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■24時間の記憶【4】
その森に住んでいる猛獣は、ある日、A地点で人間に遭遇すし、これを襲うが逃げられてしまった。猛獣「ケン」は、息子の「マサ」にそのことを話す。
「いいかマサ。A地点には獲物が出没するぞ。お前も明日、A地点に行って獲物を捕まえてこい。」
「うん。わかったよ。パパ!」
翌日、息子のマサはA地点に行くが獲物は見つからなかった。家に帰った息子は父親に話す。
「ねえ、獲物はいなかったよ。」
「そうか・・だが、このことは他のやつには言うなよ。A地点の情報は我が家だけの秘密だぞ。」
「わかってるよ。パパ。だって誰かに知られたら獲物を横取りされちゃうもんね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ■情報が常に「拡散する」とは限らない・・・。拡散しない情報は、記憶を更新しない。更新されない記憶はあっという間に消滅する。
上記のような集団はもちろん「架空の猛獣家族」だけではない。情報を共有できない集団はやがて衰退する。また、そのような集団に生まれ育った個人は、残念だが「アホ」である。
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■ショート・ショート
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■24時間の記憶【3】
■ある時、人間は「文字」を生み出す。文字を使うようになった村の人間は、A地点の周辺に次のような看板を立てる。
「この先、危険。猛獣注意!」
村人は、その看板を見るたびに「忘れかけていた記憶」を刺激され、記憶が更新され続ける。
「記憶が大脳の外部に具体化される。」
「消滅しない永続的な情報となる。」 「危険を未然に回避できる。」 「死亡者が減り、人口が増加する。」 「増加した人口が、より多くの事象を記憶する。」 (1)人口が増える=両目・両耳が増える=観測意欲(好奇心)が増える=観測対象が増える。
(2)観測対象が増える=情報処理の必要性が増える=人口が増える。
(3)増えた人口が更なる観測対象を求める=観測精度が向上する。
この流れ(相乗効果)によって、人口は増え続け、観測対象も増え続けると考えられる。例えば一人の「両目」による観測とは、ある時間において「1方向・1対象」に限られるが、複数になれば「同時に、多方向への」観測が可能となり、また各方向(各分野)での観測結果が情報伝達されることで、双方の観測精度を相乗的に高めてゆく。
■紀元前200年【2億人・4万Km】地球の全周=(エラストステネス)
■1588年=【5億人・38万Km】月までの距離=(ティコ・プラーエ) ■1672年=【6億人・1億5000万Km】太陽までの距離=(カッシーニ) ■1838年=【10億人・11光年】白鳥座61までの距離=(ベッセル) ■1918年=【18億人・3万光年】銀河の中心までの距離=(シャープレイ) ■1929年=【20億人・2000万光年以上】近隣の銀河群までの距離=(ハッブルなど) ■1964年=【33億人・137億光年】ビッグ・バン宇宙論・宇宙背景放射・膨張宇宙論 ■1990〜現在=【50億人〜60億人・50億光年〜100億光年】遠方銀河団の観測 産業革命の直前、1800年代というのは「科学革命」と呼ぶべき重要な時期である。この革命期に生み出された非常に重要な発見(理論・発明)が「電気」でり、この電気理論の構築が成されていなければ、社会の工業化=産業革命は起き得なかったと考えられる。天体観測においても、1800年代の後半からは、電気理論に基づいた様々な観測装置が開発され、観測距離はそれまでの望遠鏡観測とは比較にならないほどの遠方にまで達することになる。
★この時点での人口は10億人であり、観測対象は近隣の恒星である。
1900年代に入ると人口は一気に2倍以上となり、観測対象の距離は1〜10万倍、他の銀河へと移行する。これと同時期に生み出されたのが「コンピューター」であり、この計算機械が観測精度を更に向上させたことは言うまでもない。
■紀元前600年=静電気の発見
■紀元前250年=電池の開発 ■1300=4億人 ■1350=4億4000万人 ■1400=3億5000万人 ■1500=4億6000万人
