羊の隠れ家

■■■Taku2001zooのブログ■■■

アホの坂田が笑ってる

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俺は、自宅の窓から沈む夕日を見つめていた。3年の月日があっという間に過ぎ去った。500億の金は底をついたが、世界中の企業から、技術提携の申し入れが殺到し、また、開発援助の名目で、毎日のように資金が集まり、その総額は数兆円を超える規模となっていた。研究は進展し、医療部門ではそれまで治療不可能と言われていた遺伝性の難病に対する有効な治療法がいくつか発表された。俺は研究所の運営を、メガネ狸と腐れアマに任せ、引退を決意していた。

世界は、静かに、確実に変革の方向へ動いている。
戦争の抑止・・差別の撤廃・・・環境改善・・・俺の知ったことか!くっだらない偽善につきあっちまったぜ!
俺は新聞を破り、部屋中にばら撒いた。引きちぎれた紙面には、こんな文章が書かれている。
「一人の男が世界を変えつつある。我々は今、奇跡の真っ只中にいるのではないだろうか?」

時計を見ると、3年前のあの日、あの時の時刻が迫っていた。結局、俺は、一度も嘘をつくチャンスに恵まれずに、一人の信者も勧誘できなかったのだ。

「あの野郎・・・本当に騙しやがった・・」
信者勧誘なんて、本当はどーでもよかったのだろう。あいつは・・・あいつは自分の仕事をしに来ただけなんだ。

薄れ行く意識の中で、アホの坂田が笑っているような気がした。
アメリカ・某地方の一帯で発生した山火事は、折からの季節風に煽られて、日々、燃焼範囲を広げながら某市の住宅街に接近しつつあった。その桁違いの火力の前には、人間の消火活動などまったく無力であり、市民は絶望と共に、誰もが自分の家を捨てて、避難せざるを得ない状況だ。

「行かせてください・・・」

有東聖子の声は落ち着いていたが、その奥にはすでに決意の響きがある。
「あれはまだ、公表できない。それぐらい理解できるよな・・・。」
俺は彼女にそう言った。理解はできるだろう・・・しかし、そんなことが人間の行動動機ではないことぐらい、俺も「理解」していた。
「わかってます。しかし、黙っているわけにはいきません。私たちの「モエナイン」なら、確実に消火できるのです。」
「許可してくださらないのなら、勝手に行きます。いったい誰のための科学ですか?何のための研究ですか!」
「貴方は、私に言ってくれました。自分で考えて、自分で行動しろって・・水を知りたいなら水に入れって・・・!」

俺は、必死に訴える「腐れアマ」を見つめた。家族とは無縁の俺だが、もし娘がいたなら、その成長を見る父親とはこんな気分を味わうのだろうか・・・。俺に残された時間は、あと僅かだった。今、この研究が公表されれば、おそらくすべての研究成果が世間に暴かれるだろう。そうなったら、俺は、二度と「大嘘」を仕掛けるチャンスを失うのだ。

俺の許可を待たずに、部屋を出ようとする有東聖子の、その細い背中に声をかけた。

「行ってこいや・・・ボケナス」
「は・・・はい!!行ってきます!」

彼女の説明を聞いていたアメリカの某市議会議員たちは、一同に安堵の表情を浮かべた。
これで、市街地は火災から救われることになるのだ。
「しかし・・・」
彼女は説明を続けた。
「しかし、このモエナインを使用すると、その後2週間は「火」が使えなくなります。つまり、自動車を動かすことさえ
できないという事です。」
議会にざわめきが起きた。

「そんなことは困るじゃないか!」
「産業が停滞するぞ。いや、市民生活さえ破壊されてしまう。」
「バーベキューパーティーも出来ないってことか!」
「そんなことを許可したら、私の議員生命は・・・」

「おい・・お前ら・・・」
場内に彼女のドスの利いた声が響いた。
「黙って聞いてりゃ、くだらない事ばかりほざきやがって・・・いいか!よく聞きやがれ!このノータリンども!今、この瞬間にも消防士達は命がけで消火活動をしてるんだ!それはなあ、お前らの2週間後のパーティーのためでも、お前らの議員生命のためでもねーんだ!彼らは市民の安全のために、その生活を守るために戦ってるんだよ!お前ら議員は市民の代表じゃネーのかよ!代表が決断しネーで、いったい誰が決断するってんだい!!てめえらのボケた脳みそで理解できネーなら、議員なんてやめて国にケーって、センズリでもしてやがれ!このチンカス!」

