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楽しんでる〜?

僕がレースをやり始めて間もない頃、よく一緒にレースをしていた友人A君がいた。
何度か僕らのチームに入るように誘ったが、経済的な理由や自宅からチームのガレージまで遠いなどで個人で細々とやりたいと単独でレース活動をしていた。
 
単独とは言うものの、トランスポーターを持っていない彼がサーキットへ行くときは我々のチームに頼るしかなく、走行時のタイム計測なども我々チームのサポートが必要であった
 
そのA君はちょっと変わり者で、和歌山利宏や片山敬済を崇拝していて、彼らの著書をこよなく愛読していた。
特に和歌山利宏の著書はバイクの構造やタイヤ、ライディングに関する理論を説いているものが多く、なぜバイクは曲がることができるのかといった事を理論的に解説している。
 
そんな本ばかり読んでいるせいか、やたらとその方面の話題に詳しく、
 
「バイクのタイヤはなんで前後輪で大きさや形状が違うかわかるか?」とか、
「コーナリングを開始するときにバイクはどんな挙動するか知ってるか?」
 
など、聞いてもないのに事細かく説明をしてくれたりした(笑)
 
バイクいじりもお手の物で、そこいらのメカニックよりは腕がよかった。
 
しかし、運動神経はイマイチのようで、なかなかタイムが上がらない。
 
 
そんな彼を見かねたウチのチーム監督Oは彼に
「バイクの事はいろいろ知ってるみたいやけどバイクを操るのは生身の人間やで。 それだけちゃんと整備されたバイク乗ってるんやったらもうちょっとええタイム出さなアカンで〜」と。
 
しかしA君は「まだちゃんとセッティングできてないんですよ。 特にリアサスが・・・」
 
そしてすかさず監督は「ちゃうちゃう、全ての動作がワンテンポ遅いねん!」
「もっと、ガツン!とブレーキ握ってバンッ!と一気に倒しこんでガバッ!とアクセル開けるんや〜!」
 
(どこかの誰かと似ているのは気のせい?^^;)
 
 


生野の族上がりの監督は現役ライダーの頃から理屈よりも感性を重視するタイプで、とにかく「いてまえー!」のイケイケ路線であった。
レースのアドバイスでも「前を走ってるやつを抜くときは躊躇するな! 殺すつもりでイン刺せ!」とか過激な監督だった^^;
 
A君はチームメイトではなかったが、チームで飲み会やったりカラオケに行ったりするときは一緒に参加して楽しんでいた。
まぁ、半ばこれも監督命令だったが。。。^^;
 
しかし、だんだんとA君がガレージに来たり飲み会に参加する頻度が少なくなってきて、一緒に走りに行く事も減ってきた。
 
アルバイトで忙しいんだろうと思っていたがそうではなかった。
 
どうも違うチームに入ったようであった。
 
あるときサーキットでバッタリA君と会ったので本人に直接聞いてみたら、やっぱりとあるチームに入ったとの事。
どこのチーム?と尋ねるとチームGという聞いたことのないチームに所属しているそうな。
 
その頃バイクブームのピークだったので、知らないチームなどは山ほどあったし、我々チームも極小プライベートチームの一つであった。
しかしウチの監督は現役時代そこそこ大きいチームのライダーだったので、それなりの知名度はあった。
 
「えっ?Oさんのチーム? ご愁傷様」 こんな感じであるf^^;
監督のハチャメチャぶりを知ってる人は冗談めかしてこのように言うのだ。
 
 
A君の所属しているチームがどんなチームなのか気になったので、見学に行ってみたら、ライダーが数名で監督らしい人物もいた。
そしてA君になんで俺らに何の相談もなくそのチームに加入したのか問い詰めた。
 
すると、そのチームの監督のレースに取り組む姿勢や考え方に共感したそうであった。
 
A君が共感すると言う事はきっとメカの事やライディングを理論的な手法で指導しているんだとすぐさま察知した。
 
そしてA君に「ところでその監督って元レーサー?」と尋ねると、「元レーサーって聞いてるけど、実は俺もあんまり知らんねん。」
 
ウチの監督にも聞いてみたが「そんなやつ知らんなぁ」との一言。
 
しかしA君曰く、「昔はあちこちの大会でタイトルこそ取ってないけど、常に上位やったって聞いた」
「何よりバイクのチューニングやセッティング、ライディングの技術論はすごいよく知ってはるで」と感心しきりの様子。
 
