|
午前中の会議が終了し、昼休みとなった。私は会社の近くにある小さな公園のベンチに腰掛け、ただ、ぼんやりと、群がる鳩の一群を眺めていた。人生の終わりが近づいている。そんな確信があった。いや、寿命で死ぬという意味ではない。 国立大学をトップの成績で卒業し、外資系の証券会社に勤務を始めたのが3年前のこと。一人の社会人として、そして将来を有望されるエリート社員として順風満帆な人生を歩いていたはずである。将来は、この会社の本社役員として、世界の市場を駆け巡る自分を連想していた。それは決して夢ではなかったはずなのだ。 しかし、そのようなことが完全に夢となってしまった。もはや「将来」も「役員」も「世界」も、私にとっては無関係な単語でしかない。絶望。そう・・。今の私にはこの単語しか適用できない。私は絶望の中に浸っているのだ。 それは昨晩のことだった。いつものように会社から帰宅すると自宅のマンションの前に一人の女性が立っていた。「相沢留美子」・・・先月まで私と、恋人として付き合っていた女性である。留美子は思いつめたような表情で私を見つめた。私は取り合えず彼女を部屋に招き入れ、用件を聞くことにしたのだ。 「貴方の子供がいるみたい。」 「今日、病院へ行ってきたわ。」 「6ヶ月目に入ったそうよ。」 「私、生みますからね。」 「もちろん、認知してもらうわよ。」 「養育費とかも考えてね。」 「責任はちゃんと取ってくださいね。」 「逃げたりしても無駄ですよ。」 「弁護士にも相談して・・・。」 あとの内容はよく覚えていない。鮮明な記憶として残っているのは、両手の指が彼女の首に食い込んでいる様子。大きく見開かれた留美子の両目が、私を見つめ続けていた様子。そして呼吸を止めた彼女が冷たくなってゆく様子。 許せなかった。尊大で独善的な、あの態度。私は擁護されて当然であるという妙な勘違いの中で彼女は生きているような女性だった。大手建設会社の重役の一人娘として生まれ、あまりに大事に育てられたために彼女は「不自由」という概念を知る機会がなかったのだろう。 そのような彼女の性格面での欠点が、別れの根本的な原因だったのだ。今にして思えば、私が切り出した「別れ話」こそが、彼女が経験した始めての「ストレス」であったのかも知れない。他人の感情とは、自分の意思ではどうにもならないのだということを、彼女は始めて知ったのだ。 「ふざけないでよ。」 「私を誰だと思っているの?」 「貴方、勘違いしてない?」 「いいわよ。私の方からお断りよ。」 「貧乏サラリーマン・・・。」 ロマンの欠片もない、別れの夜の彼女の言葉だった。しかし、私はどのような罵声にも耐える自信があった。これであの、高慢チキで・我侭で・ナルシストで・無教養な女の顔を見ずに済むと思うと、心のどこかが歓喜で震える思いがしたものだ。
|
アホの坂田が怒ってる
[ リスト ]





連載!おめでとうございます!
飢えてました!(ニコっ)
2009/2/24(火) 午後 10:20 [ ageha ]
ageha♪
長編の執筆と同時に進行しているので、中々捗りませんが、まあ、
なんとか頑張ってみます。
コメントに感謝!
2009/2/24(火) 午後 11:00