|
ドームの頂上付近から、細いチューブが数本、上方に向かって伸びている。ドームのほぼ真上で固定されているはしご車のゴンドラには、内部の二人に空気を送る「生命維持装置」が積み込まれ、チューブはその装置に繋がっていた。ゴンドラには医師が乗り込み、二人の健康状態を絶えずチェックしている。 「危険な状態です。呼吸回数が少ない・・・。」 医師は、モニターを見ながら険しい表情をした。 「急いでください・・!」 隊員達は電動カッターでウレタンを切り刻みながら、内部へと侵入する。鉄骨や軽鉄に阻まれると、チェーン・ソーを使ってそれを切断した。 「気をつけろ・・チューブを傷つけるなよ!」 「了解・・・!」 頂上部には直径2mほどの「穴」が開けられつつあった。ほぼ垂直の「トンネル」である。それが目標への最短距離であった。 「レッドシート・・確認しました・・!」 トンネル内部に潜っていた隊員の一人が、美由紀と祐樹を包み込んでいるシートの一部を目視で確認した。 「了解・・慎重に接近せよ!」 「了解!」 鉄骨、コンクリートパネルを切断しながら、ゆっくりと、極めてゆっくりと、隊員は二人に接近する。 「ポイントに到着しました!」 隊員の両足が、二人と同じ「床面」に立っていた。隊員はシートにへばり付くウレタンウォームを削り取り、ゆっくりとチャックを開いた。 「あ・・今・・今救出された模様です。穴の中から子供がロープで・・ロープで引き上げられてます!」 「きゅ・・救出されました!・・女性が・・黒木美由紀さんが・・引き上げらています!!」 「ご覧になれますか!たった今、二人が救出されました!時間は・・午後2時10分!救出です!成功です!」 現場を遠巻きに取り囲んでいるレポーターたちは、口々にマイクに向かって叫んでいた。 対策本部のテントの中でモニターを睨みつけていた沢木は、テーブルの上のインカムを掴みあげる。 「沢木だ。状況を報告しろ!二人の健康状態は!」 沢木は、インカムに向かって叫んだ。たのむ・・生きていてくれ!! 「呼吸・・正常・・意識・・正常・・元気です!本部長!」 対策本部の中に歓声が沸きあがった。 「や・・やった!せ・・成功だ!」 「生きてる・・生きてるぜー!」 誰かが・・見知らぬ他人の誰かが・・ただ生きているというだけなのに・・ それなら、昨日の・どこかの・誰かも・・ただ生きているだけなはずなのに・・・ ただ・生きている人間を・皆が・毎日のように見ているはずなのに・・・ 対策本部のスタッフは全員・・「誰かが・ただ生きていること」を、涙を流しながら喜んでいた。 「沢木さん・・・。」 自分の名前を呼ばれ沢木が振り返ると、そこには黒木隆造の姿があった。 「黒木さん・・娘さんも、お孫さんも元気です。貴方の見事な・・」 そう沢木が言いかけた時、黒木はその場に膝を落とし、両手を地面につけた。 「沢木さん・・貴方には謝罪の言葉もない・・貴方の立場を無視して・・本当に・・私は・・」 「黒木さん。立ってください。貴方はそんなところに膝をついてはいけない人間です。」 黒木は立ち上がらずに、沢木を見上げた。 「貴方は、あの素晴らしいスタッフたちを育てた、いわば彼らの父親じゃないですか。立ってください。 立って、胸を張って、彼らを褒めてあげてください!」 沢木の差し出した右手に、黒木の右手が重なっていた。
|
アホの坂田が転んでる
[ リスト ]




