|
「あなたは今、どこにいますか?」 「はい・・研究室にいます。」 「椅子に座ってますか?」 「はい、座ってます。」 「では、外に出て散歩をしてみましょう。」 「・・・はい、散歩をしてみます。」 「あなたは今、どこにいますか?」 「研究室の出口です。」 「では、外に出てください。」 「はい・・廊下に出ました。」 「中庭に行ってみましょうか。」 「はい・・中庭に行きます。」 「あなたは今、どこにいますか?」 「はい、大学の中庭にいます。」 「何が見えますか?」 「はい・・花壇が見えます。」 「花が咲いているのですか?」 「はい・・咲いてます。」 「何色の花が咲いてますか?」 「赤い花が咲いてます。」 「では、それを一輪、取ってください。」 「はい・・取りました。」 「そろそろ部屋に戻りましょうか?」 「はい・・戻ります。」 「あなたは今、どこにいますか?」 「研究室のドアの前です。」 「では、ドアを開いて中に入ってください。」 「はい・・入りました。」 「研究室には誰がいますか?」 「立花教授がいます。」 「他には誰がいますか?」 「私が・・います。」 「あなたがいるのですね?」 「はい・・私は椅子に座ってます。」 「あなたは、今、研究室に入ってきたばかりですよ?」 「はい・・。」 「あなたは立ってますよね?」 「はい・・立っています。」 「では、椅子に座っているあなたは、誰ですか?」 「私・・です。」 「立っているあなたと、座っているあなたは同じ「あなた」なのですか?」 「はい・・そうです。」 「では、この二人に、何か違いはないのですか?」 「はい・・立っている私は、赤い花を持っています。」 「赤い花を持って立っているあなたが、座っているあなたを見ているのですね?」 「はい・・そうです。」 「座っているあなたは、何をしていますか?」 「眠っています・・・。」 被験者の脳内には、第二の空間ともいうべき「仮想世界」が構築されていた。 立花教授は、被験者である「片桐友里」を催眠誘導によって「仮想世界」へと誘っていた。 催眠によって中庭に出てゆく「自分」を、友里は自分の脳内に「創造」したのだ。 座っている自分とは完全に分離した「もう一人の自分」が出現する。 立花教授の研究は、この「もう一人の自分」に、どれほどの「人格の独立性」があるのかという
点にあった。本人(本体)と分離した自分に、本人以外の「人格的な特性」が確認できるのだろうか? 教授の研究は、いよいよ問題の核心へと迫っていたのだ。 |
もう一人・いる!
[ リスト ]





