の室内楽版大地の歌は、シェーンベルクがウィーンの保守的な批評家や聴衆に対抗するため新ウィーン学派の作曲家を集めて1918年に発足させた「私的室内楽協会(私的演奏協会)」(恐らく会員制の予約演奏会のようなものだろう)のコンサートのために編曲されたものだ。だが、シェーンベルクは1920年に編曲を開始したものの冒頭のスコア21ページ分を書いただけで未完に終わってしまい、1983年になって音楽学者で指揮者のライナー・リーンが加筆して完成させた。楽譜はユニバーサル(ウニヴェザール)出版から出版されているそうだ。編成はフルート(ピッコロ持ち替え)1、オーボエ(イングリッシュホルン持ち替え)1、クラリネット(バスクラリネット持ち替え)1、ファゴット1、ホルン1、パーカッション3、ハルモニウム(チェレスタ兼)1、ピアノ1、弦5部各1だ。

 この手の編曲物は以前聞いたマーラー編曲のバッハの管弦楽組曲が微妙だったのでこれまで敬遠していたのだが、これはいい。オケ版とピアノ版の良いとこ取りを狙ったようなこういうアプローチは、結局どっちつかずでどちらの良さも失ってしまうことの方が多いように思う。しかしこれはオケ版の色彩感とピアノ版の透明感の両方を兼ね備えている。

 室内楽の澄んだ響き、しかし打楽器なども使ってほどほどに華やかな響きがオケ版以上にエキゾチックで、ある意味で東洋的な虚無の空間を作り出している。1930年頃の西洋化され始めた頃の上海あたりのサロンの雰囲気だ。知らなければマーラー自身の編曲だと言っても気がつかないのではないだろうか。室内楽版大地の歌はこのヘレヴェッヘの演奏を含めてすでに13種類ものディスクがあるようだ。マーラー自身のピアノ版よりもはるかに多く録音されているという事実は驚くべきことだ。これはこの手の編曲物としては異例の大ヒットではないだろうか。ピアノ版はやっぱり渋すぎるという方にもぜひお勧めしたい。

 私は選んだヘレヴェッヘとブロホヴィッツの演奏は1992年のアンサンブル・ケルン盤に続く2番目の録音で、現在出ているのは再発の廉価盤だ。ヘレヴェッヘとシェーンベルクやマーラーはなかなか結び付かないので(最近自主レーベルでマーラーをピリオドオケと録音し始めたようだが)、こんなに早い時期にシェーンベルク編曲のマーラーを取り上げていたとは大変意外だ。ブロホヴィッツはオケ版ではこの曲を録音していないと思うが、彼のようなそれほど重たくない声のテノールでも歌えるのは室内楽版のメリットと言えるだろう。

 期待通りの内容で大変満足しているが、これだけ良いと他の演奏も聞きたくなってきた。ゾッフェルもオケ版での大地の歌をまだ録音していないと思うがルイジ盤で歌っているので聞いてみようと思う。ルイジ盤は弦5部を数人ずつに増員しているそうなので、これは「室内楽」というよりは「室内オケ」と言うべきだろう。きっと室内楽版のヘレヴェッヘ盤ともフルオケ版とも違った響きがするだろう。


(追記)
 室内楽版は日本でも2005年のOEK(オーケストラアンサンブル金沢)など演奏の機会が増えているようだ。下記のファンページによると、この時の演奏はソプラノ(白井光子)とテノールによる演奏で、ルイジ盤同様に弦5部を14台に増員した「室内オケ」版だったそうだ(4−4−3−2−1)。フルオケ版にはアルトの代わりにバリトンでも良いという指定があるが、ソプラノを使っている演奏は私が知る限りない。もし録音が残っていたらぜひCD化してほしい。
(OEKファンページ)
http://oekfan.web.infoseek.co.jp/review/2005/1111.htm

 私はチェックし損なったが、2008年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでも演奏されたそうだ。指揮はフランソワ=グザヴィエ・ロト、オケはオーケストラ レ・シエクル、メゾソプラノはイザベル・ドリュエ、テノールはパスカル・ブルジョワというフランスメンバーだ。下記ブログによるとオケは弦楽器を増員した「室内オケ」ではなく、楽譜通り各1台の「室内楽」だったようだ。
http://blog.goo.ne.jp/lfj_gw/e/a29d33e560e5515a3f7d6b12fe54f607

 イギリス在住の方が作られている下記サイトの情報によると、バリトン版の大地の歌を積極的に歌っているハンプソンも今年の2月に室内楽版を採り上げたそうだ。指揮はパッパーノでテノールはフォークトだ。このブームはもはや本物だろう。
http://mblog.excite.co.jp/user/dognorah/entry/detail/?id=16000584
At Gadgan Hall on 27 February 2011
Orchestra of the Royal Opera House
Antonio Pappano: Conductor/Piano
Thomas Hampson: Baritone
Klaus Florian Vogt: Tenor

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