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モツレク、フォルレク特集

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アメル社のネクトゥー/ドラージュ校訂による第二版(1893年版)がライセンスによりアルフォンス社のA.L.28.959としてポケットスコアで発売されているのを知った。ユーロが高かったせいもあってフルサイズ版は高すぎて買えなかったがポケットスコアはそこそこの値段なので(それでもかなり高いが)見てみることにした。

冒頭にある注釈はオイレンブルク版などにある校訂注というよりは演奏のためのアドバイスといった感じのもので主に編成について書いてある。「混声合唱を用いる場合は女声パートに少年合唱を加えると良い」と書いてある。以前私が指摘した通り、ガーディナー盤やヘレヴェッヘの旧盤の混声合唱+少年合唱という凝った編成は楽譜の指定だったのだ。「教会のような響きが望ましい」とも書いてある。私も以前、楽譜の指定通りの遅いテンポで演奏するには教会のような長い残響が必要だと書いた。ネクトゥー先生とは気が合うようだ(笑)。

このスコアを他と比較してみよう。対象は国内では全音が出版しているオイレンブルクの第三版クリティカル版(EE6643)と、ネットでダウンロードできるPhilip Legge氏校訂の第二版フルスコアだ。ネクトゥー/ドラージュ版をND、オイレンブルク版をEE、Philip Legge氏版をPLとしよう。
http://www.cpdl.org/wiki/images/e/ea/Faure_Requiem_FS_PML.pdf

合唱パートにおける第二版と第三版の違いについては既に下記のサイトに詳しくまとめられているので私は主にオーケストレーションにおける違いに注目して違いを比較しようと思う。
(ジュラシックさんのHP)
http://www.ne.jp/asahi/jurassic/page/faure.htm
(音楽雑学講座)
http://www001.upp.so-net.ne.jp/stellamusica/schola/faure.html

1.導入とキリエ(いずれも91小節)
(1)テンポ
NDとPLはLargo1拍=40 →  Andante Moderato1拍=72
EEはMolto Largo1拍=40 →  Andante Moderato1拍=72

(2)基本編成(ビオラ2部、チェロ2部、コントラバス、合唱4部、オルガン)に追加する楽器
NDは2ホルン、2トランペット、ティンパニ
PLは2ファゴット、4ホルン、2トランペット、ティンパニ(2ファゴットと2ホルンは小さい音符で書いてある)
EEは2ファゴット、4ホルン、2トランペット

(3)主な違い
・1〜17小節でEEのみオルガンなし、NDとPLはオルガンあり(若干異なるがほぼ同じ内容)
・1〜6小節と15〜17小節にPLのみティンパニあり(小さい音符で書いてある)、NDとEEはティンパニなし
・1小節と4小節でNDとPLは第二ビオラがオクターブ下、EEはビオラはトゥッティ
・9小節と11小節のluceatのatがPLとNDは1拍、EEは1拍半
・11小節〜17小節のホルンの音形がPLとEEで少し異なる、NDはPLに近い
・38、39小節のオケと合唱がNDはf、PLとEEはff
・45、46小節でPLとEEは2ファゴット、2ホルンあり(同じ音)、NDはなし
・49小節でNDはオルガンとオケがいきなりf、PLはpからfにクレッシェンド、EEはpからffにクレッシェンド
・52小節と54小節でEEはオケと合唱がff(オルガンも54小節はff)、PLとNDはf
・57〜62小節でPLとEEでホルンの音形が少し異なる、NDの2ホルンはPLに近い
・61小節と62小節のビオラの音形が3者で違う
・60〜61小節と77〜83小節はPLのみ小さい音符でティンパニが入る
・71〜74小節と86〜91小節にPLとNDはティンパニあり
・71小節と73小節でEEはオケ、オルガン、合唱ともff、NDはいずれもf、PLはオケとオルガンのみffで合唱はf

2.オッフェルトリウム(NDとEEは95小節、PLは94小節だが1小節目のアウフタクトを小節に数えるかどうかの違いで全体の長さは同じ)
(1)テンポ
いずれもAdagio Molto1拍=48 → Andante Moderato1拍=63 →  Adagio Molto1拍=48

