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土曜日の午後。社員のほとんどが仕事を終え帰宅した後、外回りの営業を終えた若い男子社員が社員食堂に駆け込んで来た。外販営業部の若きエース「木村営業部長」である。彼はあわてた手つきで自動発券機で食券を買うと、それをキッチン・カウンターの上に置く。
「あらあら、木村君。今日も滑り込みね。」
「ごめんねー、おばちゃん。」
「いいのよ〜。土曜日は食材が余っちゃうからね。」
「あはは、じゃあ、僕は残飯整理係りだね。」
「そんなこともないけどね。特別大盛り定食にしてあげるわよ。」
「さんきゅー。」
そう言って食堂を見渡すと、窓際の席で一人の女性が、今、まさに食事を開始しようとしているのが見えた。木村はそっと腕時計のストップウォッチをスタートさせる。
どうやらメニューは「特別大盛りカツ丼定食」のようだった。
まずカツ丼に食らいつき、その直後、素早く味噌汁を流し込む。再びドンブリを手にしながら、おしんこうをつまみ・・・。
そして食事を終えると、女性は何事もなかったかのように、ティーカップを口元に運び、テーブルの上に開いた小さな文庫本に視線を落とすのだった。
「こんにちは!澄川さん・・じゃなくて社長!」
「あら、木村君。土曜日なのに頑張ってるのね。」
「いえいえ、ちょっとは頑張らないと・・ね?」
美咲は、そんな木村の言葉に笑みを見せた。
「ところで社長。こんな時間にお食事ですか?」
「ううん。ちょっと一人になりたくてね。紅茶を飲みに来ただけよ。」
「ふ〜ん・・・そーなんですかあ・・・」
「な・・何よ・・・何かへん?」
「社長・・・ほら・・ここに・・」
(ここに)と言いながら木村は自分の頬を指差した。
「ご飯粒がついてますよ。」
美咲はあわてて、指先でそれを探す。木村はその様子に笑い転げた。
「もう・・木村君・・見てたのね!」
「はいはい。見てましたよ。特別大盛りカツ丼を10分でたいらげる女性も珍しいっス!」
「ひどいなあ・・・時間まで計ってたのね!」
「いや・・つい・・」
木村は、頬を赤くする美咲を、つい見つめてしまう。
(きれいな人だなあ・・・きれいで、賢くて、優しくて・・理想的な女性だなあ・・)
「な・・何よ。あんまり見つめないでよ。照れるじゃないの。」
「い・・いえ。その・・きれいだな・・と、思って。」
「あ・・そんなこと言っても給料はアップしないからねー!」
「ちぇ!じゃあ、仕事で頑張るしかないっスね。」
美咲は、そんな木村を、つい見つめてしまう。
(素直で・・まあまあイケメンで・・・仕事も出来て・・いい感じね)
「な・・何ですか・・あんまり見つめないでくださいよ。」
「うふ・・照れてるの?ねえ、木村君。これから食事でしょ?」
「ええ。そーですよ。」
「じゃあ、食事が終わったら呑みに行く?それとも何か予定があるかしら?」
「え・・・!マジっスかあ!やった!」
「会社の近くにね、いい感じの居酒屋さんを見つけたの。軽く呑もうよ。」
「了解っス!もちろん社長のおごりで!」
「おごりかあ・・・仕方ないわね。その代わり二件目は木村君のおごりよ。」
「おっと・・二次会もありってこと?感激っス。じゃあ、二次会はカラオケ、おごっちゃいます!」
「え〜・・カラオケ〜・・やだなあ・・ショット・バーがいいなあ。」
「もう・・そんな、おっさん臭いこと言わないでくださいよ。」
「何がおっさん臭いのよ!カラオケなんて女子高生が行くところでしょ?」
「あ・・わかった。」
「な・・何が?」
「社長・・・歌うの、苦手なんでしょ?」
「そ・・そんなことないわよ。こう見えても地元では有名な美声なのよ!」
「じゃあ、二次会はカラオケに決定ってことで!」
「やれやれ・・・しょうがないかな・・・。」
「で・・・カラオケの次は・・・」
木村の言葉に意味ありげな響きを感じて、美咲は再び彼の目を見た。
「う〜ん・・それは木村君次第・・・かな?」
美咲の言葉に意味ありげな響きを感じて、木村は再び彼女の目を見た。
「と・・ところで社長。また例の本、読んでるんですか?」
木村は頬を微かに赤らめながら、美咲の手元に視線を向ける。
「旧約聖書・・でしたっけ?」
「ああ・・これ?違うわよ。これは(日本書紀)よ。ここにもね、宇宙の作り方が書いてあるのよ。」
「へえ・・・宇宙の作り方ねえ・・・。」
美咲が差し出した文庫本を受け取ると、木村は何気なくページをめくる。
「何か、難しいっスね。読みづらいしさあ・・・。」
「そうね。昔の言葉を強引に訳しているからね。」
「そうなんだ・・・。」
「ねえ、木村君。」
「なんスか?社長?」
「私と一緒に宇宙を作りましょうか?」
木村は、その言葉の意味がわからずにきょとんとしているだけだった。