A君とその監督はとあるショップでたまたま遭遇し、その場で意気投合したらしい。
 
おそらく同じ人種なんだろう。
ショップに入り浸り、あらゆるパーツを手にとってあーでもないこーでもないと言った話題でご飯が3杯食えるタイプの人間なのだ。
 
 


僕も一時期興味を持ってそのチームを覗きに行ったが、たしかにこの監督はいろんな事をよく知っている。
しかしちょっと鼻に付く感じで、人を小バカにするような雰囲気があった。
さらに付け加えると、自分は往年のメカニック、アーブ金本よりも優れていると笑い話にもならない事をマジメな顔をして自信たっぷりに話していた。
また、絶対的に自分の理論や考え方が正しく、テクニカルスポーツをはじめとする準ワークスチームやメーカーでさえもこき下ろしていた。
 
その割にはきちんとマシンセッティングが出来てこそライダーは100%のポテンシャルを発揮できると豪語していた。
 
そこそこセッティングがずれてても気合で勝てるというウチの監督とは対照的である。
 
このチームGの印象はなんだか陰気臭い感じで、どっから見てもスポーツしてるという雰囲気ではなかったが、A君には居心地がよかったようだ。
 
そしてそのチームのライダーはどのぐらいのタイムを出しているのか調べたら、予選通過には遠く及ばないタイムばかりであった。
 
あの監督が大風呂敷を広げてたので、もっと上位かと思ったら正真正銘の弱小チームだったので、そのギャップに驚かされたと同時に、即座にこの監督アカンわと悟った。
 
 
それとなくA君にも「あのチームおってもあんまり意味ないで」と伝えたが監督に心酔しきってるA君は「俺は監督を信じてるし、今は俺の実力がないだけ」の一点張り。
 
 
A君からそうまで言われたらもうこれ以上何も言えなかった。
 
 
その後もサーキット以外では地元で我々チームメイトと時々飲みに行ったりもしていたがだんだんと来なくなり、ついには一切連絡もなくなってしまった。
 
そしてホームコースにしていた鈴鹿にも顔を見せることがなくなったので、心配していた。
 
その頃は今と違って携帯電話がなかったので、自宅に電話するしかなかったが、お互いアルバイトで忙しく、そしてその間を縫ってガレージへ足を運ぶ生活だったのでずっとすれ違いであった。
 
 


あるとき風の噂で、チームGは活動の場所を鈴鹿からナカヤマサーキットに移したと聞いた。
どうして公式戦も開催されず、しかもランオフエリアが狭くて危険なナカヤマに行ってまで走っているのか非常に疑問であったが、チームの方針だったのであろう。
 
そしてしばらくしてからA君と鈴鹿でバッタリ遭遇した。
 
「どないしてたん?」と僕
 
「鈴鹿はなかなか走る時間取られへんし、監督も指導しにくいからってナカヤマ行ってた」
 
やはり噂どおりであった。
 
どうやらコース全体が見渡せるナカヤマのほうが監督には都合がよかったらしい。
 
「ほんで、タイムはあがったん?」と聞くと「まだ、、、あんまり」と自信なさげである。
 
その後も色々と話を聞いていると少しA君の様子がおかしいので、
 
「A君、レースやってて楽しいって感じてる?」と聞くとA君はしばらく空を見上げたまま考えている様子であった。
 
沈黙が続いてから「なんか楽しめてないかなぁ・・・」とボソッと答える。
 
 
レースをやっている以上誰しもタイムを縮めて上を目指したいと願っている。
しかし、楽しさを忘れ辛く苦しいだけなのであればそこにレースをする意味があるのか。
 
 
 
A君はその後仲の良かった僕らや友達とも交流がなくなり、しばらくしてレースから足を洗ったそうだ。
 
あれほどバイクをレースを楽しんでいたのに、みじめな末路であった。
 
 
 
あの時僕らがもっと強く引きとめておけば・・・と後悔しきりだった。
 
 
 

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たけサク
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