(2)基本編成+バリトンソロに追加する楽器
NDは2ホルン、1ハープを追加
PLとEEは追加なし

(3)主な違い
・NDは35〜73小節でバリトンソロのバックに2ホルンと1ハープが入る、PLとEEは入らない

結構骨の折れる作業なので今日はこの辺にしておこう。第二版の方がシンプルかと思っていたが必ずしも一言では片付けられなさそうだ。NDはffが少なく全体に音量が控えめに見えるが1曲目の49小節のようにいきなりfで入る場所もある。PLは導入にもティンパニが加えられていることも注目だ。音で聞いてみたいものだ。

フォーレのレクィエムの第二版と第三版の違いについては以前、「一聴して誰にでも判別できるような違いは第二版ではバイオリンがソロになっていることと、ネクトゥー/ドラージュ校訂の第二版ではディエス・イレに入る前のホルンのリズムが違っていること、「導入とキリエ」と「リベラメ」にティンパニが追加されていることの3点ぐらいだ」と書いてしまったがネクトゥー/ドラージュ版を楽譜通り演奏すればかなり違った音楽になるようだ。

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ジャン・フルネが先日亡くなった。

ジャン・フルネ指揮
ロッテルダム・フィルハーモニー、
オランダ放送合唱団、
アメリング(ソプラノ)
クリュイセン(バリトン)
コルゼンパ(オルガン)
(1975年)

ジャン・フルネ指揮
鎌田直純(バリトン・ソロ)
水谷任佑(ボーイ・ソプラノ・ソロ)
東京少年少女合唱隊
日本フォーレ協会による男声合唱(テノール/バス)
日本フォーレ協会によるオーケストラ
絹村光代(オルガン)
(1998年)


この辺でフォーレのレクィエムの演奏形態をまとめておこう。合唱についてはおよそ以下の3通りになりそうだ。

1.聖歌隊(あるいは少年合唱+成人男声合唱)によるもの。女声合唱を含まない。
コルボの最初の録音(1972年)が有名だが、録音史上はウィルコックスがケンブリッジ・キングス・カレッジを用いて1968年に録音したEMI盤が最初のようだ。

2.成人のソプラノ、アルト、テノール、バスによる通常の混声4部合唱。
ほとんど全ての演奏。

3.成人による混声4部にソプラノとアルトのパートにボーイ・ソプラノとボーイ・アルトを加えた演奏。
1と2の間をとった凝った編成。ガーディナーとヘレヴェッヘがいずれもネクトゥー/ドラージュ校訂の第2版による演奏で採用している。

この3通りに、ソプラノ・ソロが女声かボーイ・ソプラノかの違いを掛け合わせると都合6通りの演奏形態があり、さらにオケが第2版で演奏するか第3版で演奏するかの違いも含めると都合12通りの形態が存在することになる。

しかし合唱を聖歌隊にした場合はソプラノ・ソロもボーイ・ソプラノにするのが自然だと考えられ、またその場合はオケも室内オケの第2版の方がバランスが良いと考えられるので現実的には選択肢はもっと限られる。つまり以下の3パターンにおよそ集約できるだろう。

1.聖歌隊(あるいは少年合唱+成人男声)による演奏はソプラノ・ソロもボーイソプラノ。オケはこじんまりとした第2版がふさわしい。

2.成人の混声4部合唱の場合はソプラノ・ソロも女声。オケはややスケールの大きい第3版がふさわしいが指揮者の趣味によっては第2版も考えられる。

3.成人の混声4部+ボーイ・ソプラノ(アルト)の場合は女声のソプラノ・ソロとボーイ・ソプラノが両方考えられる。この場合もオケはやはり第2版が向いているだろう。

レコード時代に壮麗なクリュイタンス盤(新盤)に満足しないリスナーによって愛好されたのがコルボの最初の録音とフルネの2度目(1975年)の録音だ。クリュイタンス盤が表の名盤だったとすればさしずめ「裏名盤」というところだ。コルボ盤がソロを含めて女声を含まない、当時としては珍しい編成(上記の1)だったのに対してフルネの2度目の録音は通常の編成(上記の2)なのでこちらを好む向きもあっただろう。

フルネは1967年から1973年までオランダのロッテルダム・フィルの音楽監督を務めたのでオランダ・フィリップスがこの再録音をオランダで行ったのは当然とも言えるが、旧盤より合唱は格段に優れており、教会的な雰囲気のある響きも好ましい。ただテンポ的にはどの曲も旧盤よりやや速くなっており流動感が強くなっている点が興味深い。ディエス・イレなどはかなり激しい表現だ。この曲としてはやや好き嫌いが分かれるかもしれない。

