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「おい・・・こら・・」 俺の、静かだが、しかし、め一杯ドスの利いた声で、場内が一瞬静まり返った。 「こら・・この餓鬼ども。黙って聞いてりゃいい気になりやがって・・・何が設備だ?何が古いだ? おお!こら、そこのメガネ狸!!」 俺に「メガネ狸」と呼ばれたのは、宇宙工学研究担当の技師「東大出太夫」だった。 「てめえは、親に食わせてもらって、国費でお勉強させてもらっていながら、ちっとも学習できねーらしいな?設備が古くて研究できません、なんて理屈はなあ・・教えてもらわないと解りませんって言葉と同じなんだよ!てめえなんぞ、誰かが助けてくれないと何にもできねー半人前の糞ガキじゃねーか!あんまり偉そうにしてねーでな、明日からは下を向いて歩けや。もし、前なんか向いてたらぶっ飛ばすぞ!」 「おい・・そこの腐れアマ!」 腐れアマとは、気象・大気分析が専門の女性大学院生「有東聖子」だ。長い髪をカールさせて、いつも着飾っているタイプの女だ。 「てめえは水に入らないで水を研究できると思ってるみたいだな・・?なーんだ、その指のケバケバは・・・」 彼女は、反射的にネイルアートを施した指先を隠した。 「何が研究だ。そんなケバケバ指で、いったい何ができるんだい?おめえみたいな化粧馬鹿は研究なんてやめてな、田舎に帰って場末のクラブで農家のあんちゃんでも騙してりゃいいだ!」 「誰かが作った機械で、誰かが生み出した方法で、教えられた方程式だけで物事が解ると思ったら大間違いなんだよ!」 場内は静まり返っている。 「てめえらはな、本当に知りたいことなんて、そのボンクラ脳みそにはないんだ。知りたいことがある奴ってのはなあ、 もっとギラギラしてるモンだ。観察用の道具のごときは、自分で作るってくらいの根性がねーとな、真実なんてわかるはずがねーだろ?いいか、お前らはボンクラだ。ボンクラを雇った俺が馬鹿だった。わかったか?わかったなら、お前ら全員、さっさと荷物をまとめて出ていきやがれ!このチンカス!!」 それからしばらくの間、俺は研究所へは行かなかった。もう一度、作戦を練り直す必要があった。あんな青白い甘ったれでは話にならん。なにしろ、俺は500万人を騙そうとしているのだ。2週間が過ぎたある日、研究所にいる俺の秘書から電話があった。会議に出席して欲しいという内容だ。会議も糞も、もう研究員はいないはずだった。俺は、首を傾げながらも研究所へ向かった。 会議室には「全員」の顔があった。皆、妙に日焼けして健康的である。俺の正面には例の腐れアマ「有東聖子」が座っていたが、それが「腐れアマ」だと気づくのに数分を要したほど、その姿は変貌していた。長かった髪はバッサリと切られ、普段、身に着けていたブラウスとスカートは。ジーンズとTシャツに変わっていた。 「新型の電波望遠鏡の開発、及び設置計画について発表します」 宇宙工学エンジニアの「メガネ狸・東大出太夫」が立ち上がった。彼は、自分の部署の研究員全員で、日本中を駈けずりまわり、直径800メートルの巨大電波望遠鏡の設置に相応しい候補地を探し当てたそうだ。その設計には、まったく新しい技術が導入され、それが成功すれば世界の天文学を飛躍的に進歩させると豪語した。 「メガネ狸」に続き、各チームの代表者が、それぞれの研究課題に必要な設備や機器の開発に着手したことを発表し、そして最後に「腐れアマ・有東聖子」が立ち上がった。 「以上で、今後3年間の研究計画の概略の説明を終わります。尚、各分野に重複するテーマについては、その都度、プロジェクトチームを結成する必要があります。これらを統括する運営本部の設立をここに提案します。」 俺は、彼女の話を聞きながら、彼女のチームが提出した報告書に目を落としていた。
「都市環境改善へ向けて」という項目には、東京の下町を流れる「ドブ川」の水質データが記載されている。 「おい・・・この調査は、どこかに依頼したのか?」 「いいえ、私がやりました。」 「ほう・・ドブ川に入ったのかい?」 「ええ、それが何か?」 彼女は、やけに挑戦的な瞳を俺に向けたのだ。 |
アホの坂田が笑ってる
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