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ベーム没後30年はあまり盛り上がらなかった。77年のウィーンでの影のない女の映像(音だけCD化されている)や80年のブレゲンツでの第九の映像など見てみたい映像がまだまだたくさんあるのに残念だ。
・モーツァルト作曲 交響曲第25番、29番
ベーム指揮ウィーンフィル
(1973、1978)
http://www.youtube.com/results?search_query=mozart+bohm+29
http://www.youtube.com/results?search_query=mozart+bohm+25
演奏する上で最適なテンポはオケの人数や会場の規模によって変わる。作曲家にとって楽譜にメトロノームの指定を残すことはもろ刃の剣だと思う。ロマン派以降のシンフォニーにはメトロノームの指定があるものが多いが、それでもブラームスやブルックナーのように敢えて残さないのも一つの見識だ。
古典派以前のほとんどの楽譜にはメトロノームが指定されていない。ベートーヴェンの交響曲についてはすでに耳が聞こえなくなっていた晩年になって新聞記事に掲載したものが楽譜に引用されているケースがあるが、ベートーヴェンのメトロノームが正確だったかどうかという議論はともかくとして参考値ぐらいに捉えるべきだろう。
このため、古典派以前の音楽をどのようなテンポ感で演奏するべきかは楽譜から推測するほかない。マタイ受難曲において8分の12拍子を3つ振り×4に振る(つまり3倍に引き延ばす)スローな演奏がつい20年ぐらい前までは常識的だったのは有名な話だ。8分の12拍子だからといって8分拍子を1つに振っていた訳ではなかったのだ。同じように考えると4分の4拍子だからといって4つ振り(4分拍子を1つに振る)が正しいという訳ではないということになる。
ベームが指揮したモーツァルトの29番は一部の評論家が大変高く評価している演奏だが、今にして聞くとやはり遅いなあという感じは否めない。幸いこの曲はベームが指揮した映像が残っているので、それがなぜなのか分かった。ベームはこの曲の第一楽章を4つ振りで振っているのだ。現在良く聞かれるもっとスイスイしたテンポの演奏は恐らく2つ振り(2分拍子を1つに振る)で振っていると思う。2つ振りを基準にすればベームの指揮は2倍に引き延ばしていることになるのでこんなに遅くなるのだ。
25番の第一楽章や第四楽章も4分の4拍子で書かれているが、面白いのはベームがこの曲の場合は第一楽章を2つ振りで、第四楽章を4つ振りで振っていることだ。つまりベームは意図的に振り分けているのだ。時に遅く感じられる曲があっても、それは確信犯でやっているのであり、老化で遅くなったなどと言う性質のものではないのだ。こういうことが後から検証できるのも映像の良いところだ。
楽譜はIMSLPを参照
http://imslp.org/index.php?title=Category:Mozart%2C+Wolfgang+Amadeus&from=S
(追記)
上記IMSLPにもあるように旧全集の楽譜では29番の第一楽章と25番の第四楽章を4分の4拍子となっているが、これは誤りで現行の新全集では改訂されているとcherubinoさんが教えてくださった。そうするとここはやはり2つ振りでもっと速く振るのが正しい。リヒターが3倍伸ばしで振ったマタイと同様にベームの29番は現時点から振り返れば正しいテンポとは言えないということになりそうだ。
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