モエナインの使用は、その直後に承認され、承認と同時に近くの空港から「超伝導モーター駆動」の最新型ヘリ、20機が離陸した。その飛行部隊の先頭には、自ら操縦桿を握る「腐れアマ・有東聖子」の姿があった。

翌日、アメリカ国内のみならず、世界中の新聞が、その劇的な消火活動の模様を報道した。
「議員を一括!東洋から来たジャンヌダルク!」「神風飛行隊!猛火を鎮圧!」
「最先端科学が空を舞う!底知れぬ日本の技術力!」
各紙が、絶賛と興奮を持って、この消火活動を讃えていた。しかし、議会における彼女の発言は、部分的な紹介に留まったことは言うまでもない。これを全文紹介できるのは、日本の「東スポ」だけであり、事実「東スポ」の見出しにはこのような文字が躍っていた。

「決断力のない腐れ議員どもは、国にケーって、センズリでもしてやがれ!このチンカス!」
運営本部が設立され、各チームに必要な設備が整いつつあった。すなわち、俺の「大嘘」を裏付ける理屈を生み出すために「本物」の観測装置が、それも現代の最先端の精度を誇る装置が、開発され始めたのである。2年の歳月を待たず、これらは目覚しい成果を挙げていた。新型の巨大電波望遠鏡は、銀河中心の重力分布を正確に割りだし、超伝導技術を導入した高性能モーターと、コンパクトながら大容量のバッテリーが開発され、このペアに、新たな素材を使った太陽電池が組み込まれると、大型の船舶さえも「電力」で駆動できることが判明した。

俺は、再び「発想の転換」を迫られていた。「大嘘」が「本当」になりつつある。「本当」では人間は騙せないのだ。しかも、この「本当」は、世界の情景を一変させるほどの内容がある。これらの技術が実用化されれば、世界の燃料産業は変革を余儀なくされる。そんな中で、再び俺を困らせる「新技術」が、例の「腐れアマ」から発表された。

「この新しい気体を、モエナインと名づけました。その名の通り、この気体を散布すると、その周辺で火は燃えません。」
一同が首を傾げた。
「詳しく説明してください。」
「はい、このモエナインは、大気中の酸素と融合し、酸素による燃焼反応を阻害します。つまり、これを使用すればいかなる炎も・・・」
「ちょっと待ってくいださい・」
誰かが、彼女の話を遮った。
「それって、すでに消火剤とかに使用されているでしょう?酸素反応を阻害するってことは、
それを散布すると人間は呼吸が出来なくなるってことじゃないですか?」
「いいえ・・・」彼女は自信ありげに、場内に視線を配る。

要約すれば、こういうことだ。モエナインという気体は大気中の酸素を周辺から取り囲み、その反応を阻害するが、これが生体内に入ると、モエナインは速やかに酸素と分離して、吐息として排出されるというのだ。

「炎が発生しないってことは・・・?」
「エンジンが動かないってことだぜ・」
「爆弾が爆発しないってことよね?」
「ピストルも撃てない・・・・」
「ミサイルが墜落する・・いや、ジェット旅客機もか・・?」
「地雷が・・・」

場内は騒然となった。俺の「大嘘」は、ますます本物になりつつある。この新気体は「戦闘行為」を阻害できるのだ!これは数ある研究成果の中でもトップシークレットとされるべき内容だった。各国の軍事事情を揺るがすということは「軍事バランス」を崩す可能性があると言うことである。元やくざの俺には、力関係が崩れるということがいかに危険であるかは直感の内に理解できるのだった。

