徒然草

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夏田君の事件。日仏の反応の違い。

さてさて皆様夏も終わって新学期ですがいかがお過ごしでしょうか。
 
僕は7月8月と働き詰めで、コンサートはしばらく休みになったものの、ブザンソンのオーケストラの委嘱作品を15日までに書き上げないといけないのでちょっと脅威です。
 
先週フランス中部のブルジュ近くで仕事をしていたときに久しぶりにピアノの永野君から電話が入りました。『夏田が麻薬でつかまった』というのがその内容で、10分くらい話を聞いた後に、あまりに信じられなかったので『ねえ、もしかして、冗談??』と訊いてしまったほどでした。夏田君は僕と芸大で同級で、パリのコンセルヴァトワールでも一緒でした。僕のトリオにも新作を書いてくれたりして、沢山飲み会もして、本当に楽しかった思い出があります。彼の作品も大好きで、来年うちの音楽祭で演奏したい曲があったので、メールを送った矢先のことでした。覚せい剤は撲滅するべきだし、所持、使用ともに犯罪なのは当然です。これからこの事件がどういう結果をもたらすかは分かりませんが、一つだけ気になることがあったのでここに...
 
一体夏田君が薬をどう扱っていたのかはまだ分かりませんが、もしそれが個人使用の範囲で(つまり学生や友人にまで勧めたり、売ったりしていたのでなければ)あったのなら、彼の作品演奏をキャンセルするというのはちょっと行き過ぎだと思うのです。本人の行動と、作品の質は同じ土壌で語られるべきではないと思います。例えば、彼が作品の中で薬物使用を勧めるようなテキストを使ったりしたのであれば当然別問題ですが、そうで無ければ本人が法律上犯罪者であろうと作品は作品として評価されるべきではないでしょうか。もし、薬をやっていたり、セクハラをした作曲家を除いていったら、クラシックの重要なレパートリーは激減してしまうのでは??? あのバッハでさえ教会で働いていた若い女性に手を出して(セクハラですね)訴えられたという記録が残っているのですから。薬を使用した芸術家は彼だけではないですよね。画家、作家、詩人、数えていったら相当の数になるのではないでしょうか。僕が言いたいのは《芸術家だから許せ》という事ではありません。夏田君は自分の罪を補うべきだし、彼の性格からいって捕まって正直ほっとしていると思います。今までやめようと思っていてきっとやめられなかったのだと思います。
 
僕は彼の1回目の結婚式で司会をして、2人めの奥さんとのパリでの結婚式にも出席しました。その2人目の奥さんとも昨年別れてしまっていたことを今回の事件で知りました。ナイーブな彼のこと、作曲家としては成功しても私生活が満足できる状態ではなかったのではないでしょうか。薬に溺れるのは繊細な人が多いと聞きます。私生活の不満が原因で覚せい剤に手を出してしまった彼に『お前は薬をやったからもう作品jも演奏してやんない』というのはちょっと酷い仕打ちではないでしょうか。
 
勿論捜査をきちんと待たないと、本当に彼の薬剤使用が自宅のみで学生に影響が無かったのかは分かりませんが、こちらの友人たちに現状を話した限りの反応は100%『作品の演奏をキャンセルするのはお門違い』でした。僕もそう思います。
 
夏田君は在日韓国人2世で、そのせいで2チャンネルなどでもメタクソに叩かれています。外国から見たら日本人だろうが韓国人だろうが全然違いも分からないのに、未だにこういう機会を狙って匿名で口汚く投書する人たちがいるのは悲しい限りです。
 
それから、彼は職も首になってしまうのでしょうか?あんなに才能がある人を今回のことのみで首にしてしまうのは本当に残念な事です。まあ僕がとやかく言うことではありませんが... 何度も言うようですが《才能があるから何をしても許される》訳ではありません。ただ、周りに実害が無かったのであれば、刑期が終わった時点で再び彼に教鞭をとらせるべきではないでしょうか。
 
僕の高校の吹奏楽の顧問の先生はアル中でした。いつも酒臭くて、アルコールが入ってないと震えて、50歳で肝硬変で亡くなりました。生徒の親たちから見たら本当にしょうがない教師でした。でも彼と一緒に音楽をやった生徒たちはいまだに音楽を続けています。彼の葬式には前日連絡だったにも拘わらず1000人が詰め掛けました。もし彼が自宅で生徒たちと飲み会をしている所を現行犯で逮捕されていたら、きっと彼は辞職させられていたでしょう。でも僕にとって、いや何千人という生徒たちにとって、彼は本当に素晴らしい《教師》でした。今プロの僕がフランスで演奏活動をしている原因の一つはこの先生との出会いでした。ナイーブで寂しがり屋で、アルコールに頼らなければ生きていけなかったのだと思います。でもそのせいでアル中になった生徒は一人もいません。
 
夏田君、罪は償え、でも試練には負けるな!君は素晴らしい作曲家だ。

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