羊の隠れ家

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アホの坂田が転んでる

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県警の刑事、岡野芳郎は、倒壊現場を後にすると警察本部へと向かった。あの崩壊は異常だった。
何らかの外的要因がないとするなら、明らかに欠陥建築、違法建築物の可能性がある。

(まずは建設業者の特定。それと金の流れ・・だな。)

何の理由もなく「違法」が行われることなどない。それをすれば「誰かが儲かる」から、それが行われるのだ。粗悪な建材を使用したとしても、それが建築物の内部であれば確認のしようがない。鉄骨や鉄心、あるいはセメントなどに「正規の製品の単価」を請求し、「粗悪な安物」を使用する。これが悪質業者のお決まりの手口だった。

あれほど「華々しく」倒壊したのだ。当の本人達は今頃、証拠書類の隠滅と抹消に奔走しているに違いない。

「そうはさせるかよ・・・悪党め!」

岡野は県警本部へとアクセルを吹かした。


時間は午後10時を回っていた。事故発生からすでに5時間以上が経過している。本部テントではモニターに映し出される倒壊現場の内部の様子を、全員が食う入るように見つめていた。

上空のはしご車から降ろしたチューブカメラは、瓦礫の隙間で何度が躓きながらもようやく二人に接近し、その姿を捉えていた。

「まずいな・・二人の真上に鉄骨が倒れているぜ。」
「ああ・・あれは撤去できないだろうな・・。」
「はやり、横から引きずり出す方法しかないんじゃないか?」
「いや・・横方向に人間が通過できるスペースがあるとは思えないな。」

隊員たちのやり取りを聞きながら、沢木は、自分が選べるオプションがそれほど多くないことを悟った。そして、数少ない選択肢のどれを選んでも、二人の命を危険に晒すことになるという現実も受け入れ始めていた。


祐樹は、時々、苦痛に声を上げながらも、大人しく母親に従っている。いくら子供でも、この状況が「異常」であることくらいは認識しているのだ。母、美由紀は息子の髪に指を絡めながら、自分の無力を呪っていた。

私が働きにでなければ・・
私が店の中で待たせなければ・・
私が残業を断れば・・・

私が離婚しなければ・・・
私が・・私が・・・

駄目・・弱気になっては駄目・・・。信じるのよ。大丈夫・・絶対に救出してもらえる・・。
しかし、美由紀も、自分の周囲の状況から、救出作業が簡単ではないことを察していた。
隙間はある・・でも「出口」はなかった。頭上では、時々、瓦礫が微かな音を立てている。
いつ崩れてもおかしくない状態なのだ。

「お母さん・・・」
「なあに、祐樹・・?」
「お腹・・空いたよ・・」

よかった。痛みが少し和らいでいるようだ。

「うん、お腹空いたね・・もうちょっとの我慢だからね・・。」
「うん・・わかった。ねえ・・お母さん・・」
「なあに?」
「お母さん・・虫、好き?」
「虫?う〜ん・・あんまり好きじゃないよう〜・・」
「僕ね・・カブトムシが好きなんだよ。」
「うん・・知ってるよ。あと、クワガタも・・でしょ?」
「うん!それとね・・カマキリも好き!」
「え〜・・カマキリも好きなのお?」

ああ・・こうしていつまでも・・話していたい。
この子と・・これからも・・この子と・・。

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