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サー・エードリアン・ボールト指揮
ニュー・フィルハーモニア管、アンプロジアン・シンガーズ(1966年7月)
(新星堂SAN-15)
BBC交響楽団(1945年)
http://ml.naxos.jp/album/RXC1091
今日は近代イギリス作品の傑作ホルストの惑星だ。このディスクは先日紹介したサンサーンス同様にこの盤は新星堂がEMIからのライセンスで1990年に販売したものだ。その後東芝EMIから1994年にTOCE-1596という番号でも発売されたが、その後は廃盤状態が続いているようだ。ボールトは1978年にも通算5回目の再録音をしておりこれは今でも名盤の誉れ高いが、4回目の1966年盤と最後の1978年盤ではテンポ設定がかなり大きく異なる。
ボールトの惑星は1945年の1回目の録音も1926年の作曲者の自作自演(自身2度目の録音)と一緒に2006年にCD化された。どちらもSP録音だが音質は案外良好だ。カラヤン/BPOの1981年盤と合わせて5つの盤の演奏時間を比較してみよう。
ホルスト1926年盤 6:08/7:17/3:29/6:59/6:58/5:53/5:31
ボールト1945年盤 6:56/7:55/3:41/7:44/8:11/5:43/6:26
ボールト1966年盤 7:13/8:46/4:00/7:57/9:06/6:21/7:01
ボールト1978年盤 8:02/7:27/3:48/8:00/8:22/6:28/6:22
カラヤン1981年盤 7:14/8:34/4:11/7:27/9:20/5:59/8:41
ホルストの自作自演は非常に速いテンポで、全曲でわずかに42分というのは恐らくこの曲のレコード史上最速だろう。当時はストラビンスキーやシェーンベルク並に前衛的な音楽に聞こえたのではないだろうか。
火星は6分で、5つ振りというよりは恐らく3拍子+2拍子で振っていると思われる。5拍子は終曲の海王星でも使われていて、ここには「3拍子に2拍子が続く」という指定がわざわざ書いてある。火星の楽譜にはアレグロと書いてあるだけでメトロノーム指定はないので、指揮者のテンポ設定はある程度の範囲では許容されるだろうが、作曲者がこのようなテンポで振っていたということは頭の隅に置いておく必要があるだろう。
そういう観点で見ると、ボールトの1978年盤の8分というテンポはやや腰が重い感じだ。3拍子+2拍子ではなく5つに振っているように聞こえてしまって違和感がある。1945年盤や1966年盤のように7分ぐらいで振るのが適正なのではないだろうか。
ホルストはこの曲を当初は天文学通りに水星から始めたり、あるいは地球に近い順(占星術的な観点か?)にしようとしたらしいが、最終的には敢えて火星を1曲目に持ってきた。作曲が大戦中に行われたことなども考えるとやはりこの曲はある程度攻撃的なテンポの方が合っているだろう。
1966年盤は1945年盤と比較して金星と土星が遅くなっているが、これは曲想がそもそもゆったりしているのでそんなに遅いという気はしない。このくらいたっぷり歌って良いと思う。海王星が40秒ほど長くなったのはテンポというより最後の合唱のリピートを多めに(11回?)繰り返している影響の方が大きいだろう。楽譜にはここのリピートの回数の指定はないが、ホルストの自作自演はわずか2回しか繰り返していない。SPではピアニッシモの音はなかなか記録できないので、小さい音で何度も繰り返しても意味がないと考えたのかもしれない。このため2回という数字は参考にしかならない。
1978年盤では火星のテンポが目立って遅くなった反面、金星と土星のテンポは逆に上がって1945年盤並になっている点が興味深い。実は火星は早めで金星と土星は遅めという1966年盤のテンポ設計はカラヤン/BPO盤と同じだ。カラヤンは終曲の海王星でかなり遅いテンポを採用しているが、それ以外ではボールトの1966年盤と意外に近いテンポになっている。私はこのテンポがしっくりくる。
私にとってはホルストの自作自演と、このボールトの1966年盤と、カラヤン/BPO盤の3つがこの曲のスタンダードだ。ぜひ1966年盤の復活を期待したい。
(追記)
ボールトはクーベリックやムラヴィンスキー同様に終生両翼配置(対向配置)の支持者だったことでも知られる。60年代にニューフィルハーモニア管の事実上の主席指揮者だったクレンペラーもそうだったので、当時のこのオケにとって第二ヴァイオリンが右端でチェロが左奥のこの配置は珍しいものではなかっただろうが、両翼配置の惑星の演奏は珍しいのでボールトの録音はその意味でも貴重だ。ホルストも両翼配置を前提に作曲していることは3曲目「水星」冒頭のヴァイオリンの左右の掛け合いからも確認できる。
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