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軽井沢。高級別荘が立ち並ぶ山道を、3台の黒いセダンが走り抜けてゆく。車はとある別荘の前で停車すると、中から出てきた数人の男たちが、素早くトランクを開き、いくつもの段ボール箱を別荘の中へと搬入し始めた。その中の一人だけは、車に寄り添ったまま、作業に手を貸そうとしない。どうやら彼が、この一団のリーダーらしかった。 「おい、急げ。時間がないぞ。」 この作業が終わったら、彼はしばらくの間、海外で暮らすことにしている。スイスにもフランスにも彼の所有する土地と建物がある。どこへ行っても生活に困ることはないのだ。 「大鳴俊也」・・・大手建設会社「大鳴建設」の社長の息子であった。幼い頃から経営学を学び、大学を出た直後に大鳴建設の「跡取り」として、いくつかのプロジェクトのリーダーを任される身分であった。 「スーパー・マルタカ」を経営する「(株)マルタカ」は、20年前の第一号店の出店の時から大鳴建設の「お得意さん」として、全国の店舗の設計、施工をすべて大鳴に一任しているような関係であった。マルタカの二代目社長「高野浩二」と大鳴俊也は、年が近いということもあり、「取引先同士」という関係を超えた付き合いがある。二人はともに、自分たちを「将来を有望される経済人」として位置づけていたし、また、同世代が共有できる価値観の多くを共有していたのだ。 「スーパー・マルタカ」が関東に進出することとなり、その出店計画が持ち上がったことをきっかけに、大鳴俊也は専務に昇格し、マルタカチェーンの出店のすべてに権限を持つ立場となった。 「手抜き工事」は、その「関東一号店」に始まり、現存する「関東支店」のすべてに「適用」された。マルタカの二代目社長の高野浩二は、大鳴俊也が遠まわしに持ちかけた「小遣い稼ぎ」のアイデアに飛びついたのだ。 店舗設計の段階で、必要以上に高価な資材・建材をリストアップし、実際の建設にはその半分以下の安価な材料を使用する。こうして発生した「差額」を二人で山分けするという単純な手口であったが、毎年のように出店するマルタカの「上向き経営」の流れに乗って、二人は出店を重ねる度に数千万という不正利益を捻出し。それを「隠匿・私物化」してきたのだった。 ダンボール箱には、その「不正帳簿」の記録書類が詰まっている。建設会社といっても、実際に建物を建てるのは「下請け会社」である。大鳴俊也と高野浩二は、すでに「倒壊事故」の責任を下請けに擦り付ける青写真を完成させていた。ここにある記録さえ見つからなければ、彼ら二人を法廷に立たせることは決してできないのだ。 「終わったか・・よし、行くぞ。」 部下たちは、それぞれの車に乗り込みエンジンをかけた。大鳴俊也も、その内の一台のセダンの助手席側のドアに手をかけた。 その時・・・。 「こんにちは・・ずいぶん賑やかですねえ?」 皺だらけのスーツに身を包んだ中年の男が、俊也に声をかけてきた。 「どなたですか?」 男は俊也の質問には応えずに、別荘に視線を向けた。 「さっきあなた方が運び込んだダンボール箱・・あれに興味がありましてね・・・。」 俊也は眉を寄せる。いやな予感がした。 「あ・・貴方には関係のない事です。そこをどいてください。私は急いでいるんだ。」 「ほう・・急いで・・海外旅行でもなさるおつもりですかねえ?」 俊也は、その言葉を無視して車のドアを開いた。 「もう失礼させてもらう。どいてください。」 男は、胸のポケットから手帳を取り出し、それを黙って俊也に見せた。 「まあ、ちょっとだけお付き合いくださいよ。大鳴さん。」 「・・・!!」 「どうせ、東京へ帰るのでしょう?東京へは私どもの車にご搭乗くださいな。」 狭い山道の前後から、赤色等を回しながらパトカーが数台、近づいてきた。 「私は○○県警察本部の岡野という者です。逮捕状はありません。任意同行です。しかし、この別荘の捜査令状は持っています。これからダンボールの中身を改めさせてもらいますよ。大鳴俊也専務。」 俊也は全身から力が抜け落ちるのを感じていた。
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アホの坂田が転んでる
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