羊の隠れ家

■■■Taku2001zooのブログ■■■

アホの坂田が転んでる

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「あなた・・本当に行くんですか?」
「ああ・・私が現場に行っても何が出来るわけではないがな・・。」
「ごめんなさいね・・あなた・・私がだらしなくて。」
「いや、これが君の愛情の深さだ。気にすることじゃあないよ。」

黒木隆造・・・黒木発砲スチロール(株)の社長であり、美由紀の父である。

「とにかく、この目で確かめねば・・・。」

テレビで「倒壊現場」に美由紀と孫の祐樹が取り残されていることを知った直後に、妻がショックで倒れてしまったのだ。

ベッドに横たわる妻に微笑みかけると、隆造は引き出しから車のキーを取り出した。

「行ってくる。いいかい。無理して起きてはいけないよ。」

隆造がそう言って寝室を出ようとした時、ふいに胸のポケットで彼の携帯電話が鳴った。

「はい、黒木です。」
「お父さん・・・私・・美由紀です・・。」
「み・・美由紀・・お前、大丈夫なのか!救出されたのか!」
「いいえ・・まだ、中にいます。」
「い・・今から、そっちに行くから・・いいか、気をしっかり持って・・。」
「駄目よ・・お父さん。こっちに来ては駄目!」

美由紀は強い口調で隆造を制した。

「ね・・少しだけ黙って、私の話を聞いて欲しいの・・。」


娘との会話を終えると、隆造は工場へ向けて車を走らせながら、矢継ぎ早に幹部職員に電話をかけた。

「全員、出社させてくれ。今すぐにだ!」

社長、黒木隆造の車が工場に着いた時には、すでに数人の社員が駆けつけていた。

「挨拶はいい。すぐに会議を始める。準備をしてくれ。」

時間は午後11時30分を回っていた。

幹部役員と主任技師たち、全員の視線が隆造に注がれている。

「諸君らに対する非礼の謝罪は後回しにさせてもらう。まず、本日、○○市で発生したスーパーマーケットの倒壊事故について、知らない者はいるか?」

全員、知っている様子だった。

「現場には現在、二人の人間が生き埋めになっている。私の娘と孫だ。」

会場にどよめきが沸いた。

「論点を要約する。よく聞いて欲しい。知っての通り、倒壊現場は瓦礫の山のような状態であり、外部からこれを撤去すれば一斉に再崩落してしまう可能性がある。」

この件についても、すでにテレビ局の何社かが報道していた。

「レスキュー隊は夜明けを待って、この瓦礫を撤去する作業に入るというが、これは一か八かの博打的な要素を含んでいることは否定できない。私には崩落する可能性の方が高いように思える。諸君らの意見を聞きたい。」

会議室はざわめきで埋め尽くされた。

「危険ですね・・他に方法はないのですか?」

役員の一人が立ち上がって発言した。

「あれば、それを選択するだろう・・・。」

もう一人の役員が、申し訳なさそうな声で言う。

「諸君、実はほんの30分ほど前に、娘が、あの瓦礫の下から私に電話をかけてきた。」

ざわめいていた場内が静まり返った。

「これから話すことは、彼女が、自分と、自分の息子の命を救うために、言わば命がけで発案した脱出方法だ。君たちには突拍子もない内容に思われるかも知れないが、真剣に聞いて欲しい。」

全員が、黙って頷いていた。

「我々は、スチロール製品を扱っている。発布スチロール・ウレタン、どちらも固形化する前は泡状の液体だ。このどちらかを、あの瓦礫の山に流し込むとする。もちろん、周囲には柵を設置してだ。」

再び場内がざわめいた。

「大量のスチロールで、全領域を固めてしまえば・・・!」
「崩壊は避けられるのではないか?」

「そう、娘が言うには、内部の瓦礫は非常に不安定で、どこか一箇所を取り除こうとすれば、全体が崩れてしまう。しかし、その「全体」を予めスチロールで固めてしまえば・・そして、完全に固形化した後に、トンネルを掘るように遭難現場まで、脱出ルートを作れるのではないか?・・どうだろうか?」

「可能です・・いや・・それがベストかも知れません!」

技師の一人が立ち上がっていた。

「やりましょう!社長!これから準備すれば、明日の朝までには完成します!」
「やらせてください!社長!」

黒木隆造は全員を見回した。

「わかった。これは社長命令だ。明朝までにプロジェクトをまとめてくれ。」

「よし、これより作業に取り掛かる!」

そう言って立ち上がったのは、長年、この会社で黒木の右腕を勤めてきた幹部役員の「仲原健一」だった。

「まず初めに、適切な材料の選択、及び強度の算出。それから材料の総量を計算してくれ。
我が社の在庫で足りない分は協力会社に発注する。これらを1班の仕事とする。」

「次に倒壊現場への材料の注入方。及びその輸送手段の確保。これは直ちに運送会社へ協力要請する必要がある。これを2班、頼んだぞ。」

「そして、3班。あらゆる可能性を考慮して、この作戦の欠点を洗い出して欲しい。例えば薬品が人体に与える影響。あるいは、固形化する際に発生する熱の問題などだ。その場で解決できることは、いちいち報告せずに解決してくれ。時間最優先だ。」

仲原の指示を受けて、全員がそれぞれの持ち場へと散っていった。
老練な技術者が見せた、見事な指揮・命令だった。

「社長、私も研究室へ向かいます。社長はここで待機願います。」

仲原はそう言うと、足早に会議室を後にした。

誰もいなくなった会議室で、隆造は握り締めた拳をデスクの上に置いた。
その拳の上に、一滴の涙が零れ落ちた。

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