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「お疲れ様でしたー!」 会場のあちこちで、そんな声が聞こえていた。ステージ上ではすでに音響や照明の機材の「ばらし」が始まっている。俺も、自分が使用した機材をバラシ終わると、それを両手に担いで会場を後にした。 「よう、お疲れさん!」 駐車場に着くと、すでに機材の搬出を終えた吉田が、自分のステーションワゴンの後部ハッチを開き、機材を積み込んでいるところだった。 「あれ、佐藤君も・・どうしたの?」 エンジニアの佐藤が、吉田の脇で何やらゴソゴソといじくっている。 「それがさあ・・。」 吉田は、気落ちした表情で俺を見た。 「電源が入らないんだよね〜・・。」 俺は、佐藤を覗き込んだ。佐藤は吉田が今日、使用したカメラのハッチを開き、内部の基盤にテスターを当てていた。 「本番終了まで、何ともなかったのにさあ・・。」 吉田は、心底心配そうに、佐藤の手元に見入っていた。 このカメラは吉田の私物ではない。仕事を回してくれるプロダクションの所有物である。しかし、それが理由で吉田が気落ちしているわけではないことは、俺にはわかっていた。 「吉田のダブヨン、故障かよ。」 プロダクションでも、このカメラは「吉田のダブヨン」と呼ばれている。「ダブヨン」とはカメラの機種番号「W−400」からきた愛称である。吉田が毎回、仕事で使用している内に、「吉田専用」という習慣が出来上がっていたのだ。また「吉田のダブヨン」と呼ぶに相応しいほど、吉田はこのカメラを愛していたことも事実だった。 「駄目ですね・・基盤には異常がないもんなあ・・原因不明っす。」 佐藤は修理を諦めた様子だった。 「来週まで仕事はないし、メーカーに修理に出してもらえよ、な、吉田。」 俺は吉田を元気づけるつもりでそう言ったが、吉田は悲しそうに微笑むだけだった。
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ダブヨンの伝言
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