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・ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 Op.99
 レオニード・コーガン(ヴァイオリン)
 キリル・コンドラシン(指揮)モスクワ・フィル
 1968年
http://www.youtube.com/watch?v=2og9Ue1WYEY

 ショスタコーヴィチは私にとって未だ謎めいた作曲家で、「自分はこの曲を知っている」と自信を持って言えるのは実のところ、交響曲の1番、5番、10番、それにオペラの「ムツェンスクのマクベス夫人」ぐらいのものだ。7番や14番、それに「森の歌」などは「ふ〜ん。こんな曲もあるんだ」ぐらいの聴き方しかしていない。このヴァイオリン協奏曲第一番は最近比較的に良く取り上げられるようだ(確かハーンの初来日もこの曲だったと思う)。私がよく理解しているとはとても思えないが、それでもこれは良い演奏だと思う。

 この曲は戦後間もない1948年に作曲されたが、オイストラフとムラヴィンスキーにより初演されたのはスターリン没後の1955年になってからのことだ。この曲は作曲者からオイストラフに献呈されているが、コーガンも得意にしていたようで、今日紹介した1968年の映像以外に1964年のスプラフォンへのスタジオ録音と複数のライブ録音が出ていた。LP時代はオイストラフとコーガンの演奏しか出ていなかったと思う。

 先日紹介したハチャトリアンもそうだが、コーガンはオイストラフのほとんどのレパートリーをカバーしている。オイストラフとコーガンの個人的な親交は厚かったようだが、ソヴィエト上層部に厚遇されたオイストラフに比べてやや扱いの低かったコーガンはコンプレックスを持っていたのではないだろうか? もしコーガンがソヴィエト崩壊後まで生きていれば生の言葉が聞けただろうに。

 1968年の映像は全盛期のコーガンの集中力の高い演奏が楽しめる。この難曲をコーガンは暗譜で演奏しているだけでなく、ほとんどずっと指揮者を見ていて、自分の指先はほとんど見ていない。指揮者とオケが映るのは第四楽章のオケの間奏の部分だけでほとんどはコーガンをアップで写し続けているという変わった映像だが、しかし曲と演奏の性格を考えるとそれは正しいように思える。この演奏は前回紹介した1951年のハチャトリアンと共にコーガンがいかに素晴らしいヴァイオリニストだったかを示す貴重な記録と言えるだろう。

 クレーメルの父親もヴァイオリニストだそうだが(wikiによるとドイツ系ユダヤ人でナチスのホロコーストから奇跡的に生還したらしい)、クレーメルの自伝には父親が大のコーガンファンだったのでコーガンの演奏を数多く聞きに行ったこと、コーガンはアウアー門下の大先輩であるハイフェッツを意識していたことなどに触れている。

 確かにこの演奏のテンションの高さと超絶技巧はハイフェッツもかくやと思わせる。しかしハイフェッツの演奏が時に(ハイフェッツはこの曲を弾いていないが)、ヴァイオリンだけ一人歩きしてしまうのに対して、コーガンの演奏は常に作品に対する謙虚さが感じられるのは個性の違いだろう。なお、楽章の間にはコーガンのレッスン風景などが挿入されるので日本語字幕はありがたい。よく国内盤が出た物だと思う。卓見だ。

 この曲の第一楽章がなぜノクターンなのか、第三楽章のパッサカリアが何を意味するのかは不勉強にして存じ上げないが、この曲が戦後まもなく完成されていることを考えるとおそらくは戦争を意識しているのだろう。スターリン没後の雪解けムードになってから初演したのはスターリンに反戦メッセージと受け取られることを恐れたのではないだろうか。私はこのパッサカリアを聴きながら戦争と同時に昨年の震災のことを思い浮かべた。

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