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夕暮れが迫っていた。霊園を取り囲む森の中から、カラスの鳴き声が聞こえてきた。 いつもの事だが、俺の「空想エンジン」は物語のラストに差し掛かると急激に減速するのだ。 (これからどーするの?) 俺の中の「もう一人の俺」が、俺に問いかける。 (これでおしまい・・じゃあ、駄目だよなあ・・) だが、ここまで書けば読んでいる側だって、この少女の病気が完治することくらいは予想するだろう。 そして、更に想像力を働かせれば、この警部が手紙を少女に渡すってことも、予想可能だ。 (そこが読みたいんだよ。数日前に出した手紙が、なぜこんなに色あせているのか?そこを突破口にして 少女は、自分が未来の人間と文通していたことを知る。・・ほら・・中々、面白いじゃんか!) (まあ、それはそれで面白いけどさあ、書くのが苦痛なんだよね。ありきたり過ぎてさ。) (それ、アンタの才能の無さが問題なんだよ!) (うっせーな・・余計なお世話だ!) そんな事を考えていると、当の本人である「本庄真由子」さんが、いや、これは俺が勝手につけた名前だが、その彼女がゆっくりと立ち上がり、そして霊園の出口に向かって歩き始めたのだ。俺の前を通り過ぎる時、彼女は俺に小さく会釈した。俺も軽く頭を下げ、その後姿をしばらくの間、見つめていた。 (見とれていた・・ではないぞ!) 彼女が去った後、俺は「無縁仏」が眠る墓標の前に行ってみた。けっしてきれいに管理されているとは言えない状態である。人は誰でも死ぬ。縁があろうとなかろうと、この世に生きているものはいずれ全員、死んでしまうのだ。きれいな墓石や、お供え物に、いったい何の意味があると言うのか。 俺はふと、古びた墓石の前に置かれた白い物体に気がついた。 よく見ると、それは「封筒」だった。おそらく、先ほどの女性が置いていったものだろう。 ・・封筒・・便箋・手紙・・・その連想は、俺を「抗し難い欲求」へと誘ってゆく。 (見たい・・読みたい・・・読みたい・・見たい・・) 俺は、その衝動を振り切るように、早足で霊園の出口へと向かった。 自宅に戻り、ベランダに出ると見慣れた都会の夜景が輝いていた。 (あの「手紙」には何が書かれていたのだろう・・。) あの美しい涙の意味は・・・? そして「ありがとうございます」の意味は・・・? 俺にはやはり、あの手紙の一行目には、この文字が書かれているような気がしてならなかった。 「ファンレターっす!」 ・・・完
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ファンレターっす!
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「がいしゃの所持品を確認しろ。」 県道の交差点で発生した交通事故で死亡した男性の遺体は、警察病院に収容されていた。 現場検証にあたった警部は、「彼」が財布も持っていないことが妙に気になった。 「携帯電話もありませんねえ・・・。」 彼をはねたダンプカーの運転手の証言によれば、その男は、まるで誰かに追われているような様子で道路に飛び出してきたという。 「妙なデザインの時計だな・・・。」 警部は「がいしゃ」の右腕にはめられた腕時計を、しげしげと見ていた。 「どこのメーカーですかね・・?」 ボディのサイドに、小さな突起があった。警部は何気なくそれに触れた。すると時計の文字盤が カレンダーに変わった。 「ふむ・・よくある機能だな・・・。」 と言い掛けた時、警部はそのカレンダーが通常のモノではない事に気づいた。 「何だ・・これは?」 そこには、このような数字が並んでいた。 (2310・12・19) 「狂ってますね・・この時計。」 「ああ・・そうだな・・・。」 「あ・・上着のポケットに何かが・・。」 部下の一人が、彼の上着のポケットから数枚の封筒を取り出した。 「手紙・・ですかね?」 キャラクターデザインが施された、いかにも女子高生が好みそうな封筒であったが、その色あせ方から、 相当「古い」ものであることが想像された。 「おかしいなあ・・・?」 「何がだ?」 「いや、この、宛先なんですけどね・・・?」 部下の一人が怪訝そうに首を傾げている。 「渋谷のジャーニー・エンタープライズって、東本町じゃなくて、西本町なんですよね・・。」 警部は封筒に書かれた宛先を確認した。確かに「東本町」になっている。 「住所違いで配達されなかった手紙かな?」