電気と磁力の区別(カルダーノ)
地動説(コペルニクス) ■1600=5億1000万人
■1650=5億2000万人
静電発電機を発明(ゲーリケ)
ボイルの法則(ロバート・ボイル) ■1700=6億5000万人
導体と絶縁体を分類(スティーヴン・グレイ)
■1750=8億2000万人
電極(+・−)の定義(デュ・フェ)
蓄電器の開発(ミュッセンブルーク)(ワトソン) ボルタ電池(アレッサンドロ・ボルタ) ■1800=9億5000万人
内燃機関(モーリー)
電気分解の法則(マイケル・ファラデー) 電磁場方程式(ジェームズ・クラーク・マクスウェル) 静電気の発生装置(平賀源内) ■1850=12億4000万人
電球の発明(スワン)(トーマス・エジソン)
電話の発明(ブルサール)(アレクサンダー・グラハム・ベル) (トーマス・エジソン)
内燃機関(鉄道・自動車)の実用化(ベンツ、フォードなど) 初期型計算機の発明。 ■1900=16億3000万人
2極真空管(フレミング)
アナログ・コンピューターの実用化 ロケット技術の開発 ■1950=25億2000万人
暗号解読器(真空管2000本使用)(チューリング )
ノイマン型コンピュータ(2進数デジタル)(ノイマン) 宇宙開発の発展 ■1969年=36億人
アポロ11号、月面着陸(アメリカ)
■2000=61億1000万人
■2010=70億人
・・・・君の記憶は、何日間、保存できるのですか?
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■24時間の記憶【2】
30人の村人全員に「A地点情報」が行き渡ると、人々はそれをあまり口にしなくなる。「ねえ、知っている?」と、誰かにそれを伝えたいが、もうみんながそれを知っていることを、伝えたい本人も知っているので、つまり「その話題を話しかける相手がいない」のだから、当然、そのことは話題にならなくなる。
このようにして「記憶の更新」が終了すると「A地点情報=記憶」は次第に消滅してゆく。この30人の村では、30人全員がそれを知るまでに1週間ほどかかり、次の1週間で情報は減衰し、そしてやがて消滅してゆくことになる。
■この「お話し」は、次のような反論を誘発する。もともと、それを誘発させるために俺が機密に組み立てた話しなのだ!(笑)
「人間は記憶していることがあれば、それを思い出せるのだから、自分で思い出せば情報は更新されるはずです。従って1週間で情報が消滅するという考え方は間違いです。」
「へえ。思い出せるのかい?」
「ええ。思い出せるから記憶なんでしょ?」
「じゃあ、思い出してくれよ。」
「な・・何をですか?」
「何かを思い出してくれ。」
「何かじゃわからないですよ。」
「つまり、思い出せないんだろう?」
「違います。質問が出鱈目なんです。」
「出鱈目じゃないよ。何を思い出すということは、その何かを刺激する具体的な作用が必要だってことだ。昨日の夜、君は何を食べた?」
「カレーライスです。」
「ほら、(昨日の夕食の記憶=カレーライス)を思い出すためには、「昨日、何を食べたの?」という具体的な質問、つまり「夕食記憶を刺激する外部からの刺激」が必要であり、これがない限り、君は今、この瞬間に昨日はカレーを食べたなどということを思い出すはずがないんだよ。」
■記憶が蘇る=「思い出す」とは、その記憶に関連した外部刺激に誘発される反応である。
1)ある一つのセル「□」が、強い外的刺激によって「凹」に、その形を変えるが、これは24時間で元の形に復元する。熱力学的に表現するなら可逆性があると言い、工学分野では弾性性質があるなどと言う。つまり「押せばへこむが、しばらくすると元に戻る」ということだ。こんな物質は世の中にゴロゴロと転がっている。たんぱく質の構造も同様である。
2)「凹」となったセルが放つ情報は「△」である。「セルA」から放たれた「情報=△」を受けた「セルB」は、その形を「□」から「凹」に変える。その領域に30のセルがあれば、それぞれが皆、「情報=△」を受け取り、全部の形が「□」から「凹」に変わるということだろう。
3)すべてのセルに「情報=△」が行き渡り、全部のセル形が「□」から「凹」と変化した時点で、その領域における「情報=△」の放出が減衰してゆく。外部からの刺激がなければ、物質の放出はない。
