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マルトン
ファスベンダー
ヴァイクル
ツェドニク
メータ指揮BPO
(1990)
なるほど確かに助六さんのおっしゃるように40年代から50年代にかけてサロメ歌いで有名だったチェボターリやヴェーリッチュはエレクトラを歌うような声ではなかったようだ。シュトラウスが晩年好んだリリックなサロメとはこのような声を言うのだろうか? しかし50年代にはボルグ、ヴァルナイといったエレクトラ歌いもサロメを歌っており、この場合はサロメとエレクトラの相似性が強調される。(ゴルツはエレクトラを歌ったのだろうか?)
世代としてはチェボターリが1910年生まれ、ヴェーリッチュが1913年生まれなので、ゴルツ(1912年生まれ)やホルグ(1917年生まれ)、ヴァルナイ(1918年生まれ)とほぼ同世代だ。もともとはどちらのスタイルのサロメが主流だったのだろうか? 初演時や戦前のサロメ歌いはどのような声だったのだろう? メアリー・ガーデンがエレクトラを歌ったとは考えにくいのでやはりリリックなサロメが主流だったのだろうか? 録音に残っている最も古いサロメは1947年のクラウスのライブ(サロメはチェボターリ)で戦前の録音はない。サロメとエレクトラの戦前の演奏史を検証してみる必要がありそうだ。
サロメとエレクトラは1幕もののギリシャ悲劇という点では共通しているが、よく言われるほど似ている作品ではないと思う。エレクトラの方がはるかに前衛的かつ演奏困難で、サロメはもっと叙情的でロマンティックだ。90年代以降はマルフィターノなどエレクトラ歌いではない歌手によるサロメが多くなり、サロメとエレクトラの分業化が進んでいるように見えるのが面白い。サロメとエレクトラの演奏は今後どう変わっていくのだろうか。
さてこの録音でサロメを歌っているのはマルトンだ。エレクトラ歌いによるサロメとしてはニルソン、ジョーンズ、ベーレンスの後の新しい世代に属する。最近の軽めのサロメに聞きなれた方にはやや耳慣れないかもしれないが、十分立派な歌で重量級のサロメを新しいスタジオ録音で聞きたいという方には向いているだろう。ファスベンダーやヴァイクルも良い。ヘロデにはキャラクターテノールのツェドニクを起用して重量級サロメとの対比を大きくしている。
この録音はBPOが演奏していることでも注目される。BPOにとってシュトラウスの交響詩は大変重要なレパートリーを占め、フルトヴェングラー、カラヤン、アバド、ラトルみなこぞって演奏しているのだが、シュトラウスのオペラを全曲録音したのは恐らくこれが初めてなのではないだろうか? (ハイライトであれば以前紹介したデラ・カーザのアリアドネがある)
もちろんBPOは歌劇場のオケでないという事情はあるのだが、カラヤンもアバドもラトルもワーグナーなどのオペラでBPOを使うことは珍しくなくなってきている。録音だけであれば古くはビーチャムやベームの魔笛もあった。なので、シュトラウスのオペラを演奏する気になればできない話ではないだろう。ばらの騎士やアラベラをBPOで聞こうとは思わないが大型のオケを必要とするサロメかエレクトラか影のない女であればBPOで録音すればよいのではないかと思っていた。
この録音がどういう経緯で実現したのか詳しく知らないが、確かこの頃にメータ指揮で演奏会形式上演があったような記憶がある。BPOは期待に違わずシンフォニックで輝かしいサロメを演奏している。メータもシュトラウスの交響詩は早くからレパートリーに入れていたし、イタリアオペラは早くから取り組んでいたにもかかわらず、シュトラウスのオペラを録音するのはこれが初めてだったと思う。サロメの数ある名盤の中ではこの演奏はやや地味な存在のようだがもっと注目されて良い演奏なのではないだろうか。廉価盤でまだ入手可能なようだ。
ただ、願わくばこのキャストとオケでエレクトラを聞いてみたかったところだ。BPOの機能性が最大限発揮されるのはエレクトラだと思う。私がプロデューサーだったら絶対そうしたと思うが、マルトンとヴァイクルは同じ90年にサヴァリッシュとエレクトラを録音しているのでそれは無理だろう。サヴァリッシュとBPOは相性が良かったようなので、いっそのことバイエルン放送響の代わりにBPOを起用したら面白かったかもしれない。
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