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「ママ・・・泣いているの・・・悲しいの・・・?」 「うん・・・悲しいの・・・。」 「何で悲しいの・・・?」 「カブトムシが死んじゃうから・・悲しいのよ・・・。」 「死んじゃうの・・・?」 「ご飯をあげないと・・・死んじゃうのよ・・スイカを食べないと・・死んじゃうの」 死なないで・・まゆみちゃん・・・ 母親の涙が、娘の頬を濡らした。涙はただの塩水であり、塩水にはもともと大した意味はない。しかし、時として塩水は、言葉では伝わらない「意味」を伝えることがある。言葉では伝えることのできない「意味」を、ただの塩水が伝えてしまう。 言葉を超越して・・・・ 概念さえも超越して・・・ 娘は、母親の手からスイカを受け取ると、虫かごの中でうずくまっているカブトムシの前に そっとそれをおいた。 「ご飯ですよ・・・カブトムシさん。」 娘は小さな声で語りかける。 「ちゃんと食べて・・・スイカ・・好きでしょう・・・?」 カブトムシは動かない。 「頑張って・・!!頑張ってスイカ、食べて・・・!!」 「死んじゃだめ・・・死んじゃだめなんだよ・・・」 母親は、両手を胸の前で握り合わせる。その時・・・。 虫かごの中の小さな黒い塊が、モソっと動いた。前方に突き出た角をゆっくりとゆすりながら、カブトムシはスイカの欠片の端っこに口をつけた。 「・・・食べてる・・食べてるよ。ママ!」 「う・・うん。食べているね・・・」 母親は娘の髪をそっと撫でる。 「ねえ、まゆみちゃん。カブトムシさん、おいしいって言ってる?」 「うん!言ってるよ!」 「まゆみちゃんにありがとうって、言ってるかなあ?」 「うん。言ってるよ、大好きなスイカをありがとうって!」 「カブトムシさん、まゆみちゃんが大好きなんだよね?」 「うん!そうだよ!あたしもカブトムシさんが大好きだからだよ!」 「ママも・・・まゆみちゃんが大好きよ。」 「うん!あたしもママが大好きだよ!」 (お腹が空いたね。まゆみちゃん。お昼ごはん、食べようか・・・) あの・・クリーム色の・・・温かい・・・やさしい・・・おいしい・・・ (完)
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まゆみちゃんの言語
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