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「皆さん。今晩は!ニュース22の時間です。今日は大変ショッキングなニュースが入ってきました。本日午後4:00頃、T国のおいて軍事衝突が発生し、現在、T国の首相官邸を初めとする政府の重要機関がすべて、軍隊によって制圧されている模様です。現地で取材中のフリー・ジャーナリスト渡辺さん。現在のそちらの様子はどうですか?」
「はい、こちら渡辺です。え〜・・ご覧になれますでしょうか?私は立っているのはT国政府の人民評議会会館、これは日本の国会にあたる建物の前なのですが、評議会館前の広場は軍隊の装甲車と、たくさんの兵士たちで埋め尽くされ、物々しい雰囲気が漂っております。」
「はい。確認できます。いったい何が起きたのでしょうか?何か情報は入ってますか?」
「はい。これは一種の軍事クーデターではないか、というのが現地メディアの見方のようですが、現在までのところ、それ以上の情報は入っておりません。」
「軍事クーデターですか?しかし、T国の現政権はもともとクーデターによって樹立された軍事暫定政権ですよね?」
「そうですね・・・ご存知のようにT国は2年前、当時の王制による国王支配体制を「旧体制」として批判していた一部の軍属たちが、やはり王制に反対していた住民たちを先導する形でクーデターを起こし、正規軍との内戦の末に、当時の国王「エサルム国王」を国外に追放して、政権を掌握、事実上の統治者となっているわけですが、実はこの軍事政権の中には、当時の国王のシンパも相当数いるのです。」
「なるほど。では今回のクーデターは、旧体制の復活を願う国王シンパたちによる反乱だということも考えられるわけですね。」
「そうですね・・。」
「では、現在、人民評議会館を包囲している兵士たちは、元国王のシンパたちだと言うことですね?」
「はい。それは間違いないようです。しかし、それにしても、この2年間の間、内戦を誘発するような政治的な対立というものはなく、両陣営ともに一定の距離を保ちながら安定していたわけですが、ここに来て急にこのような展開となっていることに、現地のメディアも首を傾げているようです。」
「なるほど。ではこの数日間の間に、何か内戦の勃発につながるような出来事があったと想像できますね?」
「そうですね・・・あ・・!ちょっとまってください。只今、現地の国営放送局から連絡がありました。どうやら、これから評議会館の中で記者会見が行われるようです。」
「記者会見ですか!!え〜と・・渡辺さんは会見の会場に入れそうですかあ?」
「ええ・・ちょっと待ってください・・ ・・・ ・・・ え〜、スタジオさん。聞こえますか?」
「はい、大丈夫です。」
「どうやらこれから、その記者会見の様子が生中継されるようです。」
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「国民のみなさん。私はT国、国防庁・情報局のイライザ・マリーナです・・・。」
両側に武装兵士を従えてカメラの前で話し始めたのは、以外にもスーツ姿の女性だった。「イライザ・マリーナ(32)」は、2年前、王制政権の元でT国の陸・海・空軍を管轄する「国防庁・情報局」において主任補佐官を務めていた女性である。
「私たちはこれより、現政権下において、国家の威信を著しく汚す不名誉な行いがあったことを、国民の皆様に報告しなければなりません。私たちの今回の実力行使は、このような不名誉が現政権によって永続的に続けられることを阻止するためのものであります。」
「情報局は先日、現政府の内部において一部の権力者が国民の尊厳を踏みにじるような愚行を組織的に行っていることを突き止めました。この糾弾されるべき組織のリーダーは、T国政府軍・陸軍参謀長のブレーベル総統です。」
異様なざわめきと、無数のシャッター音が会場の空気を激しく振動させる。
「ブレーベル総統以下、約20名ほどの人間が、この組織に参加しているものと思われますが、我々の誇る優秀な兵士たちは先ほど、速やかにブレーベル総統の身柄を拘束し、組織構成員も、その大半が逮捕されています。」
その時、記者の一人が手を上げた。
「その・・国家の威信を著しく汚す不名誉な行為を・・具体的に説明してもらえますか?」
「はい。これを皆様に申し上げることは私の心が痛みますが、伝えないわけにはいきません・・・。」
静けさを取り戻した会場では、すべてのカメラが彼女の表情をアップで捉えている。
「彼らは、旧市街地に秘密裏に強制収容所を作り、多くの少年少女たちを監禁しておりました。」
再びざわめきが大きな渦を創る。