二神はそこで、その嶋に降りて住み、そして夫婦の営みをして国土を生もうとした。すぐに殷馭慮嶋〔おのごろしま〕を國中之柱〔くになかのみはしら〕と定め、男神は左から廻り、女神は右から廻った。國柱〔くにのみはしら〕を分かれて廻り、同時にお互いの顔に出逢った。その時、女神が先に、「ああ。美しい男に逢えたわ」と唱えた。男神は喜ばず、「私は男である。道理としてまず先に唱えるべきである。どうして女でありながら、反して先に言ったのか。このことはすでに不祥だ。なので改めて廻るべきだろう」と言った。 そこで二神は再び出逢い直した。今度は男神が先に「ああ。美しい女に逢えた」と唱えた。そして女神に「おまえの体には何か成っている部分があるか」と尋ねると、「私の体には一つ、雌〔め〕の元〔はじめ〕となる部分があります」と答えた。男神は、「私の体にもまた、雄〔お〕の元〔はじめ〕となる部分がある。私の体の元〔はじめ〕となる部分を、おまえの体の元〔はじめ〕となる部分と合わせようと思う」と言って、そこで陰陽〔めを〕が初めて交わり合い、夫婦となった。
そして今日も、地球は廻る。
それは永遠に辿り着くことのないループの旅。
永遠に辿り着けないループの輪の中で・・・
そして今日も・・・
誰かが、誰かと・・・・。
【電脳の女神・・・完】
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電脳の女神
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お疲れ様でした。 校了、おめでとうございます。 冒頭から読ませていただきます。
感想は後ほど。
2011/10/26(水) 午後 10:12
おじさん♪
時間的な制約もあり、かなり雑な描写もありますが、
まあ、その辺はご了承ください。
2011/10/26(水) 午後 10:23
先生、お疲れさまでした
人類はいつか第二の世界に移住することでしょう
それを破滅と呼ぶか、創造と呼ぶのか
そして、我々ひとりひとりが、
かつて「神」と呼ばれたそれになる日
創造者になり、無数の世界を展開する未来が、
もうそこまで来ているのかもしれません
発想を構成し、そこに文という絵画を描き、
その想いを未知の人に伝える
いったい誰のために・・・
自分自身のため ? 果たしてそれだけだろうか・・
それだけの為に、人は努力を惜しまないのだろうか・・・
それだけの為に、人は書き続ける苦しみと闘うんだろうか・・
おいらにはその答えは解らない
何かを伝えたい・・いったい誰に・・
「伝えたい想いがそこにあれば、それは必ず伝わる」
僕らが生きた時代に、僕らが描いたささやかな想いは、
僕らの知らない誰かが、きっとそれを未来に届けてくれる・・・そう信じています
2011/10/27(木) 午後 5:20
プリ氏♪
>僕らが生きた時代に、僕らが描いたささやかな想いは、
>僕らの知らない誰かが、きっとそれを未来に届けてくれる・・・そう信じています
ちょっと泣けた。ありがとう。
少なくとも、こうして「想い」を書き残せるって、幸せなことだと感じる。
誰かの生きた時代に、誰かの描いた「ささやかな想い」を、しっかりと受け止めて
ゆこう。たくさんの「誰か」が、今日も・・・そして明日も・・・
2011/10/28(金) 午前 0:52
おつかれさま!
フィクションのようでフィクションでないような怖い話しだね。。。
T国なんかしっかりイメージできるし(笑)
タク兄の問題意識も反映されていて面白かったよ。
原発の現状を見ていても市民レベルの声なんて所詮国には届かないんだと思わざるを得ないけど、「意識」だけは残して後世に伝えていきたいね。
楽しませてもらいました♪ありがとう!
2011/10/29(土) 午前 9:19 [ omni ]
おむねえ♪
色々と苦労の多いテーマだったので、読んでもらえることは本当に心の
支えとなってました。感謝します。おむねえのブログがなくなって寂しい
ですが、また、ちょくちょくと、遊びに来てくださいね!
2011/10/29(土) 午後 5:58
あたしにはちょと難しいテーマだったけど
ストーリーとしてはかなり面白かった。
一気に読んじゃった。
007にボンドガールとの絡みが必要なように
箸休め的なシーンは必要ですねっ!!
頭がいぃのか、センスがあるのか・・・
やっぱ宇宙人でしょ?
2011/11/7(月) 午後 2:09 [ - ]
↑しかし、子供染みた感想だわ。。(゚m゚*)プッ
2011/11/7(月) 午後 2:11 [ - ]
どーりーさん♪
レスが遅れました・・・すまん。
読んでいただいただけでも感謝ですよ。
いつもありがとう。
素敵な「シモネタ」も楽しく拝読させていただいて
おります!・・・・(おっとっと)
すべての生命はセックスから誕生した!!
2011/11/8(火) 午後 5:41