■「記憶保存時間が24時間の人間が30人住んでいる村」において「A地点情報」は「情報の蔓延〜衰退〜消滅」に2週間ほどを要したと言うことは、ここに60人が住んでいれば、それは単純に計算して4週間となり、120人であれば8週間となる。
ある村の人たちは昔のことをよく覚えているが、別の村の人たちはあまり覚えていない。このような事象を比較分析する場合「人間の個々の記憶力」よりも、その村の総人口と、交流密度(頻度)を考慮すべきである。例文からも証明されるように「個人の記憶力」は周辺環境によって変わってゆく可変的な事象であり、実は大して問題にすべき事柄ではないことが理解できる。
問題は・・・
その集団を構成するセルの数と、ネットワークの緻密さである。神経細胞の総数が少ない脳は「すぐに忘れる脳」であるということであり、多くの情報を扱えない脳であり、「同じことをいつまでも繰り返す脳」だと言うことだろう。
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■24時間の記憶【1】
その村には30人ほどの人間が住んでいる。人々の記憶は24時間しか維持できないのだが、本人たちはそれを知らない。
1日目。
男(名前はケンという)はいつものように狩りに出かける。そして森の中の「A地点」で恐ろしい猛獣に出会ってしまう。時間は午後1:00だった。猛獣は男を食うために襲ってくる。男は必死で逃げ、なんとか村まで無事に逃げ切った。この出来事の記憶は24時間後、つまり明日の午後1:00までしか保存されない。ケンは自宅に戻ると、夕食時に家族にそのことを話す。時間は午後7:00だった。
1)男の妻「ハナ」と息子「マサ」は、午後7:00に「A地点には猛獣が出没する」という情報を得る。この情報の記憶は明日の午後7:00には消滅する。
2)ケンは午後7:00に、「A地点には猛獣が出没することを家族に伝えた」という記憶が残る。つまり男の脳から、明日の午後1:00には消えるはずの「A地点の情報」
が、家族に話すことによって更新され、明日(2日)の午後7:00までは継続できる ことになる。 息子のマサは翌日(2日)、学校に行くと、その情報を10人の友人たちに話す。時間
は午前は9:00。10人の友人たちは2日の午前9:00に「A地点には猛獣が出没するという話を友人から聞いた」という記憶が発生し、その記憶は明日(3日)の午前9:00までは保存される。そして、それを話したマサの記憶は「父親から聞いた情報」から「友人に伝えた情報」に更新され、結果的にマサの「A地点・猛獣出没情報記憶」も明日(3日)の午前9:00までは継続できることになる。 その日(2日)の午後6:00。息子のマサは父親のケンに「A地点情報」を友人たち
みんなに伝えたことを話す。父親のケンの記憶は、あと1時間で消滅するはずだったが、この会話によって記憶が更新される。「自分の経験を息子に伝える→息子がそれを他人に伝えたという経験を息子から聞く」このように更新された父親の記憶は明日(3日)の午後6:00までは保存される。 その日(2日)の夜、友人たちはそれぞれの家庭で、家族に「A地点情報」を話す。時間に多少の違いはあるが、平均すると午後7:00前後である。翌日(3日)友人たちの母親は集会を開き、「A地点」の危険性について話し合う。時間は3日の午前10:00。これによって3日の午後7:00には消滅するはずだった母親たちの記憶は、4日の午前10:00までは保存されることになる。
マサの母親はその日の夕方、狩りから帰って来た夫のケンに、集会で「A地点情報」が話し合われたことを伝える。時間は午後5:00だった。父親のケンの記憶は、あと1時間で消滅するはずだったが、この会話によって記憶が更新される。「自分の経験を妻に伝える→妻がそれを集会で話し合う→話し合われたことを妻から聞く」このように更新された父親の記憶は明日(4日)の午後5:00までは保存される。
■独身男性や独身女性は、この「A地点情報」を家族から得ることはないが、世間話しや噂話しによって、この情報は村の隅々まで行き渡る。
「ねえ、知っている?」
