こだわりクラシック Since 2007

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 クラウディオ・アバドを追悼してベルリンフィルが17本の動画を期間限定で無料公開している。内容は以下の通りで、いずれも放送など何らかの形では公開されてきたものだがDVD化されていないものも多く含まれている。
http://www.digitalconcerthall.com/ja/info/claudio-abbado


・ヨーロッパ・コンサート1991/プラハ
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《ドン・ジョヴァンニ》より序曲・アリア〈ひどいですって?〜ああ言わないで、愛しい人〉 (16:52)
交響曲第29番イ長調 K. 201 (25:04)
コンサート・アリア〈あなたを私が忘れるですって?〜心配しないで〉 K. 505 (11:23)
交響曲第35番ニ長調《ハフナー》 K. 385 (23:44)

・ヨーロッパ・コンサート1994/マイニンゲン
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第5番変ホ長調《皇帝》 (43:08)
ヨハネス・ブラームス
交響曲第2番ニ長調 (43:26)

・ベルリン・フィル東京公演
モデスト・ムソルグスキー
《はげ山の一夜》 (18:31)
イゴール・ストラヴィンスキー
《火の鳥》組曲(1919年版) (24:49)
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
交響曲第5番ホ短調 (52:40)

・ヨーロッパ・コンサート1994/サンクトペテルブルク
セルゲイ・プロコフィエフ
《ロメオとジュリエット》からの抜粋(モンタギュー家とキャピュレット家・5つのカップルの踊り・百合の花を持った娘の踊り・ティボルトの死) (19:21)
セルゲイ・ラフマニノフ
歌劇《アレコ》からのカヴァティーナ (8:00)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ロマンス第1&2番 (14:16)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
交響曲第7番イ長調 (40:17)
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
《くるみ割り人形》より〈花のワルツ〉 (8:10)

・ドキュメンタリー『音楽に続く静寂』

・ジルベスター・コンサート1996/ダンス&ジプシー
ヨハネス・ブラームス
ハンガリー舞曲第1&10番 (06:24)
ヨハネス・ブラームス
《ジプシーの歌》作品103より第1曲〈さあ、ジプシーよ〉 第2曲〈高く波立つリマの流れよ〉 第3曲〈知っているかい〉 第4曲〈神様、お分かりですね〉 第9曲〈どこへ行っても〉 (07:23)
モーリス・ラヴェル
演奏会用狂詩曲《ツィガーヌ》 (10:58)
ヨハネス・ブラームス
ハンガリー舞曲第7番 (03:25)
ヨハネス・ブラームス
ハンガリー舞曲第17&21番 (05:04)
ヨハネス・ブラームス
《ハープが豊かに鳴り響く》 (04:00)
ヨハネス・ブラームス
《愛の歌》より抜粋 (12:33)
モーリス・ラヴェル
管弦楽のための舞踏詩《ラ・ヴァルス》 (13:59)
ヨハネス・ブラームス
ハンガリー舞曲第5番 (02:50)
エクトル・ベルリオーズ
《ファウストの劫罰》より〈ラコッツィ行進曲〉 (06:09)

・ブラームス「ドイツ・レクイエム」

・ジルベスター・コンサート1997/トリビュート・トゥ・カルメン
ジョルジュ・ビゼー
《カルメン》より前奏曲・ハバネラ・闘牛士の歌・にぎやかな楽の調べ · 花の歌・合唱と場面 (28:05)
セルゲイ・ラフマニノフ
パガニーニの主題による狂詩曲 (23:56)
パブロ・デ・サラサーテ
カルメン幻想曲 (11:42)
モーリス・ラヴェル
スペイン狂詩曲 (16:04)
マヌエル・デ・ファリャ
《恋は魔術師》より〈火祭りの踊り〉 (04:40)
ヨハネス・ブラームス
ハンガリー舞曲第5番 (03:55)