しかし・・・・。

秘密は思わぬ形で、しかも劇的に世界に公表されることになる。
「おい・・・こら・・」
俺の、静かだが、しかし、め一杯ドスの利いた声で、場内が一瞬静まり返った。

「こら・・この餓鬼ども。黙って聞いてりゃいい気になりやがって・・・何が設備だ?何が古いだ?
おお!こら、そこのメガネ狸!!」
俺に「メガネ狸」と呼ばれたのは、宇宙工学研究担当の技師「東大出太夫」だった。
「てめえは、親に食わせてもらって、国費でお勉強させてもらっていながら、ちっとも学習できねーらしいな?設備が古くて研究できません、なんて理屈はなあ・・教えてもらわないと解りませんって言葉と同じなんだよ!てめえなんぞ、誰かが助けてくれないと何にもできねー半人前の糞ガキじゃねーか!あんまり偉そうにしてねーでな、明日からは下を向いて歩けや。もし、前なんか向いてたらぶっ飛ばすぞ!」

「おい・・そこの腐れアマ!」
腐れアマとは、気象・大気分析が専門の女性大学院生「有東聖子」だ。長い髪をカールさせて、いつも着飾っているタイプの女だ。
「てめえは水に入らないで水を研究できると思ってるみたいだな・・?なーんだ、その指のケバケバは・・・」
彼女は、反射的にネイルアートを施した指先を隠した。
「何が研究だ。そんなケバケバ指で、いったい何ができるんだい?おめえみたいな化粧馬鹿は研究なんてやめてな、田舎に帰って場末のクラブで農家のあんちゃんでも騙してりゃいいだ!」

「誰かが作った機械で、誰かが生み出した方法で、教えられた方程式だけで物事が解ると思ったら大間違いなんだよ!」

場内は静まり返っている。

「てめえらはな、本当に知りたいことなんて、そのボンクラ脳みそにはないんだ。知りたいことがある奴ってのはなあ、
もっとギラギラしてるモンだ。観察用の道具のごときは、自分で作るってくらいの根性がねーとな、真実なんてわかるはずがねーだろ?いいか、お前らはボンクラだ。ボンクラを雇った俺が馬鹿だった。わかったか?わかったなら、お前ら全員、さっさと荷物をまとめて出ていきやがれ!このチンカス!!」

それからしばらくの間、俺は研究所へは行かなかった。もう一度、作戦を練り直す必要があった。あんな青白い甘ったれでは話にならん。なにしろ、俺は500万人を騙そうとしているのだ。2週間が過ぎたある日、研究所にいる俺の秘書から電話があった。会議に出席して欲しいという内容だ。会議も糞も、もう研究員はいないはずだった。俺は、首を傾げながらも研究所へ向かった。

会議室には「全員」の顔があった。皆、妙に日焼けして健康的である。俺の正面には例の腐れアマ「有東聖子」が座っていたが、それが「腐れアマ」だと気づくのに数分を要したほど、その姿は変貌していた。長かった髪はバッサリと切られ、普段、身に着けていたブラウスとスカートは。ジーンズとTシャツに変わっていた。

「新型の電波望遠鏡の開発、及び設置計画について発表します」
宇宙工学エンジニアの「メガネ狸・東大出太夫」が立ち上がった。彼は、自分の部署の研究員全員で、日本中を駈けずりまわり、直径800メートルの巨大電波望遠鏡の設置に相応しい候補地を探し当てたそうだ。その設計には、まったく新しい技術が導入され、それが成功すれば世界の天文学を飛躍的に進歩させると豪語した。

「メガネ狸」に続き、各チームの代表者が、それぞれの研究課題に必要な設備や機器の開発に着手したことを発表し、そして最後に「腐れアマ・有東聖子」が立ち上がった。

「以上で、今後3年間の研究計画の概略の説明を終わります。尚、各分野に重複するテーマについては、その都度、プロジェクトチームを結成する必要があります。これらを統括する運営本部の設立をここに提案します。」

俺は、彼女の話を聞きながら、彼女のチームが提出した報告書に目を落としていた。
「都市環境改善へ向けて」という項目には、東京の下町を流れる「ドブ川」の水質データが記載されている。
「おい・・・この調査は、どこかに依頼したのか?」
「いいえ、私がやりました。」
「ほう・・ドブ川に入ったのかい?」
「ええ、それが何か?」
彼女は、やけに挑戦的な瞳を俺に向けたのだ。
しかし、まだ、希望はある。なんだかんだ言っても、要は俺が「500万人」の信者を集めればよいのだ。目標を達成すれば「天国行き」の理由はない。