「さあ・・どうでしょうか・・?」 |
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ファンレターっす 字が汚くてごめんさなさい 私 手が痺れて動かなくなってきた 嘘 ついてました 私 病気でずっと入院してるの 筋肉に力がなくなっちゃう 病気です テニス部のはなしも けんたいかいの はなし も うそなんです ごめんなさい 中学生だけど 学校へわ 行ったこと ないんです もうすぐ ぜんしんの きんにく うごかなく なります あっち の せかい へ いきます かざまさん みじかい あいだ だった けど あ り が と う 「ええ・・何ですって!?」 「だから出発時間を遅らせると、そう言ってるんだよ!」 「そ・・そんな・無理ですよ〜旦那。」 「無理を承知で頼んでるんだ。何とかしやがれ、ボケナスめ!」 俺は荷物をエア・カーに積むと、時空空港とは逆の方向に全速で走らせた。 「医療管理センター」の駐車場に車を滑り込ませ、すぐさま「遺伝子治療病棟」を目指した。 「お客様。身分証明書を拝見します。」 遺伝子治療病棟は、厳重な警備が敷かれている。 DNAの変異データがすべてここに集まっているからだった。 「うるせーな・・どけ!」 俺はプラズマ・ガンを警備員に向けて、入り口の鍵を開けさせた。 追跡してくる都市警備隊のハエどもを振り切って、俺は何とか時空空港に到着した。 出発可能限界時間の1分前だった。 俺は用意されている専用トランスポートに滑り込み「出発」のスイッチを押した。 その直後、俺は「目的時間」に到着していた。どうやら雑居ビルの一室らしい。 前もって聞いていた情報と一致する。 俺は辺りを見回して、「ポート・コントロール・ボード(PCB)を探す。 部屋の隅に置かれたPCBを見つけるとボードの座標ナンバーを確認した 「渋谷区・東本町3−21」 間違いない。俺は今「へーセー時代」にいるのだ。 俺は素早くPCBのスイッチを入れ、座標変換モードの画面を出した。 この画面で俺は、半径500Km以内の、好きな場所に移動することができるのだ。 俺はキーボードで座標ナンバーと座標名を入力する。 「○○県○○市立・総合病院→入院病室(検索)→(氏名)→(本庄真由子)→301号室→ (座標変換しますか?)→(YES)(NO)→「YES」→→→→・・・→→・・・→→・・・・ 「○○県○○市立・総合病院」を出た俺は、しばらくの間あてもなく、ぶらぶらと「へーセー時代」の景色を楽しみながら歩いていた。不思議な光景だった。誰も彼もが同じような服装をして、何の用事があるのか知らないが、せわしなく動き回っている。動き回ることが生きがいなのだろうか?そんな事を考えていると、俺の腕に取り付けてあるアラームが、突然鳴り出した。これは俺に「敵の接近」を知らせるモノだ。 「こんなところまで追っかけて来やがったのか!」 俺は、反射的に走り出した。しかし、その時すでに、敵は俺の時空間座標を把握していたのだろう。どこからともなく放たれたレーザー光線が、俺の右足の太ももを貫いた。俺は激痛を堪えながら、「道路」と呼ばれる乗り物専用の領域に転がりこんだ。二発目のレーザーはかわしたが、三発目が俺の右肩に穴を開けた。その時。巨大な「乗り物」が、俺の目の前に迫っていた。避けようとする俺の足首が、四発目のレーザーで吹き飛ばされた。 衝撃・・闇・・・。
