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大阪の釜ヶ崎は「あいりん地区」とも呼ばれ、日雇い労働者が集まる「ドヤ街」である。
先日大阪を訪問して、公園のテントやあいりん地区を見てショックを受けたので、本屋で目立つように置いてあった生田武志「ルポ最底辺」という本が目にとまり、読んでみたが、ホームレスに対する考え方が大きく変わった。
それまでは、自業自得、好きでやっていると思っていたが、そういう人ばかりではない、ということである。
ホームレスのほとんどの人は、好きで路上生活をしているのではなく、できれば家に住みたいと考えているのだという。本書の冒頭では、北海道のホームレスの話が出てくるが、冬の路上生活の厳しさは尋常ではない。
では、なぜ家に住まないのか。どうして家に住まなくなったのか。それはまずは収入が家を借りるのに満たないからということのようである。ホームレスというと、ずいぶん違った世界のように思えるが、収入が減っていって、家賃を下回れば、その時点でホームレスになる。
この家、つまり住所があるとないで状況が全く変わってしまう。当然、住所がなければ選挙権はなくなってしまう。就職活動を行うにも、門前払いされるだろう。さらに、なんと生活保護も受けられないのだという。生活保護は、運用上、住居があり、年齢もたとえば65歳以上というように限られているのが現実だという。つまり、ホームレスになったとたん、「住民」ではないので、生活保護さえ受けられないところに転落し、そこから抜け出すことが出来なくなる。住民票は、どこかに置けばよい、という考え方もあるが、先日報道されたとおり、ホームレスが仮に置いていた住民票を大量に行政側が削除するという事件があった。居住の実態がないので、ホームレスに住民票を与えない、というのは考え方としてはあり得る。しかし、著者が指摘するように、学生で住民票を移動していない人もいるし、アザラシやシャチホコに特別住民票を出している自治体があるのに、ホームレスにはなぜそれが許されないのか、というのも一理ある。
家を失う前に生活保護、というのもいろいろ難しいところはある。生活保護は、家を持っていると支給対象にならないらしく、家を売らなければならない。賃貸になれば、家賃を払えなくなった瞬間、生活保護をとりそびれば、ホームレスに転落する。昔と違うのは核家族化が進み、家族や親戚が手をさしのべるという考えが希薄になっていることだ。
なにより、日本のホームレスは「乞食」ではないということだ。つまり、彼らは「自立」している。主な仕事は廃品回収らしいが、それを行うことによって自立して生活しているという。ただし、家賃を払う水準に達していないと言うことだけだ。驚くのは「自分でなんとか食っていけるから、生活保護のお世話にならないでやっていく」という人がいるのだという。これは、働くということが人間の尊厳にも関わっていると言うことだろう。従って、ホームレスを「自立」させるという言い方は正しくないという。自立しているが、家がないだけなのだ。
余談だが、労働時間も相当長く、きついらしい。日雇いでも、廃品回収でも早い者勝ちなので、どうしても朝が早くなる。また、夏の酷暑で歩き回るのはきついので、夜働いている者もいるという。結果として、昼間は寝ることになるが、そのために、「働いていないで、昼から寝ている。」と思われてしまう面もあるそうだ。
大阪市での強制執行に出された弁明書で1人のホームレスは次のように言っている。ずいぶん皮肉が効いている。
「今、私は自立しています。自力で稼いでいます。アパートを借りて家賃を払えるほど稼いではいないけれども、公園の片隅で野宿しながらであれば、何とか生活できています。野宿生活を始めてから、いろいろと苦労して試行錯誤しつつ、地域の人たちと関わりあいながら、今の生活を築いてきました。どこかの銀行や空港会社や娯楽施設などとは違い、行政の手助けは一切なしで生活してきました。」
こうした路上生活でも「自立」していれば良いということかといえばそうではない。仕事は危険で、無防備なままアスベストの除去作業にかり出されることもあったという。多くの人が身体をこわしていて、釜ヶ崎では10人に1人が結核といわれているとのこと。また、なんと「国境なき医師団」がホームレスを支援していて、先進国では例がない「支援対象国」に日本はなってしまっている。路上で死ぬ人も多いそうだ。さらに、こういう人たちを食い物にして詐欺まがいの行為をしたり、強盗で金を奪ったりする輩もいる。また、何より心が痛むのは、心ない人の襲撃などで大けがをしたりするホームレスがいることだ。
「ルポ最底辺」には、寝ているところをいきなり刃物で目をえぐられたホームレスの話が出てくる。
ホームレスの夜回りをしている団体の活動が以下に紹介されている。
火を付けられたり、いかに危険な目に遭っているかを考えさせられる。やっているほうは、単なる愉快犯で、何のメリットもないはずだから、余計気が重くなる。
ホームレスに対して、どのような考えを持つかは別として、人間をこんな風に粗末に扱ってはいけないはずだ。
http://www1.odn.ne.jp/~cex38710/patrol.htm
わが国には厚生労働省の調査によれば、18,564人だという。こうした人たちに憲法第25条で定められた「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活」を与えるかどうかは、政府の、そして国民の意思の問題なのではないかと思う。
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