羊の隠れ家

■■■Taku2001zooのブログ■■■

もう一人・いる!

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翌日、研究室に入ってきた友里を見て、立花は思わず息を呑んだ。化粧の仕方が違うのだろうか?いつもの友里とは違って、さらに魅力的に見えたのだ。

「あら、私の顔に何かついてますか?」

自分に見とれている立花を、友里はそう言ってからかった。

「いや・・別に・・・。」

立花は友里に、自宅まで来た理由を問い詰めるつもりだったが、その日の友里には、そんなことを許容する雰囲気が微塵も感じられなかった。圧倒的な「美」の前で、立花は平静を装うのが精一杯であった。

「と・・ともかく・・実験をはじめよう。」

彼はそう言いながら、友里にいつもの小型無線機とイヤホンを渡した。

「はい。教授。よろしくお願いします。」

友里はイヤホンを耳に装着すると、部屋の中央にある、いつもの椅子に腰掛けて目を閉じた。


「あなたは今、どこにいますか?」
「はい・・研究室にいます。」
「椅子に座ってますか?」
「はい、座ってます。」
「では、外に出て散歩をしてみましょう。」
「・・・はい、散歩をしてみます。」

「あなたは今、どこにいますか?」
「はい・・噴水公園にいます・・・。」

(え・・・??)

いつもなら、大学の中庭と答える場面である。大学の向かい側には「噴水公園」と呼ばれる小さな公園があった。友里は、その仮想世界の中で「噴水公園」に向かったのだ。

「公園には、何が見えますか?」
「誰かが・・私を見ています。」

違う展開が始まっていた。これこそ、立花が待っていたものだった。

「それは誰ですか?」
「わかりません・・。」
「男性ですか?女性ですか?」
「女性です・・・。」
「その女性は、どのような服装をしていますか?」
「紺色の・・ワンピースを着ています。」

回答はきわめて具体的だった。友里の脳内に構築されている仮想世界が、独自の人格を持って動き始めている証拠である。

「その女性と話をしてみてください。」
「それは・・できません・・・。」

(否定!!!)

催眠状態にある被験者が、実験者の誘導を否定できるというのか!?立花は、目の前で起きている現実を疑った。

(こんなことは有り得ない・・・!)

「なぜ、できないのですか?」
「その女性が・・倒れているからです。」

(倒れている・・どういうことだ!?)

友里の額に汗が浮き出していた。明らかに動揺している。いったい何が起きているのか・・?

「な・・なぜ、女性は倒れているのですか?」
「わかり・・ません・・・。」

友里の体が小刻みに震えていた。これ以上、実験を続けるのは危険だ。長年の直感が立花にそう判断させた。

「では、研究室に帰ってきてください。」
「はい・・帰ります・・・。」

「あなたは、今、どこにいますか?」
「研究室に帰ってきました。」
「何が見えますか?」
「立花教授が見えます。」
「椅子には誰か、座ってますか?」
「はい・・私が座っています。」

友里の表情がようやく落ち着いてきたようだった。

「あなたは立っているのですね?」
「はい・・立っています。」
「では、座っているあなたと、立っているあなたの違いは何ですか?」
「はい・・・座っている私は汗をかいています。」
「立っているあなたは、汗をかいていないのですか?」

公園で何があったのか?それはわからないままだが、「公園での出来事」を経験したのは「立っている友里」のはずである。立っている友里・・すなわち、もう一人の友里も汗をかいていなければ、話の辻褄が合わないではないか?

「立っている私は・・腕に怪我をしています・・・。」
「え・・!?」

(何だって・・?)

立花は慌てて、友里の半そでのブラウスから伸びた白い腕に視線を走らせた。
そこには、爪で引っ掻いたような傷口から、薄っすらと赤い血が滲んでいたのだ・・・。


自宅に戻ると、立花はスーツ姿のままでソファに身を投げた。緊張と混乱からようやく開放された気分だった。
時計は午後7時を指している。

(あの傷は何だったのだろうか?)

実験前から傷があったことは間違いない。椅子に座っているだけの人間の腕に、いきなり傷ができるなどという
ことは有り得ないからだ。

(なぜ、実験前に気づかなかったのだろうか・・・?)

確かに今日の友里は、いつもの友里とは違っていた。見た目も、雰囲気も・・・。

(本当に、美しかった・・・。)

「モデルさんみたいね。」・・という、妻の言葉が脳裏を過ぎった。その時になって初めて妻、真美子の
姿がないことに気がついた。

(買い物にでも行っているだろう・・・。)

スーツを脱いで、シャワーを浴びる用意を始めた時、玄関のチャイムが鳴った。

「ごめんくださーい・・・。」

インターフォンの小さなスピーカーから、聞きなれない男の声が聞こえてきた。

「警察の者ですが、こちら立花さんのお宅ですよね?」

(警察・・・!?)

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