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マーラー作曲:交響曲第1番「巨人」
テンシュテット指揮ロンドンフィル
(1977)
テンシュテット/LPOの巨人はテンシュテットのデビュー録音として、またEMIの初めてのマーラー交響曲全集の第一弾として1977年に録音された(ただし国内盤が出たのは確か79年か80年になってからだったと思う)。続く録音は78年の5番と10番、79年の9番と3番、80年の7番、81年の2番、82年の4番、83年の6番、86年の8番と9年がかりで完結した(その後だいぶ経ってから82/84年の大地の歌が発売された)。
最後にウェストミンター大聖堂で録音された8番を除けば録音会場はアビーロードスタジオ(1番、5番、7番、9番、10番、大地の歌)か、キングズウェイホール(2番、3番、4番、6番)のいずれかだが、この間録音方式が80年からデジタルに変わった。このためデジタル初期の録音に当たる7番、2番、大地の歌は少し音が痩せて聞こえるのが残念だ。アナログ録音の3番までの方が概ね良い音だと思う。
さて、マーラーの録音を何番から始めるかというのは録音時代や指揮者の個性を反映しているようだ。60年代初期には4番が分かりやすい作品として人気があった。4番から録音を始めた例としてバーンスタインの旧全集(60年)やショルティの旧番(61年)がある。最近ではヘンスラーが録音したギーレンの全集が4番(88年)から始めている(その前の81年に8番を全集とは別に単独でソニーにライブ録音しているが)。
60年代後半頃から70年代にかけては1番が人気曲になった。1番から録音を始めた例としてハイティンク(66年)、レヴァイン(74年)、メータ(74年)、テンシュテット(77年)、インバル(85年)などがある。70年代に入り5番のアダージェットがヴィスコンティの映画「ヴェニスに死す」で使われたこともあって5番も人気曲になった。5番から録音を始めた例としてカラヤン(73年)、ノイマン(77年)、マゼール(83年)、シノーポリ(85年)、ドホナーニ(88年)などがある。テンシュテットが1番から初めて次は5番に進んだというのは王道中の王道だ。
こうして見ると76年の2番から始めたアバド、80年の8番のライブが全集のきっかけになった小澤、84年の6番から始めたベルティーニ、クック版の10番から始めたラトル(80年)とシャイー(86年)は個性派だということが分かる。ブーレーズもDGの全集は6番からだがソニーに最初に録音したマーラーは10番のアダージョだった。
ところで、イギリス・ロンドンのオケは5大オケと言われるが60年代から70年代前半にかけてレコード録音を活発に行っていたのは主にロンドン響(LSO)と(ニュー)フィルハーモニア、ロンドン・フィル(LPO)の3つだ。この時期、EMIは主にクレンペラーやジュリーニ、ムーティ指揮で(ニュー)フィルハーモニアを、プレヴィンやヨッフム指揮でLSOを、デッカは主にケルテスやセル、ショルティ指揮でLSOを、DGは主にアバドやティルソン・トーマス指揮でLSOを録音していた。
一方のLPOはこの時期プリチャードから首席を引き継いだハイティンク指揮でフィリップスにベートーベンなどを録音しているが、ハイティンクはACOと掛け持ちだったこともありLSOや(ニュー)フィルハーモニアほどの存在感はなかったように思う。しかし1976年にヨッフムとのブラームスやロストロポービッチのチャイコフスキーなどをEMIに録音し始めたあたりから少し風向きが変わり始め、1977年にはテンシュテットが客演し大成功を収めた。
恐らくこの時期にコンサートマスターにデビット・ノーランを招へいしたり、各パートの主席奏者を入れ替えたりといった大改革を実施したのではないだろうか? 詳しい事情は良く分からないのだが、LPOはこの「巨人」で突然、LSOや(ニュー)フィルハーモニアに負けないしっかりした音を出すようになった。
オケの潜在能力を目ざましたのはテンシュテットの才能に加えてLPOとの相性の良さだろう。カラヤンがこの録音を聞いて「自分の後任に」と言ったという説がある。実際BPOとの初録音は翌78年にすぐに実現し、以後数回に渡って客演が実現しているので、これはあながち全く嘘ではないだろう。
LPOは翌78年に長年LSOやコペントガーデンオペラでロンドンになじみの深いショルティを音楽監督に迎えた。ボールトとショルティが78年にLPOと録音した2つの「惑星」も名盤の誉れ高いが、ショルティ時代は4期で終わり、83年からはテンシュテットを首席に迎えてLPOの黄金時代が始まることになる。
東芝EMI(現EMIミュージックジャパン)が現在CDとDVDで出しているのは1990年のシカゴ響とのライブ録音でこの演奏はマーラーの若書きにしては表現が濃厚なので(DVDは面白いが)、まずお勧めしたいのはこちらの録音の方だ。アナログ最後期の録音はたっぷりと響く好ましいものだ。私が現在聞いている盤は輸入盤で出ていたダブルフォルテシリーズ(2000年のartリマスター盤)だがこれは現在は廃盤中のようだ。
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