・ヨーロッパ・コンサート1998/ストックホルム
リヒャルト・ワーグナー
《さまよえるオランダ人》序曲 (11:32)
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
交響的幻想曲《テンペスト》 (23:02)
クロード・ドビュッシー
夜想曲 (23:10)
ジュゼッペ・ヴェルディ
《聖歌四編》 (41:34)

・ジルベスター・コンサート1998/愛と憧憬の歌
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《フィガロの結婚》より序曲・アリア〈とうとう嬉しい時が来た〜恋人よここに〉 (10:02)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《ドン・ジョヴァンニ》よりセレナード〈窓辺においで〉 (02:32)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《魔笛》より二重唱〈愛を感じる男の人たちには〉 (03:14)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《ドン・ジョヴァンニ》よりシャンペンの歌・二重唱〈お手をどうぞ〉 (05:21)
ジョルジュ・ビゼー
《アルルの女》組曲よりカリヨン・ファランドール (08:14)
ジョアキーノ・ロッシーニ
《泥棒かささぎ》序曲 (09:37)
ジュゼッペ・ヴェルディ
《リゴレット》より二重唱〈それは心の太陽〜さようなら〉・アリア〈慕わしい名〉・女心の歌 (12:42)
ジュゼッペ・ヴェルディ
《仮面舞踏会》よりアリア〈お前こそ心を汚す者〉 (04:48)
エクトル・ベルリオーズ
《ローマの謝肉祭》序曲 (08:50)
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
《エフゲニー・オネーギン》よりポロネーズ・手紙の場〈たとえ死ぬことになっても〉 (19:21)
ジュゼッペ・ヴェルディ
《椿姫》より乾杯の歌 (04:24)

・カラヤン・メモリアル・コンサート:モーツァルト「レクイエム」
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
《墓標の音楽》K. 42より〈この心を見て私に問え〉・《証聖者の荘厳晩課》K. 339より〈ラウダーテ・ドミヌム〉 (10:49)
レクイエム(フランツ・バイヤーとロバート・レヴィンによる校訂版) (51:31)

・ジルベスター・コンサート1999/グランド・フィナーレ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
交響曲第7番イ長調より第4楽章 (10:11)
アントニン・ドヴォルザーク
交響曲第8番ト長調より第4楽章 (09:58)
グスタフ・マーラー
交響曲第5番嬰ハ短調より第5楽章 (15:48)
イゴール・ストラヴィンスキー
《火の鳥》(1919年版)より〈カスチェイ王の魔の踊り〉・こもり歌・終曲 (12:25)
モーリス・ラヴェル
《ダフニスとクロエ》より〈全員の踊り〉 (05:23)
セルゲイ・プロコフィエフ
《アレクサンドル・ネフスキー》より〈アレクサンドルのプスコフへの入場〉 (05:16)
アルノルト・シェーンベルク
《グレの歌》より〈見よ、太陽〉 (11:49)
パウル・リンケ
喜歌劇《グリグリ》より序曲・《フォリー・ベルジェール》行進曲・督促ギャロップ (12:49)
ジークフリート・トランスラテュア
スポーツ宮殿ワルツ (06:27)
エルンスト・フィッシャー
〈スパークリング・シャンペン〉 (03:10)
オットー・ニコライ
《ウィンザーの陽気な女房たち》序曲 (09:13)
ヴァルター・コロ
〈菩提樹の木陰にいる限り〉 (03:45)
パウル・リンケ
ベルリンの風 (05:50)

・ベートーヴェン「交響曲第1〜8番」

・ベートーヴェン「交響曲第9番《合唱》」

・ジルベスター・コンサート2000/ヴェルディ万歳!
ジュゼッペ・ヴェルディ
《仮面舞踏会》より〈彼女は天を見つめる〉・〈諸君 ウルリカの家で〉・〈見よ この夜に〉・オスカルのカンツォーネ (13:45)
《ドン・カルロ》より〈王妃の舞踏会〉
《リゴレット》より〈あれかこれか〉・女心の歌
《椿姫》より乾杯の歌・〈花から花へ〉 (08:57)
《ファルスタッフ》より第1幕第2場 (15:00)
《ファルスタッフ》より第2幕第2場 (11:16)
《ファルスタッフ》より第3幕フィナーレ (17:36)
ヨハン・シュトラウス
《仮面舞踏会》によるカドリーユ (05:47)

