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(システムを起動します)
(30・・29・・28・・27・・) (使用者のサイバー・ウェーブを確認しました)
(未確認の使用者がいます・・・確認する・・YES・NO) (未確認ウェーブを承認しますか?・・・YES・NO)
(使用者を2名に限定しますか?・・・YES・NO) (ジョイント転送の準備をします・・・4・・4・・3・・2・・)
(ジョイント転送の準備が出来ました) (転送先を指定しますか?・・・・YES・NO)
「ねえ、祐介さん。どこに行きましょうか?」 美咲はモニター画面を見つめたまま、最後にいる大岩に声をかける。
「エーゲ海の最新版が発売されたのよ?試してみる?」
(試してみる?)と言いながら振り向いた美咲は、セカンド・ユニバース用に市販されている旅行ソフトのパッケージを、ソファに座っている大岩に見せながら微笑んだ。
「ああ・・それでいいんじゃないか。」
大岩は、強張った笑顔で応える。
(転送先が指定されます・・・データROMを挿入してください)
(データROM確認・・・転送先が決定されました) (使用者ID確認後、転送スタンバイ・モードに入ります) (IDを入力してください)
(ID・・確認・・・転送時間が決定されました) (転送スタンバイ・・・・ENTER・KEYで転送開始します) 「じゃあ、始めるわね・・・。」 美咲の指先がエンター・キーに触れた時、その細い手首が背後から捕まれた。
「ちょ・・ちょっと・・どうしたの・・祐介さん!」
大岩は美咲の手首をひねりながら、彼女を立ち上がらせる。
「痛いわ・・祐介さん!」
美咲の眼前に、異様な光を帯びた大岩の両目があった。
「美咲・・・もう、お互いに芝居はやめにしよう。」
大岩はそう言うと、美咲の手首を引っ張りながら居間の中央まで連れて行き、その体をソファに突き倒す。
「な・・何のこと・・・芝居って・・!」
美咲は自分の前に仁王立ちしている男を見上げ、その表情に怯えた。
「もう惚けなくてもいい。あれは君の仕業なんだろう・・・?」
「あれって・・何が・・・?」
大岩は美咲の質問には応えずに、言葉を続けた。
「クルーザーの向きが違っているよ。美咲。」
「え・・・!!」
「いつもは海の方向を向いて停泊しているのに、今日は陸を向いている・・・。」
「・・・・・」
「誰かがあれを操縦したってことだ・・・違うかい?」
「そう・・・そうね・・・そこまでは気がつかなかったわ。」
「ようやく認める気になったのかな?」
「ええ・・どうやらあなたは、自分が殺人者だということを認めたようですから、私も認めます。」
「やはり・・君の仕業と言うことか・・・?恐ろしい女だな・・君は。」
「あら・・あなたほどではなくてよ・・・大岩社長。」
二人の視線が空中で衝突していた。大岩は美咲を見下ろしながら、右手をスーツの内ポケットに差し込む。
「どんなテを使ったんだ?後学のために教えてくれないか?」
その右手には、黒光りする拳銃が握られていた。大岩はゆっくりと銃口を美咲に向けると、生唾を飲みながらオートマチック・ピストルの撃鉄を引き起こす。
「イスラム過激派に仕立て上げるとは・・・まるで悪魔の業だな・・美咲・・・。」
「わ・・私を撃つの・・?」
ほんの数メートル先で自分を狙っている黒い凶器に、美咲は全身が震えだしていた。
「君はたった今、私をセカンド・ユニバースに放り込もうとした。例の二人と同じように、私もマインド・ロストさせるつもりだったようだが、残念だね。美咲・・・そんな単純な作戦が私に通用すると思っていたのかい?」
美咲は素早く、視線をPCデスクへと走らせる。距離は5mほどだった。しかし、大岩はそんな美咲の様子を見逃さない。
「無駄だよ。所詮、君はパソコンが無ければただの女だ。ここで死んでしまえば、その魔術も使えない。そうだろう・・・美咲?」
その言葉を待たずに、美咲はテーブルの上に置いてあったガラス製の灰皿を大岩に投げつけた。目と鼻の先から投げられた灰皿をかわすことが出来ずに、大岩は汗の滲む額に灰皿の直撃を受ける。美咲は素早く立ち上がると、PCデスクへと走った。
(ENTER・・・・!!)
(システム不良・・・転送を中止します)
(システム不良・・・転送を中止します) (システム不良・・・転送を中止します) 指先が何度もエンター・キーを叩く。その直後、部屋に銃声が響き、美咲の体はデスクの横に転がりながら倒れた。左肩に焼け付くような痛みを感じ、美咲は苦痛に呻きながら大岩を見上げる。
「美咲・・・もう諦めろ。君の負けだ。」
大岩の手には、コードが引きちぎれたパッチ・ユニットの本体がぶら下がっていた。
「接続不良ってやつだな・・・。」
美咲の口が、何か言おうとして開いたが、その直後に大岩が放った2発目の銃弾が右胸に着弾していた。時速700Kmで飛来した弾丸が、美咲の皮膚を裂き、骨を砕きながら、その体を貫通する。動物的な反射運動で転がる美咲。その体に3発目が命中し、4発目・・5発目と銃声が立て続けに響き、やがて室内に静寂が戻った時、美咲は居間の隅で、白いブラウスを血塗れにして横たわっていた。
大岩は無表情のまま、しばらくの間、ブラウスから流れ落ちる、美咲の真っ赤な血流を見つめていた。
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電脳の女神
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