アメリングのソロはもしも第2版の演奏だったらもう少し器楽チック(あるいは古楽チック)な方がいいかもしれないがフルオケの第3版であればこのくらいでも良いだろう。オルガンは前回のデュリュフレに続いて今回もオランダの名手コルゼンパを起用しており、フルネはこの曲のオルガンにこだわりを持っているのかもしれない。ただしサンクトゥスはオルガンの音が大きすぎると思う。バリトンは旧盤ではモラーヌの優れた歌が聴けたが、クリュイセンに替わってしまったのは残念だ。この人はフレモーの録音にも参加していたが、抜いた声が今ひとつ。

フォーレのレクィエムを得意としたフルネはその後さらに3度再録音し、合計5種類の録音を残している。最後の2種は日本での録音だ。ひとつは1999年に日本フォーレ協会の企画によりカメラータ東京がスタジオ録音したもので少年少女合唱+成人男声合唱という珍しい編成の第2版による演奏だ。上記の1に近いが少女合唱を含めた変形、あるいは3の編成の成人ソプラノとアルトを少女ソプラノ、アルトに変えた変形と言える。もうひとつは2005年に東京都交響楽団とのライブ録音でこれは第3版による演奏のようだが筆者未聴(フォンテック)。

1998年のこのCDは時々引用させてもらっているヤマギシケンイチ氏が絶賛しているので今回初めて聞いてみることにした。少年少女合唱によるソプラノとアルトは1の少年合唱とも3の成人女声+少年合唱とも違った響きがするが水準は決して低くないと思う(少なくとも1953年の1度目の録音より百倍増しだ)。

テンポ的にはどの曲も2度目の録音よりゆったりして1度目の録音に近くなっているのが興味深い。第2版で演奏していることも相まってより静けさを感じさせる演奏になっている。やはりこのテンポがフルネの結論だったのだろう。ただしボーイ・ソプラノのソロはいっぱいいっぱい。この編成なら少女ソプラノにソロを歌わせてみても面白かったのではないだろうか? 全体としてフランス的とは言いにくいかもしれないが優れた演奏の一つに数えられるのではなないだろうか。フォーレを愛し日本を愛したフルネを偲ぶのにこの1枚ほど相応しいディスクはないだろう。

ヤマギシケンイチ氏のサイト
http://classic.music.coocan.jp/sacred/faure/faureq.htm

1953年盤(1回目)6:57/8:46/2:56/3:47/5:43/5:14/3:33
1975年盤(2回目)6:02/7:48/2:42/3:45/5:11/4:48/3:13
1998年盤(4回目)6:54/9:00/3:05/3:50/5:57/5:21/3:21

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それではフォーレのレクィエム(フォルレク)にふさわしいバリトン・ソロとはどのような声なのだろうか? 私はスゼーやモラーヌのような「バリトン・マルタン」だと思う。

シュザンヌ・ダンコ(ソプラ)
ジェラール・スゼー(バリトン)
トゥール・ド・ペイルス合唱団、(合唱指揮:ロベール・メルムー)
スイス・ロマンド管弦楽団
指揮:エルネスト・アンセルメ
録音:1955年10月(ステレオ)
(下記サイトに試聴あり)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/884699


 ピエレット・アラリー(ソプラノ)
 カミーユ・モラーヌ(バリトン)
 モーリス・デュリュフレ(オルガン)
 エリザベート・ブラッスール合唱団
 コンセール・ラムルー管弦楽団
 指揮:ジャン・フルネ
 録音:1953年7月パリ(モノラル録音)


バリトン・マルタンとはフランス声楽界固有のテノーラルなハイ・バリトンのことだ。やや鼻にかかった(フランス語はそもそも鼻にかかっているが)なめらかな柔らかい声を特徴とする。フィッシャー=ディースカウ(F=D)もテノーラルなハイ・バリトンだが、F=Dのようなドイツ式のがっしりした発声ではなくもっと軽やかな声を出す。バリトン・マルタンについては声楽家の村田健司氏の著作に詳しい。