・ベートーヴェン「合唱幻想曲」&メンデルスゾーン「交響曲第2番」

・ヨーロッパ・コンサート2002/パレルモ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
《エグモント》序曲 (00:10:07)
ヨハネス・ブラームス
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 (41:13)
アントニン・ドヴォルザーク
交響曲第9番ホ短調《新世界より》 (46:45)
ジュゼッペ・ヴェルディ
《シチリアの晩鐘》序曲 (13:34)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウディオ・アバド

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・ヴェルディ:レクイエム
 マーガレット・プライス(ソプラノ)
 ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
 ホセ・カレーラス(テノール)
 ルッジェーロ・ライモンディ(バス)
 エディンバラ祝祭合唱団
 ロンドン交響楽団
 クラウディオ・アバド(指揮)
 収録:1982年、エディンバラ国際音楽祭(ライヴ)

 朝日新聞やNHKのニュースが既報の通り、イタリアの名指揮者クラウディオ・アバドが1月20日に亡くなった。アバドは1977年から1986年までミラノ・スカラ座の芸術監督を、1986年から1991年までウィーン国立歌劇場の音楽監督を、1990年から2002年までベルリンフィルの芸術監督を務めた。パリやロンドンでもオペラにコンサートに活躍し、これだけ欧州中で成功を収めた指揮者はカラヤン以降いなかったと言っていいだろう。2000年の胃ガン手術を経てなおルツェルン音楽祭を中心に活躍を続けていたが、昨年体調を崩し10月に予定されていた日本公演をキャンセルしていた。予定されていたプログラムはヴァントの最後の来日と同じシューベルトの7番とブルックナーの9番の組み合わせで、恐らく日本のファンへの告別の意味が込められていたのではないだろうか。

 私が思うに日本におけるアバドの最大の功績は1981年のミラノ・スカラ座の初来日を成功させたことだと思う。ヴェルディのシモン・ボッカネグラとレクイエム、ロッシーニのセヴィリヤの理髪師で名演を披露し、そればかりかクライバーという気むずかしい同僚にボエームとオテロを振らせたのは芸術監督として骨の折れる作業だったに違いない。私がヴェルディのレクイエムのテレビ放送を食い入るように見ていたのはもう33年も昔のことだ。この年のスカラ座の公演と前年1980年のウィーン国立歌劇場の初来日がなければ日本でこれほどオペラが普及することはなかったのではないだろうか。

 残念ながら1981年の日本公演の映像は商品化されていないが(NHKは昔の映像の商品化を止めてしまったのだろうか? DVDでもNHKオンデマンドでもいいから見られるようにしてほしい)、翌1982年にイギリスのエディンバラで演奏したこの映像もそれに準ずる出来映えだ。特にカレーラスとライモンディはこの時期アバドやカラヤンがこぞってこの曲に起用した顔ぶれだ。アバドの1991年のウィーンでの演奏もこの2人が歌っていてそれも良い演奏だが、映像が付くとよりリアルに感じられる。特に病に倒れる前のカレーラスのみずみずしい声は印象的だ。全曲終了後長い沈黙があってから拍手が起こるが、アバドは全精力を使い切って放心したようにニコリともしないのが逆に印象的だ。

 この演奏はLDやVHDで80年代当時から良く知られていたが国内盤のDVDは出ていないようだ。私が持っているDVDはリージョンコードが1なのでリージョンフリー対応のDVDでないと再生できない。

