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12月○○日は、かつての友人「U」の命日だ。俺には「あっちに逝った奴」を参る習慣はないのだが、こいつの命日だけは2,3年に一度くらい思い出してしまうので、その時はしかたなく行ってやる事にしている。 ある年のその日、俺はそいつの墓の前に「セブン・スター」を一箱、ぽつんと置き、しばらくの間、その光景を眺めていた。不良少年のまま死んでしまった彼と、今、現在までこうして生きている俺とを繋ぐ思い出と言えば休み時間の度に、学校のトイレで隠れて吸ったタバコくらいだった。ヘビーな俺は、ガキの頃から「ハイライト」を吸っていたので、自称「特攻隊長」の彼が、ポケットからセブンスターを取り出したのを初めて見た時には大笑いしたものだ。女子高生じゃあるまいし! どうせ死んでいるのだらタバコなんて吸うはずもないのだが、そんなことを言ったら「墓参り」が成立しないではないか。俺は、ポケットからタバコを取り出し、そいつの墓標の前で一服した。もう隠れて吸う必要のない年齢だ。隠れて吸っていた頃のほうが、「ありがたみ」を感じるものだな。お前は19で年齢が止まってるんだっけな。吸うなら隠れて吸えよ。 そんな事を考えながらぼーとしていると、俺のすぐ後ろを、一人の女性が通り過ぎ、数件先にある墓標の前で立ち止まった。 年齢は30代半ばくらいだろうか。清楚な顔立ちと上品な服装が印象的だった。その女性は墓石の前に跪き、胸元で両手を組むと、ゆっくりと目を閉じた。誰かが何かを祈る姿が、これほど美しいと感じたことは、今までなかったと言えるほど、その姿は美しかったのだが、問題は、その直後に起きた。 軽く閉じられた女性の両目から、一筋の涙が零れ落ちたのだ。涙滴は彼女の頬を伝い、あごの辺りからポトリと落下してゆく。 墓石の前で涙する・・。別に不思議なことじゃないのだが、俺には、どうも不可解に思えた。何故かと言えば、彼女が祈りをささげる墓標が「無縁仏」のものであることに気がついたからだ。 元恋人、元親友・・あるいは親族や親戚や恩人であるなら「無縁仏」とはなるまい。彼女は、いったい誰のために祈っているであろうか?その涙は誰のための涙なのか?俺の頭の「空想エンジン」が全速で回転しはじめていた。 「何らかの理由があり、やむなく無縁仏となった知人。」 「手を合わせると涙が溢れるほどに、彼女の人生に深く関わった存在。」 今、彼女の脳裏を過ぎっている言葉とは、何だろうか? 「安らかにお眠りください。」・・だろうか? 俺はもう一度、彼女の横顔を凝視した。そして、その時、俺ははっきりと見たのだ。彼女の唇が動いたのを。 (ありがとうございます・・・) 俺の頭の空想エンジンは、猛スピードで彼女の「小さな物語」を構成し始めていたのだった。 (はじまり・はじまりー!)
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