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ピアノ:デビット・オーエン・ノリス
デビット・ロイド・ジョーンズ指揮BBCコンサート管
DUTTON CDLX7148
山野楽器でエルガーのバイオリン協奏曲の楽譜がオイレンブルクのポケット版で出ているのを見つけた。ラス1だった。あってよかった。第一楽章はアレグロ(1拍=100)、第二楽章はアンダンテ(1拍=52)、第三楽章はアレグロ・モルト(1拍=138)でいずれも結構速めのテンポが指定してある。きまじめな人らしくメトロノーム指定が入っているのは予想していた通りだ。
ハイフェッツ盤(指揮はサージェント)は判を押したようにほとんど指定通りのテンポだ。楽譜を見ると、特にこの曲の第一楽章と第三楽章のソロは超人的に難しいということも改めて分かる。このテンポで演奏するのはかなり大変なはずだが、楽譜の指定を守ることに対するソリストと指揮者の執念を感じさせる演奏だ。
他の演奏との時間差が余りにも大きいのでひょっとしたらハイフェッツはどこかカットしているのかもと思って目を皿にして楽譜を追ったが1小節も削除はなかった。ということは最近の遅い演奏の方が楽譜と違うことをやっているということだ。どことなく日本的な懐かしさを感じさせる第二楽章もこのくらいのすっきりしたテンポの方が冴え冴えとした哀愁が感じられて好ましいと私は思う。
第一楽章でソロが出てくるまでの長い序奏は第一バイオリンと第二バイオリンが両翼配置を前提に書かれていることも良く分かった。ハイフェッツはモノラルだし、パールマンはアメリカ型のシカゴ響なので気がつかなかった。楽譜を見ると本当にいろいろなものが見えてくる。
さて本日メインで取り上げるのはエルガーのもう一つの協奏曲だ。シベリウスとエルガーは遅れてきたロマン派という点でも、バイオリンの名手でバイオリン協奏曲の名曲を残したという点でも共通すると書いたが、晩年になって作品をあまり発表しなくなってしまった点でも共通している。
決して創作意欲を無くしてしまったわけではなく、シベリウスは第八交響曲を少なくとも1度は完成させたし(そして自らの手で破棄した)、エルガーも交響曲第三番とピアノ協奏曲、それに歌劇の作曲に取りかかっていた。しかしこれらの作品が結局発表されなかったのは彼らが晩年に自己批判が強くなっていたためのようだ。著名な作曲家として成功してしまった故に次の作品を発表するのが難しくなってしまったのだ。
シベリウスが何度目かに書き始めた第八交響曲の草稿は遺言通りに遺族の手によって破棄されたが、エルガーの場合はかなり多くの草稿とSP録音が残されたという点は大きく違った。このピアノ協奏曲はロバート・ウオーカーの補筆により完成されたもので全曲で36分という大作だ。
この曲の草稿が新たに発見され、この作品を復元するまでを追ったBBCのドキュメンタリーが先日テレビで放送され、私はこの曲の存在を初めて知った。音楽ドキュメンタリーというと普通は曲は断片的にしか収録されていないケースが多いが、この番組は最後に全曲の演奏が納められていた点でも感心した。そういえば先日とりあげたデュ・プレのエルガーのチェロコンチェルトも1981年のドキュメンタリーの最後に1967年の全曲演奏を収録するという形をとっていた。これがイギリス流なのだろうか?
ウオーカー補筆によるピアノ協奏曲は、完成度としてチェロ協奏曲やバイオリン協奏曲に及ばないのは当然としても、全然取るに足らない曲ではないと思う。少なくともエルガー特有のまったりした情感は出ているのではないだろうか。マーラーの第十交響曲のように多くの人が補筆完成に取り組んだりするようになれば面白いのだが。草稿をぜひ公開してほしいものだ。
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