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(この映画についてはカラヤン没後25年の2014年1月に別記事を書いたのでそちらも参照されたい。)
http://blogs.yahoo.co.jp/takatakao123/41155121.html
元帥夫人:エリザーベト・シュワルツコップ(S)
オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ(Ms)
ゾフィー:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
オックス男爵:オットー・エーデルマン(Bs)
ファーニナル:エーリッヒ・クンツ(Br)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
収録:1960年8月、ザルツブルク、祝祭大劇場
演出:ルドルフ・ハルトマン
装置:テオ・オットー
監督:パウル・ツィンナー
(ドリームライフ DLVC1183)
有名なこの映像は1960年夏のザルツブルグ祝祭大劇場のこけらおとし公演を収めたもので、音声(8月6日のライブする資料もある)に後から映像を合わせた映画として制作された作品だ。1954年にフルトヴェングラーのドン・ジョバンニを制作したツィンナー監督が制作した。1980年頃まで銀座のヤマハホールなどで繰り返し上演されていた。恐らく私のその後の人生を狂わせた思い出の映画だ(笑)。
この映像はLDとVHSでも発売されていたが、版権の問題でこれまでDVDはPAL盤しか出ていなかった。ようやく発売されたこのNTDC版のDVDだが、オーケストラの音声がステレオ化されていて驚いた。HMVのサイトで「ステレオ効果を加えた」と紹介されてしまったため疑似ステレオだと誤解されているようだが、これは真性のステレオだと思う(ただしオケのみがステレオで歌手の声は中央に定位している)。
HMVの商品紹介
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1222652
今月号の某雑誌で評論家の山崎浩太郎氏が同じようなことを書いている。山崎氏はHMVの無代紙に「ウイーン/60」という連載を書いていた頃から注目していた。私と世代が近いせいか感性が近いようだ。最近も東京MXのカラヤン特集の解説や、ジョン・カルショーの本の翻訳などでご活躍だ。
山崎浩太郎氏のサイト
http://www.saturn.dti.ne.jp/~arakicho/
ただこの音声はステレオ音源が新たに発見されたのではなく、オケのみがマルチトラックで記録されていた別録りの音声を2チャンネルにトラックダウンしたのではないだろうか。歌手の声はほとんどモノラルのままだ。もしも初めから2チャンネルで収録された音源が発見されたのであれば歌手の声も左右に広がるはずだ。マルチトラックから2チャンネルの音源を今回新規に作成して映像と合わせたのだと思う。このため「ステレオリミックス」という表現が正しいだろう。
マルチトラックの録音テープが後でステレオにリミックスされたケースは他にもあり、例えばEMIのビーチャムのボエームはこの映像とは逆に歌手のみがマルチトラック、オケはモノラルで記録されていた。このためこのボエームのステレオ盤CDは歌手のみ真性ステレオ、オケは疑似ステレオになっている。
さてこのバラの騎士だが、演奏はもう何もいうことはないくらい有名なものだ。この映像と同様にエーデルマンのオックス、シュヴァルツコプフのマルシャリンで録音されたEMIのフィルハーモニア盤はデニス・ブレインの流麗なホルンが素晴らしく、EMI盤にも若干の未練はある。しかしこの映像はユリナッチのオクタヴィアン、ローテンベルガーのゾフィー、それにウイーンフィル、まずは申し分ないだろう。
シュバルツコプフはこの後何年もザルツブルグ音楽祭でマルシャリンを歌うが、実はこの年に歌ったのは8月6日の1回だけだ。こけら落とし初日の7月26日を含めて他の5回の公演はデラ・カーザが歌っている。
表情の濃厚なシュヴァルツコプフに比べデラ・カーザは淡泊だと言われているが、私はデラ・カーザの方がよりウイーン的だと思う。このため初日のライブCD(DG盤)も好きな演奏だが、こちらの録音はゾフィーがギューデンになってしまう。
う〜ん、ゾフィーはローテンベルガーかポップでなければならない(きっぱり!)。ギューデンも決して悪くはないが、シュトラウスの音楽にはちょっと小娘すぎるように思う。この年の公演でギューデンがゾフィーを歌ったのは初日のみだ。ということは初日と8月6日以外のすべての公演(8月4,13,18,28日)はデラ・カーザとローテンベルガーの組み合わせだったのだ。この組み合わせで記録が残らなかったのは大変残念だが、まあそれは無い物ねだりだろう。
シュヴァルツコプフの音楽は特に60年代以降急速に濃厚になるが、この年はまだそれが過剰には感じられない。デラ=カーザの映像も見てみたかったが、ユリナッチのソプラノによるオクタヴィアンとの対比なども考え合わせるとシュヴァルツコプフで映像を収録したのは恐らく正しい選択だったのだろう。
3幕フィナーレでマルシャリンが登場するところの音楽はワルキューレ3幕の「ウオータンの別れ」の影響を受けていると私は思うが、シュヴァルツコプフのマルシャリンは実に堂々とした貫禄だ。3重唱の直前でそっと涙をぬぐう仕草まで演技が実に練り上げられている。愛する人との別れを心では泣きながら毅然として送り出す姿は美しい。私はフィナーレの3重唱でいつも泣いてしまうので学生時代に家でLDを見るときは家族がいない時間を見計らって見ていたものだ。
エーデルマンも本当に素晴らしい。オックスは世俗的かもしれないがそれでも貴族の端くれ。みっともない場面でも気品を保った愛される人間でなくてはならない。もしオックスが下品な人間だったら逆ギレしてマルシャリンに逆襲するようなことだって考えれる微妙なシチュエーションだ。しかしそのようなことはあり得ない。マルシャリンはレルヘナウ家の人間がそんな不粋なことはしないと分かっているのだ。マルシャリンとのこのような心の機敏を表現できるのはエーデルマン以外にはいない。
ただしこのDVDは音は良くなったが映像がやや甘い感じでこの点は不満が残る。ひょっとしたらこのNTSC版のDVDは、フィルムから直接NTSCにコンバートしたのではなくPAL用の映像をNTSCにコンバートするというLD時代によく行われていた手法を用いて制作したのではないだろうか? あるいは全曲192分を1枚2層のDVDに詰め込んだせいか? 残念だ。
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