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・プッチーニ:歌劇『マノン・レスコー』全曲
レナ−タ・スコット(S:マノン)
プラシド・ドミンゴ(T:デ・グリュー)
パヴロ・エルヴィラ(Br:レスコー)
レナート・カペッキ(B:ジェロント)、他
メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団
ジェイムズ・レヴァイン(指揮)
演出:ジャン=カルロ・メノッティ
収録:1980年3月29日 メトロポリタン歌劇場[ライヴ]
(ユーチューブで全曲見られるようになったのでアドレスを追記しておく)
http://www.youtube.com/watch?v=o0H3oTKNPII
ドミンゴが全幅の信頼を寄せていたのではないかと私が思うもう一人のソプラノはスコットだ。フレーニが幼馴染のパバロッティは当然のことドミンゴともカレーラスともうまく合わせたのに対して、フレーニより一世代上に属するスコットはカラスやテバルディの時代の「大プリマドンナ」の気質を残しているので、合わない人とは合わない。
77年のメットのボエームでパバロッティと決別したのは有名な話だし、カレーラスとの共演も以前紹介した東京での73年の椿姫があるが、それ以外はあまり聞かない。カレーラスが出演した82年のゼフィレッリ演出のメットのボエームではミミではなくムゼッタに回ってしまったほどだ(これはこれで面白いが)。テノールではドミンゴとクラウスがスコットのお気に入りだったようだ。
マノン・レスコーという作品はマスネが先にオペラ化していたにも関わらずプッチーニが強く作曲を希望し、彼の出世作になった作品だ。しかし、いわゆる三大傑作(ボエーム、トスカ、蝶々夫人)やトゥーランドットほどの人気は一般的にはないようで、レコード芸術などのいわゆる名曲名盤にも取り上げられた試しがない。「三部作」を一つと数えれば10しかない彼の作品の中では、西部の娘や三部作と並んで二番手グループということになろうか。
間奏曲や1幕のマノンのアリアなどは結構な曲なので私もそれなりに聞いてはいたが、「絶世の美女にして悪女」というキャラクターは個人的に苦手なのと(笑)、しっくり来る演奏をなかなか見つけられなかったため「持ってはいるけれども」程度の聞き方しかしてこなかった。
(トスカもそうだが)フレーニはこのマノンという役が好きだったようで2種類のCDを残している。しかし残念ながらいずれも録音が残響過多で音像が遠いように私は思う。きれいだが「人ごと」のように聞こえてしまって真に迫ってこない。83年のシノーポリ盤ではフレーニの声もまだこの役には少し細いように聞こえるし、90年のレヴァイン盤はフレーニがこの役を歌うにはちょうどいいタイミングだったはずだが大変残念だ。フレーニは確か86年のウイーンの来日公演でもこの役を歌ったはずだが私は高校生だったので残念ながら聞いていない。きっと良い演奏だったと思うが聞かれた方がいらしたら教えて頂きたい。
映像ではこのスコット/ドミンゴのメット盤はカナワ/ドミンゴのコヴェントガーデン盤と並んでLD時代から出ていたものだ。そういう意味では特に目新しい映像ではないのだが、私は「マノンのイメージとしてはカナワの方が合うかな」という思い込みでコヴェントガーデン盤の方しか見ていなかった。ルックスとしては確かに合っているし1幕は良い演奏だが、マノンという役は幕が進むにつれてかなりドラマティックな歌が要求されるのでカナワの声では細いように私は思う。
ドミンゴは得意にした役の一つだし、シノーポリが指揮するオケはなかなかドラマティック、珍しくプッチーニを演出したゲッツ・フリードリヒによる舞台も見栄えがするが、主役がこうだとやはり「人ごと」のように聞こえる。昔LDで出ていたMETのスコット/ドミンゴ盤のDVDが国内盤で出たら見ようかなあと思っていたところにデアゴスティーニが出してくれた。
結果は大変期待に応えてくれるものだった。スコットは(大変失礼ながら)美女でも美声でもないが、でもこのマノンは大変リアルに真に迫ってくる。2幕のドミンゴとの長大なデュエットも「この曲らしい演奏に初めて出会えた」と思える演奏だ。マノンは蝶々夫人やトスカと並んできっとスコットが得意とした持ち役の一つだったに違いない。デュエットの直後に人が入ってきたところで「せっかくいいところだったに、全くもう!」という感じのしぐさがおかしくて聴衆が笑っている。
レヴァインの指揮も10年後の妙に落ち着いたCDとは打って変わってみずみずしい。作曲家でもあるメノッティの演出は無難でフリードリヒのような特徴はないがとりあえず安心して見られる。CDやDVDで手に入るこの曲の演奏としては最もこの曲らしい演奏だと思う。この曲が確かに名曲だと思えるようになった。1980円なら見ていない方はぜひお勧めしたい。なお1幕のドミンゴの小さいアリアの後で拍手の中断がある。メットはこういうのがお好きみたいだがこれは良くないと思う。
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