スゼーはフォーレのレクィエムをアンセルメ盤(デッカ)で、モラーヌはフルネの最初の録音(フィリップス)で歌っている。いずれもこの曲の理想的な歌唱だと思う。私は何が何でもご当地主義というつもりは全くない。例えばバッハではヘレヴェッヘ(ベルギー)やガーディナー(イギリス)、あるいはBCJ(日本)の演奏などを好んでいるが、このバリトン・ソロはバリトン・マルタンの柔らかい声で聴きたい。スゼーとモラーヌの歌はややロマンティックだが十分にスタイリッシュでフル編成オケの第三版の演奏の場合はこのぐらいでも良いと思う。

フランスの声楽作品には実はバリトン・マルタンを想定して書いたと思われるものも少なくない。ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」のペレアスがバリトンによって歌われるケースとテノールによって歌われるケースがあることに気付かれた方も少なくないだろう。おそらくペレアスという役はその中間のバリトン・マルタンを想定して書かれたのだろう。スゼーはゴローが持ち役だったが、モラーヌはペレアス役で世界的な名声を得ていた。フルネもアンセルメもペレアスとメリザンドの録音をモラーヌと行っている。(ちなみにフルネは1958年のペレアスとメリザンドの日本初演も指揮している)バリトン・マルタンは古くはパンゼラがSP録音を残しているが、モラーヌ、スゼー以降この伝統は途切れてしまったようだ。

というわけでこの2枚のフォルレクは必聴と言って良いのだが、しかしこの2枚ともにかなり本質的な部分で問題、というか率直に言うと欠陥を抱えている。合唱が粗いのだ。トゥール・ド・ペイルス合唱団、エリザベート・ブラッスール合唱団、ともに音量を上げるのを思わずためらうほどだ(嘘だと思うなら聴いてみるべし!)。エリザベート・ブラッスール合唱団はクリュイタンスのフォルレク(新盤)やシューリヒトの第九でも出演している。この時期のパリでは名の通った合唱団だったのだろう。この時代にフランス(フランス語圏)には合唱文化がなかったことを確認させられる。

「定盤」とされるクリュイタンスのフォルレクは数年前にARTリマスターされ、「音が良くなって合唱が下手なのがばれてしまった」と評価を下方修正(?)する意見がようやく出始めたようだ。今時なら日本人でもこれより数段ましな合唱ができるし、実際そのことをフルネは後年立証しているがその録音については次の機会に触れよう。

結局この2枚のフォルレクはバリトン・マルタンのためにある。バリトン・マルタンに関心のないリスナーは絶対に聞いてはいけない。いずれも1950年代の録音だが音質はしっかりしており、同時期のクリュイタンスの旧盤やアンゲルブレシュトの録音より優れている。デッカやフィリップスといった新興レーベルのレコードは音が良くなければ売れなかったのだ(ただしいずれもややデッドで教会的な雰囲気には欠ける)。アンセルメとフルネは良い指揮だと思うがここでの主役とは言えないだろう。余白の管弦楽曲の方が本領を発揮しているように聞こえる。ちなみにフルネ盤のオルガンは名オルガニストで作曲家としても知られるモーリス・デュリュフレだ。

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私が思うにこの曲をオリジナルのスローテンポで演奏するには2通りの解決方法があると思う。一つは楽器を増やして響きを厚くする方法、もう一つは良く響く会場で演奏する方法だ。前者は第三版で実現できるが、後者はどうすれば良いか? 例えば教会で演奏したらどうだろうか? 

小編成のままオリジナルのテンポで演奏するのは教会のような長い残響が伴わなければ不可能ではないかと私は考える。第一版と第二版の演奏が当時どのような会場で行われたのかを検証する必要があるが、フォーレは教会での演奏を想定してこの曲を書いたのではないかと私は推測している。

オリジナル・テンポの演奏は本当にないだろうか? 前から気になっていたヘレヴェッヘ盤(1988年の旧盤)を聞いてみたところ、楽譜の速度に近いことが分かった。

ピエ・イエズは楽譜の1拍=44よりさらに少し遅く1拍=40ぐらいだ。実に4分28秒もかかっている。この曲はフレモーのように3分で演奏することもあるので速度差は1.5倍近い。別の曲のようだ。1曲目と2曲目の中間部の楽譜指定が意外に私の予想より速かったので全曲で38分弱となっている。