(坂田め・・・やりやがった・・・)

こうして、俺を追い詰めておけば、俺は勧誘活動をするしかない。俺は完全に「はめられた」のだった。
その日の内に「組」には長期休暇届けを提出して、俺は「信者勧誘」のノウハウを研究すべく、あらゆる宗教関連の書籍を買い集め、「500万人勧誘作戦」を開始したのだ。まさに「命がけの作戦」である。

「日本の宗教」「新興宗教の実態」「信者はこうして騙される」「カルト教団、戦慄の洗脳法」などの評論本が数百冊。

「私は神を見た」
「神は貴方の横にいる」
「信じる力が世界を変える」
「神の光を感じますか」などのインチキ体験本。

「必ず癌は治る」「超光速粒子ペンダントの奇跡」「奇跡の水・ゴッドスエット」・・などのインチキ霊感商品のパンフ。その他に、トンデモ・オカルト・UFO・古代文明・血液型占い・・などの馬鹿本が、俺の部屋を埋めつくしていた。

それらの内容は、やくざの俺が見ても「驚くべき詐欺手法」であることは間違いなかった。驚きは2種類ある。

「いかなる頭脳が、このような出鱈目を創作できるのか?」
「なぜ、この出鱈目を、人は信じることができるのか?」

やくざ顔負けの「インチキ野郎」が、大勢を騙して大金を儲けてやがる。嘘と出任せで成り立っているすごい世界だった。数ヶ月に及ぶ研究の結果、俺は成功している宗教団体、カルト団体、霊感商法には共通の法則があることを見抜いた。つまり、「嘘を嘘と思わせない、適当な、解りいやすいへ理屈」・・・これが成功の鍵なのだ。ただの嘘では誰も騙せないのだが、この嘘を脚色する「それっぽく聞こえる論理、科学的理由」がくっつくと、嘘は途端に「輝き」を得るのである。

思えば、この世は「脚色と装飾」で成り立っているのだ。本物を有難がる人間などごく僅かである。
たらこを脚色すれば「明太子」になる。明太子に成れば高く売れる。つまり、たらこが化ければ明太子、でしゃばりが化ければ芸能人、ブスが化ければキャバ嬢、善人が化ければ貧乏人・夢想家が化ければ詩人、詩人が化ければ音楽家。そして嘘つきが化ければ宗教家か政治家のどっちかだ。

俺の中で「作戦」は次第に形を成してきた。500万人を騙す「大嘘の創造」こそ、この作戦の成功の鍵である。俺の作った「大嘘」を、適当に脚色する理論体系を用意するのだ。世界から戦争を失くす方法、飢餓や差別の無い理想社会の実現・地球環境を守る最新科学・新しいエネルギー・・・「大嘘」もネタには困らない。どれもこれも「自分が正しいと思いたい小市民」の心理を擽るテーマだった。
これらの諸問題を解決できるのは、俺がでっち上げた「宗教」であり、教義である。

俺はまず、「教義」に「適当な理屈」をつけるために、「理想実現研究チーム」を発足させた。倒産しかけている某観光地にホテルを買い上げて、適当な研究機器を導入し、破格の給料を提示して、大学院生
など、若い科学者達を雇った。俺は彼らに例の「大嘘」を、(嘘とは言わずに)研究課題として取り組むように指示を与えた。数週間後、最初の研究報告会議を開いた。宇宙工学・遺伝子工学・地学、気象科学・エネルギー工学など、各分野を専門に学んできた連中である。俺は、多少は期待があったのだ。だが・・・・。

「機材が古くて話になりませーん!」
「こんな設備じゃね・・・田舎の大学の方がましよ」
「まあ、給料は悪くないけどさあ・・」
「テーマもひどくな〜い?代替エネルギーなんて、可能ならとっくに誰かがやってるよねー」

会議はいっこうに始まらず、会場内にはこんな雑談が飛び交っているだけだった。

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