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フェドーラに続いてはアンドレア・シェニエ。ジョルダーノが好きなのです。これは1981年のウイーンの映像。海賊ビデオでは以前から評判だった演奏だが2005年になって正規商品化された。主な配役は以下の通り。
シェニエ:プラシド・ドミンゴ
マッダレーナ:ガブリエラ・ベニャチコヴァー
ジェラール:カプッチルリ
コワニー伯爵夫人:フェドーラ・バルビエリ
指揮:ネッロ・サンティ
演出:オットー・シェンク
http://www.youtube.com/results?search_query=chenier+santi&search=Search
アンドレア・シェニエは私が最も好きなオペラの一つである。実在の詩人がモデルの主人公が自由と愛のために死んでいくなんて格好良すぎる! 幕末武士のような潔さを感じてしまうのはきっと私だけではないだろう。こういう理想主義的なキャラクターは大好きだ。
そしてこの作品をよりドラマティックにしているのが革命家ジェラールの存在だ。初めはシェニエへの嫉妬に燃えるが、やがてわかり合い最後はシェニエの手引きをするまで、人間としての精神的な成長が描かれている。ドン・カルロのロドリーゴと並んで私がもっども好きなバリトンのキャラクターだ。
このディスクでそのジェラールを見事に演じているのがカプッチルリ。1幕冒頭の「ジェラールのモノローグ」で「召使いの子は召使い」と貴族階級を恨む歌がある。聞き手に作品の背景を伝える口上のような役割を果たしているのだが、ここでのカプッチルリはのっけから壮絶だ。この歌はこんなに印象的な歌だったろうかと驚いてしまった。怒りというよりは呪いのようだ。聞いていてゾクゾクする。
http://jp.youtube.com/watch?v=7u7t1p2uMUA
それでいて決して粗野にはなっていない。ジェラールは社会に恨みを持ってはいるが、教養ある人間でなくてはならない。ドラマティックでありつつスタイリッシュというギリギリの線を極めた点でカプッチルリに比較できるのはバスティアニーニぐらいだろう。
ドミンゴも素晴らしい。この作品は1985年のスカラ座の映像が昔から有名なのでカレーラスの印象が強かったが、ドミンゴも負けずに格好いい。カレーラスやパバロッティと比較した場合のドミンゴの凄さは、ドイツ物やロシア物にも及ぶレパートリーの広さもさることながら、卓越した演技力にあると私は考える。
オペラ史上で見てもドミンゴの演技と比較できるのはシュバルツコプフの元帥夫人(バラの騎士)とカラスのトスカぐらいではないだろうか。ドミンゴと比較するとパバロッティやカレーラスの映像は時にして突っ立っている印象を持つことがある(生の舞台の距離で見ると決してそんなことはないのだが...)
ドミンゴはまさにビジュアル時代の申し子と言えるだろう。映画で喋々夫人、トスカ、椿姫、カルメン、カバレリア/道化師、オテロに次々と出演したもの納得できる。パバロッティの映画はリゴレットぐらいだし、カレーラスはボエームの映画用サントラがあるが、映像は完成したのだろうか?
ドミンゴとカレーラスは競って同じ役を取り上げることがしばしばあった。2人はレパートリーがほぼ重複するので当然とはいえ、70年代はドン・カルロ、80年代はアンドレア・シェニエ、90年代はロリス(フェドーラ)と、同じ時期に同じ役を頻繁に取り上げたのは決して偶然ではないだろう。
カラヤンとドミンゴは映画版の蝶々夫人で始めて共演し、1975年のドン・カルロのプレミエはドミンゴだった。しかし翌年はドミンゴは別の契約が先にあって出演できなかった。カラヤンはその後カレーラスを起用することが多くなり、ドミンゴとの競演は録音のみの共演でカラフ(トゥーランドット)とリッカルド(仮面舞踏会)、ライブでマンリーコ(トロバトーレ)があったぐらいだろう。カラヤンのドン・カルロを歌えなくて残念だと日本のインタビューで答えていたのを読んだことがある。
実際カレーラスとの間には確執もあったそうだが、カレーラスが白血病に倒れるとドミンゴは匿名で基金を作り治療費を援助したそうだ。これを機にカレーラスとドミンゴは和解し、パバロッティを加えて1990年に始まった3大テナーコンサートも元々はカレーラスの快気祝いという性質のものだったらしい。フレー二もそうだが人を本当に感動させられる歌手は人間ができている。
指揮をするサンティはイタリアの名匠で60年代からイタリア国内のみならずメットやウイーンなど国際的に活躍しているが、これまでなぜか良い録音に恵まれなかった。レコードはドミンゴの道化師があったぐらいだろう。LDで西部の娘やアッティラ、ルチアなどが出ていたが、ここに来てチューリヒでの映像が何点もDVD化されるようになったのは喜ばしい。このウイーンでの映像もスカラ座のシャイーの指揮よりも優れていると私は思う。
年代の割に音質・画質とも良好でこの曲のベストの座は当分揺るがないだろう。というかこれ以上の演奏がありえるのかどうか。ユーチューブこの素晴らしい演奏の一端を味わってほしい。
なお余談だが実はサンティとカプッチルリにはこの映像と同じ1981年にジュネーブ(?)で上演したリゴレットの映像がある。私が正規発売を長年希望しているものだが、先日ユーチューブに一部が掲載されているのを発見した。私ははじめて見たがリゴレットにはスタイリッシュすぎるかもしれない(笑)
Valerie Masterson - Vendetta - Rigoletto
http://www.youtube.com/watch?v=asdB8sO3ewY
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