演奏会場も教会のような響きを持っており私のイメージに近い。第二版なので当然室内編成だがこの演奏は楽器は現代楽器を使用しているらしい。このテンポで演奏するには、ある程度の響きが必要なのでこれは適切な判断だったと思う。

同じネクトゥー/ドラージュ版の第二版を用いた演奏でも、ガーディナー盤が楽譜の指定よりも生理的なテンポを優先したのとは対象的だ。恐らくヘレヴェッヘは学者肌の人なのだろう。オリジナル・スタイルの2大大家が同じ版を用いて全く異なる結論に至ったのは大変興味深い。

気持ちよく聞くならガーディナー盤、楽譜を見ながらじっくり聞くならヘレヴェッヘ盤、どちらも素晴らしい演奏だと思う。混声合唱に少年合唱を加えるという凝った編成は両盤に共通するので、これはもしかしたらネクトゥー/ドラージュ版の指定なのかもしれない。第二版の初演当時の編成を検証してみる必要があるだろう。

ヘレヴェッヘには第三版を用いた1999年の新盤もあるが、ここではなぜかピエ・イエズは3分46秒と伝統的なテンポに近くなっている。私はその理由を知らない。フルオケ(と言っても71名だそうだが)の方が遅いテンポには向いているはずだが。合唱も新盤では混声合唱のみの通常スタイルになっている。


ガーディナー(1992) 6:27/ 8:25/3:27/3:45/5:39/4:39/3:14=35:58
ヘレヴェッヘ(1988) 7:08/ 7:46/3:19/4:28/6:31/4:32/3:56=37:40
ヘレヴェッヘ(1999) 7:45/ 7:57/3:29/3:46/6:29/4:42/3:43=37:51

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ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
オルケストラル・レヴォリュショネール・ロマンティーク(ORR)
1992年録音
(Philips PHCP-20218)

このつつましやかな名曲はフォーレの生前に完成し出版もされていたにも関わらず多くの問題と疑問を抱えた難曲でもある。

版の問題や編成の問題が良く取り上げられるが、実は最も大きいのはテンポの問題だと私は思う。フォーレが楽譜に残したメトロノーム指定が非常に遅いのだ。オリジナルの室内編成による演奏が最近の流行だが、室内編成では響きが薄くなるので遅いテンポは採用しにくい。オリジナルの編成で演奏するとオリジナルのテンポでは演奏しにくいというジレンマに悩むことになる。

版については下記の2つのサイトで詳しく触れているのでここでは要点だけに絞る。この曲には3つの版があり、1888年に5曲で初演された第一版と1893年に7曲で初めて演奏された第二版は曲が追加された以外はほぼ同じ内容で室内楽編成。1900年のパリ万博で演奏され1901年に出版された第三版は出版社アメルの要請で楽器編成を大型にしたが、それはフォーレの本意ではなくその編曲にフォーレはそれほど関与していないこと、また出版譜は多くの誤りを含んでいることが近年指摘されるようになった。

ヤマギシケンイチ氏のサイト
http://classic.music.coocan.jp/sacred/faureq.htm
jurassic氏のサイト
http://www.ne.jp/asahi/jurassic/page/faure.htm

このため出版譜の誤りを正した第三版のクリティカルエディションがオイレンブルク社から1978年に、ペータース社から1995年に発表され、本家のアメル社からも1998年に新版が発表された。フォーレのオリジナルの意図を尊重した第二版もラッター校訂版が1984年に、ネクトゥー/ドラージュ校訂版が1994年に発表された。まだ出版されていないようだがPhilip Legge氏が2005年に校訂した版もネットで公開されている。

Philip Legge氏校訂の第二版フルスコア
http://www.cpdl.org/wiki/images/e/ea/Faure_Requiem_FS_PML.pdf

このようにして多くの版が発表されたが、実は一聴して誰にでも判別できるような違いは第二版ではバイオリンがソロになっていることと、ネクトゥー/ドラージュ校訂の第二版ではディエス・イレに入る前のホルンのリズムが違っていること、「導入とキリエ」と「リベラメ」にティンパニが追加されていることの3点ぐらいだ。

ネクトゥー/ドラージュ校訂の第二版のディエス・イレ(jurassic氏のサイト)
http://www.ne.jp/asahi/jurassic/page/talk/durufle/faure_3.htm

