深刻な人手不足から居酒屋、百貨店などが年末年始の営業を控える動きがあるという記事があがっている。
一読したが、少し違うと思う。人手不足の正体は多様化である。
本当に人材が不足しているのなら、神の見えざる手が働いて人件費が高騰するはずである。そして高い金を払って労働者を獲得した企業が大きな利益を生むはずである。何が起きているかというと、すでにAIやロボットが労働者の代わりを始めているということだ。わたしの業種(印刷)でも変化を実感している。何年か前には人の手でやっていたデータチェック(印刷の基になるAIデータが適正かどうかを確認する作業)がロボットに置き換えられている。よく○○年後には○○の仕事がロボットに奪われる、みたいな記事を目にするが、そんなものは急に来るのではなく、気づけばそうなっていたというものである。
行政サービスも民間サービスも、365日24時間営業の時代がくる。今後も労働条件は良くならない。だから縮小均衡を続けながらサービスの多様性を拡大していく以外に経済を安定させる手段はない。多様性とは何か。例えばブラックバスやブルーギルが放流されたことで、水中の生物層が豊かになった。鮎の成魚が人の手で大量に放流されると、食物連鎖のバランスが急激に乱れる。鮎を食べる在来魚はせいぜいウナギかナマズぐらいだが、そこにブラックバスが加わることで高度なバランスを取り戻す。水苔が鮎に喰いつくされてしまうと、水苔を餌や隠れ家にしていた生物が絶滅の危機に晒されるが、生物層さえ豊かならすぐに鮎の数が抑制される。鮎を餌に増えたブラックバスの卵を今度はブルーギルが食べて過剰な繁殖を抑制する。
困るのは鮎を放流した漁協だが、これこそ民主主義、資本主義社会の縮図である。「ブラックバスは悪者だ」という論調が生じると、ブラックバスを排除しようとする動きが出る。いわゆるヒットラーの出現である。それは漁協が仕組んだポピュリズムにすぎず、冷静な者は苦笑するが、大衆は同調圧力に迎合していく。社会に必要なのは仕事の多様性だ。居酒屋に例えるなら、全国チェーンの画一化された店舗や、それに類似した他社の店舗だけが居酒屋ではなく、そこに個人経営の別の価値観を持つ店が参入することで、消費者が分散され、巨大資本の寡占を防ぎ、消費者も従業員も店を選ぶことができるようになる。漬物と日本酒さえあればいいという人、居合わせた人との会話を楽しみたい人、遠慮なくタバコを吸いたい人、家まで送迎して欲しい人、昼から飲みたい人など、消費者は多様性を求めているはずだが、居酒屋チェーンはグループで来る夕食前の客だけをターゲットにしている。
『修正されすぎた資本主義』。これが今の日本経済だ。残念ながら政府主導の規制緩和はあまり進んでいないように見える。しかしSNSなど、世界的な動きを独自に規制することはできない。無名の田舎町が外国語のウェブサイトで海外から観光客を集めるなど、時代はシフトしようとしている。労働力がロボットに置き換えられている一方で、バランスを取り戻そうと、神の見えざる手が働いている。フリーランス、ノマドと言った言葉も聞きなれてきた。副業を容認する企業も増えている。デザイナーやライターではクラウドソーシングが増えてきている。仕事はクラウド化している。人手不足の正体は多様化である。経済がバランスを取り戻そうとしているように、わたしには見える。
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