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R.Strauss:Salome

Hans Beirer | Herodes
Gertrude Jahn | Herodias
Leonie Rysanek | Salome
Bernd Weikl | Jochanaan
Josef Hopferwieser | Narraboth
Axelle Gall | Ein Page der Herodias
Heinz Zednik | Erster Jude
Wolfgang Witte | Zweiter Jude
Kurt Equiluz | Dritter Jude
Karl Terkal | Vierter Jude
Reid Bunger | Fünfter Jude

Heinrich Hollreiser | Dirigent
Boleslaw Barlog | Inszenierung
Jürgen Rose | Bühnenbild und Kostüme
(1980年10月、NHKホール)
http://www.youtube.com/watch?v=G2VED30EM8g

 これは見つけ物だ! ウィーン国立歌劇場初来日時のバルロク演出、ローゼの舞台・衣装によるクリムト風サロメをついに見ることができた。この舞台は1972年の初演以来40年に渡って現役を続ける長寿プロダクションで昨年日本でも再演された。青いライトによる暗目の舞台で金色にキラキラした感じは思ったよりもしなかったが、この作品に対する一つの模範的・究極的な回答だと思う。長寿を続けている人気が分かったような気がする。

 この80年の時点ですでに初演メンバーは主役のリザネクのみになっており、ヘロデはホップからバイラーへ、ヨカナーンはヴェヒターからヴァイクルに代わっているが、いずれも初演メンバーに劣らない素晴らしい歌唱だ。初演時のライブ録音は以前紹介したが、特にヘロデはホップだと少し正気に聞こえるのでサロメに取り憑かれた感じがするバイラーの歌唱は大変好ましい。

 リザネクがウィーンでサロメを歌ったのはこのプロダクションが最初で、72年の初演以来38回歌った。この1980年の来日公演では歌も演技も十分体に染みこんだサロメになりきっている。サロメは昔は手を上げてぐるぐる回っているだけの演奏も普通だったそうだが、この演出では明らかに振り付け師が踊りをつけていると思う。下に白いレオタードのようなものを着ていて素っ裸にはならないのだが、それを知っていても「あと2枚」などと枚数を数えている自分が情けないが(笑)、そのくらい妖艶な演技だ。ヨカナーンとキスをするシーンが控え目なのを除けば現代の演出と比べ何も劣らない。

 リザネクは来日公演で3回歌ったが(アームストロングとのダブルキャストだった)、それ以後は翌81年に4回歌っただけでサロメを卒業してしまったので、この映像はその意味でも大変貴重だ。ちなみに余談だが、ウィーンの公演記録によるとリザネクの出演回数は「ばらの騎士」の元帥夫人の61回(!)とトスカの53回(!!)が突出して多いのが大変興味深い
http://db-staatsoper.die-antwort.eu/search/person/2473

 ホルライザーの指揮も大変的確で初演時のベームに劣らない。ホルライザーはカラヤンの「ばらの騎士」やベームの「フィガロの結婚」の予行演習となる公演を振らされて、下積み・下請けの印象が強いが、大変な実力者だったと思う。カラヤンやベームが不在でもウィーンが高い水準を維持できたのはホルライザーがいたからだ。私もウィーンの1989年の来日公演でパルジファルを聞いたが、実に巨匠風の説得力の強い演奏だった。

 このサロメの映像は「フィガロの結婚」に続いてDVD化されるものとばかり思っていたが、それは未だに実現していない。翌81年のクライバーの「ボエーム」、「オテロ」と並んで後世に残さなくてはならない人類の遺産だ。

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(2014年9月にクラシカジャパンが映像、音声ともにデジタル処理で大幅に改善した素晴らしいニューリマスター版を放送したので末尾に追記した)

今年は馬年です。飛躍の年です。人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま:幸福や不幸は予想のしようがないこと)とも言います。良い年になるよう辛かったことも肥やしにして精一杯頑張ります。

