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 責任の取り方

  明治四十四(一九一一)年、陸軍特別大演習統監のため久留米方面へ向かう明治天皇の乗られる御料車を門司駅構内において脱線させた責任を取るべく門司駅に勤務していた国鉄職員の清水正次郎主任は、下関・幡生トンネルで自決した。享年三十三歳。
その忠誠に感じた門司市民有志により畑田町にあった定林寺(廃寺)境内に顕彰碑を建立した。
また玄洋社は、「清水正次郎碑」を建立して現在それは福岡市立平尾霊園に存在する。
明治四十四年十二月二十二日の事を記した『明治天皇紀』には次のようにある。
「去る十日車駕西下の途、門司停車場に於て御料車の準備中、誤りて御料車後部車輪を脱線せしめ、為に車駕の御発、予定に遅るること一時間に及ぶ。構内主任兼操車係鉄道院書記清水正次郎、深く其の責に感じ、翌日山陽鉄道線幡生・一宮間の随道内に於て轢死を遂げ、一死罪を謝す。事叡聞に達す。是の日金三百円を遺族に賜ひて之を慰みたまふ」
 また同年十二月二十八日付の日刊紙『九州日報』の社説は、果然、「清水氏の自殺は国民の精華なり」と述べ、「義を天下に唱へざるべからざるところ」として、その顕彰碑建立計画を発表した。
 ところで、今日、東北関東大震災によって東京電力の福島原子力発電所が地震とそれに伴う大津波によって罹災し、それが原因となって事故が発生し、大量の放射性物質が拡散して甚大な被害をもたらした。
 これによって原発から半径三十キロ圏内に住む人々は避難生活を余儀なくされ、日本全国および全世界の人々を放射能被曝の恐怖に陥れている。
 このような事態の最中、東京電力社長の清水正孝は、高血圧とめまいが原因だとして都内の病院に二十九日夜に入院したことを東京電力は明らかにした。
 清水は、福島第一原子力発電所で爆発事故などが相次いでいた十六日からの数日間、過労のためダウンしていたことが分かっている。その後、体調が回復し、東電内に設置された統合連絡本部に戻って指示しているとされたが、十三日の記者会見を最後に、公の場に姿を現していなかった。
 清水が過労だ、めまいだ、高血圧だと言って都内の病院の高額な特別室にいる間、福島双葉町の人々をはじめ、半径三十キロ圏内に住んでいる人々は、極めて不自由に避難生活を東電の原発事故によって強いられている。
 その中には大勢の高血圧をはじめ、重病を抱えている人々の決して少なくない。彼らは不自由な避難生活によって、病院に通うことさえもままならない。
 また、原発が最悪の事態とならないためにも、家族と別れて決死の被曝を覚悟で、日夜徹夜で原発修復作業をしている作業員が大勢いる。その多くは、東電の下請け、孫受けなどの会社に勤務している労働者である。彼らには、高血圧だ、めまいだ、過労だなどと言って入院する甘えなどは、決して許されない。極めて高い放射能の中、まともな食事も摂らずに懸命な努力を続けている。
 また、それに伴う警察官、消防官、自衛官なども国民を護るべく、死を覚悟して放水作業など、必死の作業を続けている。
 東京電力社長、清水正孝は、事故発生以来、現場に足を運んで地元民に謝罪したり説明したりすることはなく、また、危険な現場で戦っている東電作業員や、その下請け、孫請け企業の労働者、現場の警察官、消防官、自衛官らに対してその労を労う言葉すら掛けてはいない。
 その挙句、自らは敵前逃亡だと世間から思われても仕方がない様な状況下で、高血圧、めまい、過労などを理由として、病院の高額な特別室に籠もった。
 事実、本人は高血圧、めまい、過労などがあるのかもしれない。しかし、東電の最高責任者として、その病が高じた結果として、脳梗塞や脳溢血、クモ膜下出血などを惹き起こして職に殉ずる位の覚悟をする必要があるのではないのか?
 事故の収拾の陣頭指揮に立ってその職域に殉じる覚悟があれば、その誠意は必ずや我々国民に伝わるものである。
 しかしながら東電社長清水正孝の今回の入院という態度が、東京電力という会社の体質をまるで象徴しているように思われる。
 本稿の冒頭に紹介した、鉄道員「清水正」次郎と東京電力社長「清水正」孝とその三文字までが同じであるものの、その生き方は全く対照的である。
 東電社長清水正孝は、門司駅員清水正次郎の行き方に学び、殉職覚悟で現場の陣頭指揮に立つのか、または自決の覚悟を以って人間としての誠意を果たすべきである。
 その何れかの道を自ら選択できないのであれば、その運命は必ずや天が許す事はないという事を歴史は証明している。
 よく肝に命ずべきである。
 

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