「えー!本当ー!知らなかったわー!」 ・・・と、情報が伝達されている間は、A地点情報の発信源である「ケン」にもその情報が「逆伝達(フィードバック)」され、ケンの中の記憶は更新され続ける。ケンが猛獣に遭遇したのは1日の午後1:00。この記憶は24時間で消滅するはずだった。つまり2日の午後1:00には消滅するはずだったが、現時点では4日の午後5:00までは保存されることになっている。
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■箱の次元(Box dimension) 【3】
翌日・・・。
「さあ、由仁男さん。昨日の続きをやろうか?」
「ええ、いいですよ。先生。今日は何色のリボンを巻きましょうか?」
「今日は・・・これだよ。由仁男さん。」
「ああ。黄色ですね。嬉しいなあ。僕の人形と同じ色ですね。」
島崎は昨日と同じ手順で由仁男を催眠状態にしてから、静かに語りかけた。
「さあ、由仁男さん。目を覚ましてください・・・。」
「・・・ここは・・・どこですか・・・?」
「え・・・?どこって・・病院ですよ。覚えてないのですか?由仁男さん。」
「あ・・貴方は誰ですか・・・?」
「私は由仁男さんの主治医じゃないですか?どうしてんですか、由仁男さん?」
(何か様子がおかしい・・)と、島崎はそう直感した。
「ぼ・・僕は・・・何でこんなところにいるんですか?」
「由仁男さん・・・落ち着いて。貴方は病気なんですよ。だから病院にいるのですよ。」
「僕は病気ではありませんよ・・・馬鹿にしないでください!」
「馬鹿にはしてませんよ。由仁男さん。貴方のお友達のことを聞かせてくれませんか?」
「友達・・・ああ・・・彼らはどこに行ってしまったのですか・・・何で僕、一人だけなんだ・・。」
「大丈夫ですよ・・・由仁男さん。あの二人は今、出かけているだけですから。」
「ああ・・駄目だ・・・僕を一人にしないで・・・お願いします・・・!」
「落ち着いて、由仁男さん。そうだ、存在次元論の話を聞かせてください。」
「ああ・・・貴方は僕の存在次元論を批判するつもりなんですね・・・」
「違いますよ。素晴らしい思想だと思ってますよ。由仁男さん。」
(まずいな・・・かなり取り乱している・・・ここは一旦、実験を中止するか・・・)
「じゃ・・じゃあ、由仁男さん。お話はまたの機会にしましょう。さあ、落ち着いて・・目を閉じて・・・。」
「や・・やだ・・・僕は眠くないぞ・・眠らないぞ・・・!!」
「うんうん。わかったわかった。眠くないよね。じゃあ、先生がお薬をあげるからね。ちょっと待っててね。」
島崎は急ぎ足で部屋から出ると、鎮静剤のアンプルを注射器に挿入し、それを持って再びレクリエーション・ルームへと入った。
「ゆ・・・由仁男・・・さん・・・?」
部屋の中央に置かれた椅子に腰掛けているはずの由仁男の姿がなかった。
「ば・・馬鹿な!!」
家具のない、ガランとした部屋に身を隠す場所などない。しかも部屋に部屋の出入り口は一つだけなのだ。由仁男が仮に、その出入り口から出たとするなら、当然、外にいた自分が気づくはずだった。
「あ・・有り得ない・・・杉沢・・・杉沢君・・・!!」
島崎は大声で、助手の名前を叫んだ。
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レクリエーション・ルームの中央で、黙ったまま佇む島崎の姿に、杉沢香苗は息を呑んだ。
「ど・・どうしたんですか・・先生?」
「消えたんだ・・・草野由仁男が・・突然・・・・。」
「そ・・そんな馬鹿な・・・」
そう言いかけた香苗だったが、島崎の両肩が小刻みに震えていることに気づき、言葉を飲み込んだ。
(冗談を言っているわけではなさそうね・・・・)
忽然と姿を消した由仁男だった。二人はただ呆然としたまま、由仁男が残していった「ダンボール劇場」を見下ろしていた。そこにはいつものように、3体の「木片人形」が、何も言わずにただ、向かい合っているだけの退屈な光景があった。
しかし、その直後・・・。
「せ・・先生・・・・あれを!!」
杉沢香苗の人差し指が指し示す方向に、島崎の視線が走る。
「・・・・・!!」
黄色いリボンを巻いている「由仁男人形」の額に・・・
それまではなかった「ホクロ」が現れ始めていた・・・。
(完) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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