・R.シュトラウス:楽劇『ばらの騎士』Op.59
 元帥夫人:エリザーベト・シュワルツコップ(S)
 オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ(S)
 ゾフィー:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
 オックス男爵:オットー・エーデルマン(Bs)
 ファーニナル:エーリッヒ・クンツ(Br)
 歌手:ジュゼッペ・ザンピエーリ(T)
 マリアンネ:ユーディト・ヘルヴィヒ(S)
 ヴァルツァッキ:レナート・エルコラーニ(T)
 アンニーナ:ヒルデ・レッセル=マイダン(A)
 警部:アロイス・ペルネルストルファー(Bs)
 侯爵家の家令:エーリヒ・マイクート(T)
 ファーニナル家の家令:ジークフリート・ルドルフ・フレーゼ(T)
 公証人:ヨーゼフ・クナップ(Br)
 料理屋の主人:フリッツ・シュパールバウアー(T)
 調理師:ハンス・クレス(T)
 帽子売り:メアリー・リチャーズ(S)
 動物売り:クルト・エクヴィルツ(T)
 楽師たち: ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団員
 ウィーン国立歌劇場バレエ団
 ウィーン国立歌劇場合唱団

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
 収録:1960年8月、ザルツブルク祝祭大劇場
 演出:ルドルフ・ハルトマン
 装置:テオ・オットー
http://www.youtube.com/watch?v=HAw4iDDWby8

 今年はR.シュトラウス生誕150年でありカラヤン没後25年でもある。カラヤンとシュヴァルツコップの映画「ばらの騎士」が本来はデラ=カーザを主役に制作された舞台だったのは大変ショックではあるが、しかしその事実が日本で広く知られるようになったのは映画が公開されて何十年も経ってからであり、この映画が飛び抜けて素晴らしい出来映えであることには何の変わりもない。

 舞台裏でのバタバタを感じさせない完璧な仕上がりはどのように実現したのかと思っていたが、どうやら「映画はシュヴァルツコップで」というのはカラヤンサイドでは半年以上前に決まっていたようなのだ。シュヴァルツコップが元帥夫人をウィーンで初めて歌ったのはこの年の1月で(指揮はワルベルク)、しかもその公演の主役4人はこの映画と全く一緒なのだ。これは映画の撮影に向けた予行演習だったと考えて間違いないだろう。この年シュヴァルツコップがザルツブルグで元帥夫人を歌ったのは8月6日の1回だが、このキャストでの映画化は事前に周到に計画されていたようだ。

 M.F.さんに教えて頂いたウィーンの出演記録によると、シュヴァルツコップがウィーンで歌った20回の元帥夫人は1960年1月から1965年2月の5年間に集中している(シュヴァルツコップがザルツブルグで元帥夫人を歌っていた期間とほぼ一致する)。
http://db-staatsoper.die-antwort.eu/search/person/2628

 これはデラ=カーザがウィーンで歌った43回もの元帥夫人が1955年12月から1973年10月の実に18年に渡るのとは大変対照的だ。「ウィーンの元帥夫人」としてはデラ=カーザの方がシュヴァルツコップより4年も先輩であり回数も多いのだ。
http://db-staatsoper.die-antwort.eu/search/person/641

 しかしザルツブルグの予行演習らしきデラ=カーザの公演日は残念ながら見あたらない。デラ=カーザとエーデルマン、ユリナッチの3人が出演した公演が5回あるが、この3人の組み合わせは1957年5月4日にすでに実現しているので(指揮はベーム)、1960年のザルツブルグでの公演とは関係ないと思われる。
http://db-staatsoper.die-antwort.eu/search/person/1357+736+641/work/160

