羊の隠れ家

■■■Taku2001zooのブログ■■■

電脳の女神

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「それではこれより、日本の医療機器メーカー、セーブ・ヒューマンが開発しました最新の臓器摘出機器について、その使い方の説明いたします。」
 
(ど・・どこだ・・・ここはどこだ!)
 
・・・と、声を出したつもりだったが、その口は動かなかった。周囲を見回したいと思うのだが、眼球もやはり動かない。上を向いたままの眼球は、鏡張りになっている天井に映っている自分の姿が見えるだけだった。全身が動かなかった。動いているのは意識だけである。
 
(どういうことだ・・!!)
 
鏡の中には全裸の自分がいた。全裸の自分を見下ろす、数人の若い男女の姿も見える。
 
「では、さっそく説明を始めましょう。」
 
講師が手元のリモコンを操作すると、静かな機械音と共に、ストレッチャーがスライドする。ベッドの上には中年の男性が寝かされていた。
 
「この人は先日、脳死判定を受けた方です。ご遺族の好意により、こうして人類の医療研究の未来のためにその体を検体として捧げてくれました。全員、黙祷!」
 
(脳死だと・・・何のことだ!私は脳死などではないぞ!)
 
講師を取り囲んでいる医学生たちは、全員、そっと目を閉じ、両手を胸の前で合わせた。
 
(や・・やめろ・・私は生きている・・・!!)
 
「では、始めましょう。」
 
講師が再びリモコンを操作すると、ストレッチャーの両側からメカニカルな装置が接近する。
 
「この製品はブレイン・キーパーと呼ばれていますが、その名前の通り、この機器を使うと大脳を生きたままで摘出することさえ可能になります。今日は、検体から脳を生かしたまま臓器を摘出し、そして最後に残った脳を摘出して、保存容器の中に収納するまでの手順を説明します。」
 
(ブレイン・・・キーパーだと・・・ふ・・ふざけるな・・・!)
 
「あそこにセットされているのがブレイン・キーパーの大脳保存システムですね。先週も一人、検体が提供されまして、現在はその方の大脳が生きている状態で保存されています。」
 
「講師、その人も脳死だったのですか?」
 
「ええ。まあ、その人の場合は特別です。なにしろその人は、この機器を開発したセーブ・ヒューマンの役員だった方ですから。」
 
「へえ・・。じゃあ、人生の最後を、自分の会社で開発した医療機器の中で送っているということですか?」
 
数人の笑い声が響いた。
 
「こちらに視察に来られた際に、事故に逢いましてね。残念ながら脳死となってしまいました。ご遺族の方々の希望もあり、ブレイン・キーパーでその脳を保存することになったわけです。」
 
(ここは日本じゃないのか!・・どこだ!!・・・よせ・・・機械を止めろ!)
 
「まず、検体のエックス線写真を撮影します。映像は視覚化されません。すべてデータとしてコンピューターの内部で処理されるわけです。次に検体のスキミングが始まりますが、ここまではスタートスイッチを入れてから、全自動で行います。」
 
(わ・・私は生きているんだぞ・・貴様・・・聞こえないのか!)
 
「検体のデータをコンピューター精密解析するまでに、約5分間かかります。その間に、カメラがスタンバイされ、モニターに検体の全体像が映し出されます。」
 
「さあ、いよいよロボット・アームの出番ですよ。アームは全部で50本も装備されています。用途に応じて先端に取り付ける手術器具を変えることも可能ですし、予め指定された器具ですべての仕事を行うことも可能です。今回は全自動モードで作業を進めますから、皆さんは検体が解体される様子をよく観察してくださいね。」
 
ベッドの左右にある手術システムから、数本のアームが全裸の検体の上に伸びてきた。
 
(く・・・来るな!・・止めろ・・・止めろ・・!)
 
「まず、レーザー・メスで皮膚と筋肉を切開してゆきます。」
 
1本のアームの先端が、赤く光り始めていた。
 
(止めろ・・・止めろ・・・止めろ・・・止めろ・・・止めろ・・・)
(熱い・・・熱い・・・熱い・・・熱い・・・熱い・・・)
(痛い・・痛い・・痛い・・痛い・・痛い・・痛い・・)
(苦しい・・苦しい・・苦しい・・苦しい・・・・)
(止めろ・熱い・痛い・苦しい・・・)
(痛い・・苦しい・・熱い・・)
(あ・・つ・・い・・)
(い・・た・・い)
(く・・る・・)
(し・・い・)
(・・・)
(・・)
(・)

数時間後、誰もいなくなった実験室の片隅に、二つの「ブレイン・キーパー」が並んでいた。この二つの脳は、脳死の判定を受けているので、その脳に「脳波測定器」が取り付けられているわけではないし、もちろんそれが「セカンド・ユニバース」に接続されているわけでもない。
 
従って、その二つの脳が「生きている」という意味は、単にそこに養分が供給され、散漫な代謝が確認できるということであり、それ以外の意味は何もなかった。
 
しかし、もし仮に、この二つの脳が、脳死ではなかったとすると、この青白く輝く保存容器の中で、脳は「何かを考えている」ということになる。もちろん、その何かを伝える術はないし、その何かを受け取る術もない。
 
二つの脳は・・・
 
何かを考えているのだろうか・・・

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