羊の隠れ家

■■■Taku2001zooのブログ■■■

もう一人・いる!

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「あなたは今、どこにいますか?」
「研究室の出口です。」
「では、外に出てください。」
「はい・・廊下に出ました。」
「中庭に行ってみましょうか。」
「はい・・中庭に行きます。」

「あなたは今、どこにいますか?」
「はい、大学の中庭にいます。」
「何が見えますか?」
「はい・・花壇が見えます。」
「花が咲いているのですか?」
「はい・・咲いてます。」
「何色の花が咲いてますか?」
「赤い花が咲いてます。」
「では、それを一輪、取ってください。」
「はい・・取りました。」

あの日以降、片桐友里は、その「仮想世界」で人間に出会うことはなかった。何度実験を重ねても、彼女がそこに見るのは「花壇と赤い花」である。そして、「もう一人」の彼女が研究室に戻ってきてからも、やはり同じような結末しか見られなかった。

「そろそろ部屋に戻りましょうか?」
「はい・・戻ります。」
「あなたは今、どこにいますか?」
「研究室のドアの前です。」
「では、ドアを開いて中に入ってください。」
「はい・・入りました。」

実験は暗礁に乗り上げていた。このまま、これを続けていても新たな発見は得られそうになかった。

立花は友里の催眠を解いた後、彼女を早々に帰宅させると、これまでの実験を記録したビデオテープを取り出し、デスクの上に並べた。研究室には記録用のカメラが設置されていて、すべての実験が映像記録として残されている。そして、またそのテープの記録には、それが第三者に見られる前に、確実に消去しなければならない「映像」も含まれていたのだ。

テープをリプレイしながら、立花は、「その部分の映像」の消去を繰り返す。

友里の、白く艶かしい姿態・・・乳房・・あえぎ声・・・。

それは、この部屋で幾度となく繰り返された「男と女の儀式」の記録だった。

すべての作業を終えて自宅に戻った時、時計はすでに午後9時を回っていた。

「お帰りなさい。今日は遅かったのね。」

玄関先で妻は、立花のコートを受け取りながらそう言った。

「ああ、仕上げなければいけないレポートがあってね・・・。」
「ご苦労様です。教授!」

妻・真美子は、屈託のない笑顔を「教授」に向けた。

「あ・そうそう。今日の夕方、貴方の助手をやってる学生さんがお見えになったわよ。」
「え・・・!!」

(ゆ・・友里か!?)

立花は、顔が蒼ざめるのを感じた。なんてことだ!自宅にやって来るとは・・・!

「な・・何の用事だろうなあ・・?」

精一杯、平静を装いながら、立花は妻に応答する。

「ええ・・何でもね、数日前に旅行に行った時のお土産を渡し忘れていたそうで、届けてくれたみたい。」
「お・・お土産・・?」

3日前の週末、友里は確かに旅行に出かけていた。友人と二人で温泉に行ってくると、立花はそう聞いていた。

「何だった?お土産って?」
「ええ、オルゴールでした。何でも地元の職人さんの手作りだそうよ。」

妻はそう言いながら、重厚な木製を小箱を立花に見せた。

「ね、立派でしょう?音も凄く綺麗なのよ。」

小箱の上蓋を開くと、オルゴール独特の音色が流れ始めた。

「ふむ・・綺麗だな・・G線上のアリア・・か。」

そんなことを呟きながら、立花は脳裏ではまったく別のことを心配していた。

(あの箱の中に、余計なモノは入っていないだろうか・・・?)

「小物入れにするにはもったいないし・・ベッドにでも飾っておきましょうか?」
「そうだな・・それがいい・・・。」



妻がシャワーを浴びてる隙に、立花はオルゴールを調べてみた。箱の中は空っぽであり、どこかに細工がしてある様子もない。

(お土産というのは本当らしいな・・。)

しかし、ただのお土産なら、大学でも渡せるはずである。自宅に届けに来るというのは、どこか脅迫じみている。

(何か別の目的があるに違いない・・・。)

それが何なのか、立花にはわからなかった。

その夜、立花は2週間ぶりに妻を抱いた。研究室での「作業」が、潜在的な発情を促していたのかも知れない。あるいは、友里との情事を自粛していたからだろうか?シャワーを浴びて、バスローブ一枚の姿でベッドルームに入ってきた妻を見たとたん、立花は込み上げてくる欲情を抑えることができなくなっていた。

「ねえ・・貴方・・。」

立花の腕枕の中で、真美子は彼を見上げた。

「あの、助手の学生さん、凄く綺麗な人ね。モデルさんみたい。」
「そうかなあ・・。」
「貴方が、変な気、起こさなきゃいいけど・・。」
「まさか・・彼女は単なる助手だよ。それに、助手でいるのも今月一杯だ。」
「あら、そうなの?」
「ああ・・彼女、深層心理学には向いていないタイプだ。」
「ふ〜ん・・そうなんだ。」
「心理学というのは直感の学問だからね。お勉強の成績が優秀でも、あまり意味がないんだよ。」

ベッドサイドには「オルゴール」があった。二人とも、このオルゴールに小型発信機が内臓されている
ことを知る由もなかった。また、発信された信号は、マンションの下の大通りに駐車してある車の中で
受信されていることも・・・。

夫婦二人の、この夜の音声はすべて「盗聴」されていた。会話だけではなく、あらゆる音声が・・。

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