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アメリカ・某地方の一帯で発生した山火事は、折からの季節風に煽られて、日々、燃焼範囲を広げながら某市の住宅街に接近しつつあった。その桁違いの火力の前には、人間の消火活動などまったく無力であり、市民は絶望と共に、誰もが自分の家を捨てて、避難せざるを得ない状況だ。 「行かせてください・・・」 有東聖子の声は落ち着いていたが、その奥にはすでに決意の響きがある。 「あれはまだ、公表できない。それぐらい理解できるよな・・・。」 俺は彼女にそう言った。理解はできるだろう・・・しかし、そんなことが人間の行動動機ではないことぐらい、俺も「理解」していた。 「わかってます。しかし、黙っているわけにはいきません。私たちの「モエナイン」なら、確実に消火できるのです。」 「許可してくださらないのなら、勝手に行きます。いったい誰のための科学ですか?何のための研究ですか!」 「貴方は、私に言ってくれました。自分で考えて、自分で行動しろって・・水を知りたいなら水に入れって・・・!」 俺は、必死に訴える「腐れアマ」を見つめた。家族とは無縁の俺だが、もし娘がいたなら、その成長を見る父親とはこんな気分を味わうのだろうか・・・。俺に残された時間は、あと僅かだった。今、この研究が公表されれば、おそらくすべての研究成果が世間に暴かれるだろう。そうなったら、俺は、二度と「大嘘」を仕掛けるチャンスを失うのだ。 俺の許可を待たずに、部屋を出ようとする有東聖子の、その細い背中に声をかけた。 「行ってこいや・・・ボケナス」 「は・・・はい!!行ってきます!」 彼女の説明を聞いていたアメリカの某市議会議員たちは、一同に安堵の表情を浮かべた。 これで、市街地は火災から救われることになるのだ。 「しかし・・・」 彼女は説明を続けた。 「しかし、このモエナインを使用すると、その後2週間は「火」が使えなくなります。つまり、自動車を動かすことさえ できないという事です。」 議会にざわめきが起きた。 「そんなことは困るじゃないか!」 「産業が停滞するぞ。いや、市民生活さえ破壊されてしまう。」 「バーベキューパーティーも出来ないってことか!」 「そんなことを許可したら、私の議員生命は・・・」 「おい・・お前ら・・・」 場内に彼女のドスの利いた声が響いた。 「黙って聞いてりゃ、くだらない事ばかりほざきやがって・・・いいか!よく聞きやがれ!このノータリンども!今、この瞬間にも消防士達は命がけで消火活動をしてるんだ!それはなあ、お前らの2週間後のパーティーのためでも、お前らの議員生命のためでもねーんだ!彼らは市民の安全のために、その生活を守るために戦ってるんだよ!お前ら議員は市民の代表じゃネーのかよ!代表が決断しネーで、いったい誰が決断するってんだい!!てめえらのボケた脳みそで理解できネーなら、議員なんてやめて国にケーって、センズリでもしてやがれ!このチンカス!」 モエナインの使用は、その直後に承認され、承認と同時に近くの空港から「超伝導モーター駆動」の最新型ヘリ、20機が離陸した。その飛行部隊の先頭には、自ら操縦桿を握る「腐れアマ・有東聖子」の姿があった。 翌日、アメリカ国内のみならず、世界中の新聞が、その劇的な消火活動の模様を報道した。 「議員を一括!東洋から来たジャンヌダルク!」「神風飛行隊!猛火を鎮圧!」 「最先端科学が空を舞う!底知れぬ日本の技術力!」 各紙が、絶賛と興奮を持って、この消火活動を讃えていた。しかし、議会における彼女の発言は、部分的な紹介に留まったことは言うまでもない。これを全文紹介できるのは、日本の「東スポ」だけであり、事実「東スポ」の見出しにはこのような文字が躍っていた。 「決断力のない腐れ議員どもは、国にケーって、センズリでもしてやがれ!このチンカス!」
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アホの坂田が笑ってる
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