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先週末はちょうど年度末だったのでほとんどのテレビが特番だった。土曜は天気が悪かったので偶然家でテレビ東京の「タクのタクシー」という番組を見た。これはフレンドシッププロジェクトという企業タイアップ企画のドラマで、今回のテーマは「絆」だそうだ。桜色をしたタクシーに乗る「世界一ついていないタクシー運転手」の、おかしくも最後はちょっと悲しいストーリーだ。自分についていないことがあっても、それで何か人が幸せになれればそれでいいじゃないか、という気持ちには共感できる。私は楽しめた。4月14日までネットで全編見ることができる。ぜひ見てほしい。
http://friendship-project.jp/
・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
録音:1976年
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1418513
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:レナード・バーンスタイン
録音:1982年9月、ウィーン(ライヴ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4095860
http://www.youtube.com/watch?v=UkIULqYxiPU
http://www.youtube.com/watch?v=JgR8VPFZj-4
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
ニコラウス・アーノンクール(指揮)
録音:1996年(ライブ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1914834
以上 ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
クレーメルの西側のデビュー録音がこのカラヤンとのブラームスだったため、クレーメルと言うとこの曲という印象は強い。最新の「名曲名盤」ではハイフェッツ、オイストラフに次いで3位にバーンスタイン盤が入っているが、実はアーノンクール盤も5位に入っており、カラヤン盤にも1票(2点)入っている。
この3種類の録音を聞き返して、クレーメルが時代によって、また伴奏オケによってかなり異なる演奏をしていることに改めて気がつく。先日紹介したシベリウスにおける77年盤と82年盤の違い、およびシューマンにおける82年盤と94年盤の違いがここでも当てはまるのだ。
つまり76年のカラヤン盤はオケともどもオーソドックスに余裕をもって構えた演奏だが、82年のバーンスタイン盤はもっと血気盛んな(言ってみれば「躁鬱」の躁の)前衛的な演奏だ。96年のアーノンクール盤はやはり鋭角的ではありつつも気分的にはもっと落ち着いた、というか沈んだノリ(言ってみれば「躁鬱」の鬱)の演奏だ。これはアーノンクールのピリオドアプローチっぽいオケに合わせたものでもあるだろうが、クレーメル自身の音楽性も変化しているのは間違いないだろう。
クレーメル自身は自伝でカラヤン盤の録音に不満を述べている。すぐにバーンスタイン盤を作ってしまったのはそのためかと思っていたが、しかしこうして3種類を聞いてみると、再録音の動機としてはクレーメル自身の音楽が70年代、80年代、90年代と変化してきたことの方が大きいように思う。自伝には80年代以降のことはほとんど触れられていないのでどのような心境の変化だったのかは分からないが、恐らくは名声を確立し自信をつけた70年代、西側の自由にウキウキした80年代、西側の現実はそんなに理想的ではないことを思い知る90年代と言ったところか。
私もカラヤン盤はかなり久しぶりに聞き直したが決して悪い演奏ではない。クレーメルが不満を述べているのは録音の仕方に対してであってカラヤンの音楽についてではないのだ。カラヤン盤でクレーメルは、「これはマイクリハーサルだ」と聞かされていたそうで、演奏会当日にマイクが片付けられているのを見て唖然としたそうだ。カラヤンとしては、緊張しているクレーメルに「これから録音する」と言えばさらに緊張して本領を発揮できなくなると思ったのだろう。カラヤンらしいやり方ではある。クレーメルからすれば、本番と言ってくれればもっと集中力の高い演奏ができたはず、と言いたいのだろうが。
それではどれが一番良い演奏か? これは難しい。オーソドックスなこの曲のイメージを大事にするならカラヤン盤だし、バーンスタイン盤の熱っぽい演奏も捨てがたい(バーンスタイン盤の評価が高いのは日本の評論家のクレーメルのイメージがこの頃にできあがったためだろう)。しかし一番クレーメルらしいのは実はアーノンクール盤なのではないだろうか。
ヴァイオリンは歌う楽器であるにも関わらず、クレーメルは敢えて歌わせない(助六さんのおっしゃる「反Vn的Vn演奏」)弾き方をするのでピリオドアプローチとの相性はとても良い。ヴァイオリンを流麗に歌わせようとする普通のヴァイオリニストがストラディバリウスを好むのに対して、クレーメルが楽器をグァルネリやアマティに変えてしまったのもそのためだろう。
ピリオドアプローチに対する好き嫌いは分かれるだろうし、一聴してポキポキした感じに聞こえるヴァイオリンに違和感を感じる人もいるだろうが、カラヤン盤やバーンスタイン盤しか聴いていない人にはぜひアーノンクール盤も聴いてみてほしい。
クレーメルは次はピリオド・アプローチではなく、いっそのことマジのピリオドオケと共演してみたらどうなのだろうか? 4度目の録音もあり得るような気がする。
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