 さらに意外なことにカラヤンがウィーンでばらの騎士を指揮したのは1962年6月の1回のみだ。しかしカラヤンは1964年までウィーンの総監督だったので、1960年のザルツブルグ音楽祭の開幕に合わせてシュヴァルツコップを元帥夫人としてウィーンに登場させたのはカラヤンだと考えて間違いない。カラヤンはシュヴァルツコップとエーデルマン、ユリナッチによるばらの騎士を1952年にスカラ座でも上演しているが、この3人が揃ってウィーンの舞台に立ったのは6回のばらの騎士だけで、そのうちの3回が1960年の前半に集中している。「ウィーンの名歌手によるばらの騎士」を映画化するにはこの3人でウィーンの舞台に立つ必要があったのだ。
http://db-staatsoper.die-antwort.eu/search/person/736+1357+2628/work/160

 ただ「映画はシュヴァルツコップで」という話が事前にデラ=カーザ側に伝わってしまうとデラ=カーザがザルツブルグ音楽祭の祝祭大劇場こけら落とし公演自体をキャンセルしてしまう可能性もあったため、カラヤンサイドから言い出せないまま映画の撮影が始まってしまったのだろう。デラ=カーザが自分のための舞台なのだから映画も自分が主役と思っていたのは当然で、大変に気の毒な結果になってしまった。

 ウィーンの6月3日の公演(指揮はホルライザー)ではゾフィーがギューデンに替わっているので、この時点で映画のゾフィーをローテンベルガーにするかギューデンにするか判断した可能性もある。ザルツブルグ音楽祭の開幕公演はギューデンが歌ったが、歌に加えて演技力や他の3人とのビジュアル的なバランスも考えて映画ではローテンベルガーが起用されたのだろう。

 助六さんの情報によると1959年頃シュヴァルツコップはこのばらの騎士を巡ってカラヤンとの間にも意志の疎通がうまくいっていなかった(シュヴァルツコップが「元帥夫人に歌わせなかったらザルツブルグ音楽祭の他の公演を全部キャンセルする」と脅したのに対して、カラヤンは「そんなことをしたらウィーンとミラノから閉め出す」と応報したらしい)ようだが、いくつもの思惑のすれ違いを乗り越えて、このような名演が映画として残された奇跡に感謝したい。

 NHKがカラヤン生誕100年の2008年に横長ワイドスクリーンのハイビジョン版を初めて放送したがフィルムの経年劣化による画像のノイズはそのままで、音声はモノラルだった。この演奏は現在ブルーレイ(輸入盤)でも入手可能だがこれもモノラルだそうだ。音声に関しては映像フィルムとは別に残されていたマルチサウンドトラックから新たにステレオリミックスして映像に同期させたDVD盤(現在は廃盤)の方が良かった(このステレオ版の件については2008年3月に別の記事を書いたのでそちらを参照されたい)。
http://blogs.yahoo.co.jp/takatakao123/17561986.html

(追記)
 2014年9月にクラシカジャパンが放送したハイビジョン版はDVD盤同様にステレオリミックス音声を映像に同期させている。しかも映像、音声ともにデジタル処理により大幅に改善している。フィルムの経年劣化による画面上のノイズはきれいに取り除かれ、NHKの放送やDVD盤よりもはるかにクリアな映像と音声でこの名演を楽しめる。音声は特に高音が劇的にクリアになったのでソプラノ3人の対比がより明確に聞き取れるようになった。この映画を最高の状態で見ることができて、ヤマハホールで見たときの感動が蘇って涙が出そうだ。ぜひこの素晴らしいバージョンによる国内盤ブルーレイ化を希望したい。
http://www.classica-jp.com/program/detail.php?classica_id=CITV1401

 なおこの映画の音声に関しては1960年8月6日のザルツブルグ公演のライブ録音とする資料もあるようだが、私はそれには否定的だ。映画のフィルムが丁度入れ替わるカット割りのシーンで演奏がいったん途切れており、明らかに後から映像を合わせることを前提に演奏されているからだ。恐らくライブ上演とは別に映画のサントラ用に収録されたもので、今回リミックスされたマルチトラック音声はその際に残されていた物だろう。

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