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ファンレターっす! 人気アイドルの風間さんだから、毎日たくさんファンレター、もらうんでしょーね。 こうやって私に返事をくれるってことは、みんなにも返事、書いてるのかなあ? 大変じゃあないですかあ・・?私、何か申し訳ないこと、シテルのかなあ。 でもね、風間さんの返事、すっごい楽しみにしてるこの気持ち、わかりますう? 風間さんの書いた文字を見るとね、マユわあ、マジに元気になれんだよ〜! あのね・・私、風間さんに秘密にしてることがある。 でも、今はまだ言えない。きっと秘密をバラす時がくるからさあ・・ 楽しみにしててくださいね〜! (○○市在住・本庄真由子) 密航の準備はすべて整った。 時空旅行用のパスポートの偽造には、予定外の費用がかかったがアホの相棒が死んでくれたおかげで、 山分けの必要もなくなったので、俺は贅沢な旅行を計画したのだ。 「はあ?へーセー時代に行くんですか?」 「ああ、そうだ。さっさと手配しろ。」 「そりゃ、私はかまいませんが、何だってあんな物騒な時代に行きなさるんで?」 時空管理局の役人が驚くのも無理はなかった。 「ショーワ時代〜へーセー時代」といえば地球歴史上で最も混乱していた時代である。 使い方を間違えたテクノロジーが氾濫し、有毒ガスを出す乗り物が量産され 化学薬品で加工した食品が堂々と売られているという、信じられない時代であった。 「それだけじゃあ、ございません。まだ「宗教」というものがあり、 気の狂った信者が街に猛毒を撒いてみたり、爆弾を抱えて自爆してみたり、 いやはや、あんな時代に人間がよく生きていたものですよ。」 「そうだな。だが、俺は行くぜ。騒々しいのが好きな性分でな。」 役人は俺の決意に呆れながら、その時代に利用されている「到着ポート」の説明を始めた。 到着ポートとは、その名の通り時空旅行者が最初に到着する「空間軸=場所」である。 「ここはへーセー時代の世界では渋谷区と呼ばれています。 (渋谷区・東本町・3−21)これがポートの空間座標名です。 覚えておいてくださいね。」 出発は明日の朝だった。時空空港には俺専用のトランスポートが設置されているはずである。
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ファンレターっす! 昨日の「ビッグ歌謡ショー」見ました〜! 風間さんの新曲、カッコヨカッタ(むねきゅん) 「キンキ・モッズ」も「スマッピ」も好きだけどお、やっぱ風間さんが一番どえ〜す。 県大会の予選、負けちゃいました。周りに強い学校が多すぎるんですよ。 また、来年頑張りまーす! でもびっくりです!風間さんも中学生の時、テニス部だったなんて。 偶然ですねー!チョー嬉しいなあ。励みになっちゃいました。 明日のお仕事、頑張ってくださいね〜! (○○市在住・本庄真由子) 翌日、警官を殺したアホの相棒が、山分けした金を受け取りに俺の隠れ家へやってきた。 ちょうど半分に山分けされた金を見つめながら、相棒は不満そうにく言った。 「今回、警官を殺しちまったのはさあ、確かに俺の失敗だけどよ、 俺はそのせいで殺人犯として追われるんだぜ。」 「何が言いたいんだ?」 「だ・・だからな、これから先は、アンタより俺の方がリスキーだってことよ。 つまり、半分ずっこってのは不公平じゃあないかい?」 テーブルは挟んで、俺の前に座っている相棒の手にはプラズマ・ガンが握られていた。 「こ・・こんなことはしたくないけどよお・・。」 相棒は俺の恐ろしさを知っているせいか、その手が微かに震えていた。 「わかった、わかった。その物騒なモノをしまえ・俺もな、お前には感謝してるんだ。本当だぜ。」 俺はそう言いながら、俺の前にある「札の山」から、いくつかの札束を相棒の山へ移す。 「これでいいな?」 「ああ・・すまないなあ・・。」 気持ちが落ち着いたのだろう。相棒はソファに身を沈めると、深いため息をついた。 「まあ、一杯やろうぜ。密航の手配も完了したことだしな。前祝だ。」 俺の差し出したウィスキーロックを、相棒は一気に喉へ流し込んだ。その直後・・・。 相棒は両手で喉を押さえて苦しみ始めた。 「巨大ムカデを殺す殺虫剤を混ぜてみた。どんな味だい?」 俺は、苦しみながら床に転がる相棒を見下ろしながら、 混ざり物の入っていない純粋なウイスキーの味を堪能した。 「俺に感謝してるなら、あんまりゲロゲロ吐かずにさっさと死んでくれな。」
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