このため版の問題は実際はそれほど大きくなく、少人数編成が好きであれば第二版の演奏を聴けばいいというだけのことだが、たとえ第三版を用いたとしても控えめのサイズのオーケストラで演奏するのが望ましいということは言えるだろう。

版よりもオケのサイズや、ピエ・イエズのソロをソプラノにするかボーイソプラノにするか、混声合唱を使用するか女声の代わりに少年合唱を用いるか、といった編成の違いの方が実際の聞こえ方に与える影響は大きい。フォーレ自身はボーイソプラノを望んでいたらしいので、音楽的な水準が十分維持できればそのような編成も歓迎されるだろう。

ただ合唱について一つ述べておかなければいけないことは、フランス語圏の古い演奏は合唱が下手だということだ。このような名曲があるのだから、フランスはさぞや合唱大国かと思ったらそれは大間違い。個人主義のフランス人の間で合唱が文化になったのは実は比較的最近のことなのだ。

アンセルメやクリュイタンスの有名な演奏も含めて50年代〜60年代あたりのフランス語圏の演奏はいずれも合唱が粗い。一方でこの曲の重要な鍵を握るバリトンソロは50年代のカミーユ・モラーヌやジェラール・スゼーが最高なのでこの曲の選択は非常に難しくなる。

最後にテンポだが、この問題が一番難しい。オイレンブルクの第三版(全音が国内版を出版している)によるとフォーレの指定は以下の通りだ。第二版(Legge版)で指定が違う部分は()内に示したが速度は変わらないのでこのテンポがフォーレ自身の意図であったことは間違いない。

1.導入とキリエ  Molto Largo(Largo)1拍=40、 Andante Moderato1拍=72
2.オッフェルトリウム Adagio Molto1拍=48、Andante Moderato1拍=63、 Adagio Molto1拍=48
3.サンクトゥス Andante Moderato1拍=60
4.ピエ・イエズ Adagio1拍=44
5.アニュス・デイ Andante1拍=69、 Molto Largo(adagio) 1拍=40、tempo primo 1拍=72
6.リベラ・メ Moderato2拍=60、 Piu mosso 3拍=72、moderato 2拍=60
7.イン・パラディスム Andante Moderato 1拍=58

導入の1拍=40というテンポは普通のメトロノームで設定できる最も遅いテンポだ。アニュス・デイの後半でこのテーマが戻ってくる場所でも同じ速度指示があるので楽譜の間違いではないだろう。オッフェルトリウムの1拍=48やピエ・イエズの1拍=44もかなり遅い指定だ。この曲は伝統的なテンポでは36分〜38分ぐらいだが、オリジナルのテンポで演奏したら40〜41分ぐらいはかかりそうだ。

しかし第二版を使ったオリジナル指向の演奏でもオリジナルのテンポで演奏した例は私が聞いた限りないように思う。このガーディナー盤でも導入は1拍=45ぐらいだ。響きが薄くなる室内編成ではフルオケよりテンポは基本的に速くなる。ガーディナーは全曲で36分ぐらいのほぼ伝統的なテンポだ。

普段から楽譜、楽譜と言っている手前、さあ「どうするオレ?」というところだが、ここは伝統的なテンポでも良しということにしよう。無理して頑張った演奏を聴かされるよりも感動できる演奏の方がフォーレも喜ぶだろう。メトロノーム指定は両刃の剣だとつくづく思う。

フォーレがなぜこのような遅いテンポを指定したのか、当時の演奏は本当にこんなに遅かったのかという謎は研究課題として取っておくことにしよう。ベートーベンでもブラームスでもオリジナル指向の演奏をすると普通テンポは速くなるのだが、この曲はオリジナルのテンポ通りに演奏すると逆に遅くなる珍しい曲なのだ。

このガーディナー盤はネクトゥー/ドラージュ校訂の第二版を使用している。この版の出版は1994年のはずなので出版前の録音ということになる。混声合唱のモンテヴェルディ合唱団に少年合唱を加えるという凝った編成だ。ドイツ・レクィエム、幻想交響曲に続くORRのロマン派作品の第3段として録音された。清楚な響きで見通しの良い音楽はバッハを振る時と変わらない。

長くなったので他の盤の聞き比べは別の機会にしよう。

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