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■24時間の記憶【1】
その村には30人ほどの人間が住んでいる。人々の記憶は24時間しか維持できないのだが、本人たちはそれを知らない。
1日目。
男(名前はケンという)はいつものように狩りに出かける。そして森の中の「A地点」で恐ろしい猛獣に出会ってしまう。時間は午後1:00だった。猛獣は男を食うために襲ってくる。男は必死で逃げ、なんとか村まで無事に逃げ切った。この出来事の記憶は24時間後、つまり明日の午後1:00までしか保存されない。ケンは自宅に戻ると、夕食時に家族にそのことを話す。時間は午後7:00だった。
1)男の妻「ハナ」と息子「マサ」は、午後7:00に「A地点には猛獣が出没する」という情報を得る。この情報の記憶は明日の午後7:00には消滅する。
2)ケンは午後7:00に、「A地点には猛獣が出没することを家族に伝えた」という記憶が残る。つまり男の脳から、明日の午後1:00には消えるはずの「A地点の情報」
が、家族に話すことによって更新され、明日(2日)の午後7:00までは継続できる ことになる。 息子のマサは翌日(2日)、学校に行くと、その情報を10人の友人たちに話す。時間
は午前は9:00。10人の友人たちは2日の午前9:00に「A地点には猛獣が出没するという話を友人から聞いた」という記憶が発生し、その記憶は明日(3日)の午前9:00までは保存される。そして、それを話したマサの記憶は「父親から聞いた情報」から「友人に伝えた情報」に更新され、結果的にマサの「A地点・猛獣出没情報記憶」も明日(3日)の午前9:00までは継続できることになる。 その日(2日)の午後6:00。息子のマサは父親のケンに「A地点情報」を友人たち
みんなに伝えたことを話す。父親のケンの記憶は、あと1時間で消滅するはずだったが、この会話によって記憶が更新される。「自分の経験を息子に伝える→息子がそれを他人に伝えたという経験を息子から聞く」このように更新された父親の記憶は明日(3日)の午後6:00までは保存される。 その日(2日)の夜、友人たちはそれぞれの家庭で、家族に「A地点情報」を話す。時間に多少の違いはあるが、平均すると午後7:00前後である。翌日(3日)友人たちの母親は集会を開き、「A地点」の危険性について話し合う。時間は3日の午前10:00。これによって3日の午後7:00には消滅するはずだった母親たちの記憶は、4日の午前10:00までは保存されることになる。
マサの母親はその日の夕方、狩りから帰って来た夫のケンに、集会で「A地点情報」が話し合われたことを伝える。時間は午後5:00だった。父親のケンの記憶は、あと1時間で消滅するはずだったが、この会話によって記憶が更新される。「自分の経験を妻に伝える→妻がそれを集会で話し合う→話し合われたことを妻から聞く」このように更新された父親の記憶は明日(4日)の午後5:00までは保存される。
■独身男性や独身女性は、この「A地点情報」を家族から得ることはないが、世間話しや噂話しによって、この情報は村の隅々まで行き渡る。
「ねえ、知っている?」
「えー!本当ー!知らなかったわー!」 ・・・と、情報が伝達されている間は、A地点情報の発信源である「ケン」にもその情報が「逆伝達(フィードバック)」され、ケンの中の記憶は更新され続ける。ケンが猛獣に遭遇したのは1日の午後1:00。この記憶は24時間で消滅するはずだった。つまり2日の午後1:00には消滅するはずだったが、現時点では4日の午後5:00までは保存されることになっている。
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