「少年少女たちは、国内の富裕層、及び海外からの観光客を相手に、ふしだらな行為を強制されていました。つまり彼らは自国民を拉致、監禁して大掛かりな売春組織を結成し、多大な利益をあげていたのです。」
シャッター音が、機関銃の連射のように鳴り響く。
「私たち情報部は、その収益がプールされている秘密口座の存在を突き止めております。今後、金の流れは詳しく分析し、決して隠すことなく国民の皆様にご報告させていただきます。今回の実力行使にあたっては、現政権下で管理されている正規軍の兵士たちも多く参加しております。皆、このような愚劣な行為を許せない愛国者たちです。」
「私たちは不要な流血を望むものではありません。これを見ている者で、非国民ブレーベルに協力し、この神を恐れぬ悪魔の所業に加担していた者たちは、速やかに自首することを勧めます。自首してきた者には、多少なりとも神の恩赦が齎されるでしょう。」
「しかし、最後まで逃走を企てる者たちを、神は決して許しません。いずれ数日中にあなた方の氏名も写真もメディアを通じて国内全土には公表されることになります。民衆は皆、あなた方を許さないでしょう。どのようなことになるか、自らが考え、自らの意思で行動しなさい。」
イライザの言葉を聞いている「組織の関係者たち」は、おそらくこの瞬間に自首を決めたに違いない。この国の宗教観において、「神が許さない者」と断定されれば、それは「死すべき者」であり、同時にその家族たちも死すべき者とされる。そして、そのような人間に死を与える権限は、「神の子」である民衆の全員が有しているのである。国内で逃走中に誰かに発見されれば、その場で嬲り殺されても不思議ではないのだ。
会場のざわめきは、やがて激しいシュプレヒコールへと変わっていった。
「ブレーベルに死を!」
「ブレーベルに死を!」 「ブレーベルに死を!」 「ブレーベルに死を!」 「ブレーベルに死を!」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セカンド・ユニバース・・・大脳の中に創出されている「完全擬似空間」で、このニュースを見ていた大岩祐介は、T国で起きたクーデターが、今後の自分の運命にどう関わってくるのかを正確に判定しなければならなかった。
「例の計画」の協力者である「ブレーベル総統」が逮捕され、現地組織も解体しつつある。しかし、今のニュースを見る限り、情報局は「例の計画」の根幹部分に関しては、まだ何も知らないようである。
(仮に・・それが知られることになれば・・・)
売春ごときで死刑を宣告する野蛮な国だ。その売春さえ、人身売買と臓器密売と意識管理の隠れ蓑であることを知ったらおそらく国中が発狂するに違いない。そんなことを考えると、ふいにおかしさが込み上げ、大岩はヘラヘラと笑い出した。
(何が神だ・・・この原始人どもめ・・・)
(無能なお前らはセックスして、子供を生んで、生んだ子供を売り払った金で暮らしていればいいんだよ。)
(よし・・・佐伯を使おう。)
大岩の脳裏には、常務の佐伯賢治の顔があった。
(向こう(現実世界)に帰ったら、さっそく佐伯をT国に派遣して、特殊病棟を一旦、閉鎖させよう。あそこで働いている連中は自分が売春組織に組み込まれている立場だということを知らない。知らないのだから自首するはずはない。この混乱が続いている隙に、特殊病棟を閉鎖して、ブレイン・キーパーを処分してしまおう・・。)
(意識を消去された大脳なんて、ただのたんぱく質の塊に過ぎない。そしてSYプログラムを転送してしまえば、計画は永遠に発覚することはない・・・。)
(逮捕されているブレーベル総統は話しだろうか・・・?いや・・彼は決してあの計画のことは口にしないはずだ。そんなことをすれば、あの野蛮人どもに100回くらい殺されるだろう・・・つまり、すべての秘密は守られる。後は時期を見計らって、またどこかの貧乏国に病院でも建ててやり、再び計画を再開すればいいだけのことだ。)
そう考えると、大岩は一刻も早く「向こう側」に帰りたくなった。
「あれから何分、経っただろう・・・?」
そう呟きながら、大岩は壁の時計を見上げる。
(5分後に・・・・転送しますね・・・)
ふいに、澄川美咲の言葉が脳裏を過ぎる。
(そう言えば・・・私は・・どこにいるのだ・・・?)
「自分の・本当の・体」が今、どこにあるのかを・・・
大岩は知らなかったのだ。
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電脳の女神
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