羊の隠れ家

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田中の婆さん

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【女神様との初夜】



まず、初めに・・俺がなぜ「田中のババア」が神様であることを知ったのか?
その経緯について話しておきたい。

3月のある日の日曜日のことだった。昼食はコンビニ弁当で間に合わせようと、俺はいつも行くコンビニへと足を向けた。弁当が並ぶ棚を見ながら、あれこれと迷っていたが、ここの「焼肉弁当」だけは買うつもりはなかった。物凄く不味いからだ。

コンビニで弁当を買った帰り道で、俺は田中の婆さんにばったりと出くわしたのだ。婆さんは機嫌が良さそうで、俺を見つけると笑顔で声をかけてきた。

「おやおや、今日もコンビニかいな?まったく、近頃の若いやつは自炊をしなくなったのう。」
「はいはい・・。お婆さん。これが一番手軽なんですよ。」
「こんな合成保存料漬けの食い物なんぞ、人間の食うもんじゃあねえぞー。」
「ええ、ええ、そーですねー。お婆さん。」

俺は、面倒くさいので適当に話を合わせて、さっさと帰宅しようとしていた。すると婆さんは、いきなり俺にこう言ったのだ。

「あんた・・今、年寄りが面倒くさいとか考えたね?」
「いえいえ、お婆さん。そんなことは考えてませんよ!」
「ふん。あんたの考えなんぞ、何もかもお見通しなんだからね・・・。」

ますます面倒くさいこと言い初めた婆さんである。俺は精一杯の作り笑いをババアに投げかけながら、その場を去ろうとした。せっかくの弁当が冷めてしまうではないか・・その時・・・。

「ナンダイ・・あんたの部屋には電子レンジもないのかね?」
「は・・はあ?ありますよ、お婆さん。」

ま・・まさか、俺の考えていることが本当にわかるのか・・・?いや、そんな話があるわけがない。

「あるって言ってもなあ、あんたの電子レンジ、先週から故障しているようだがねえ・・。」

(な・・なんで知っているんだ!!)

俺は自分でも、多少動揺しているのがわかった。俺の動揺を見透かしたように、婆さんは嬉しそうに笑っていたが、その直後、婆さんはいきなり「クシャミ」をしたのだ。

俺は、その時のことを、俺は一生忘れないだろう。ババアの口から勢いよく飛び出した吐息が、俺の頭上をかすめながら、大空に吹き抜けてゆき、辺りの木々の葉を大きく揺らし、付近の住宅のバンガローに干してあった洗濯物さえも、ユラユラと揺さぶった後で、再び大空へと舞い上がり、上空を流れて行く白い雲を二つに割ったのだ!!

ババアと別れた後、部屋に戻ってテレビをつけると「春一番」が吹いたというニュースが流れていた。

あのババアの・・・あのクシャミ・・・。

あれが春一番だったのではないだろうか?もちろん、通常の精神状態なら、このようなアホなことは考えないのだか・・・。何しろババアは、別れ際に俺に向かってこう言ったのだ。

「あのコンビニの焼肉弁当。確かにあれは不味い。」

俺は「ババアの秘密」を探るべく、俺は大胆な作戦を錬った。頭の中で作戦の段取りが整うと、俺は速やかにその作戦を実行した。田中のババアが、無類の酒好きであることを以前から知っていた折れは、近所の酒屋でウイスキーボトルを購入し、ババアの住む家へと向かった。

「おやおや、あんた。あたしがウイスキーが大好きだってこと、知ってたんだねえ!」

婆さんは嬉しそうにそう言うと、台所からグラスを二つ持ってきた。

「さあさあ、一杯やりましょうかね。たまには若い男と酒を飲むもの悪くないねえ。」

(女の本音は酔わせて聞きだす)・・・古典的な作戦だったが、これがうまくいったのだ!
田中の婆さんは、呑むとウェットになるタイプだった。ボトル一本が空になった頃には、婆さんは、涙ぐみながらグラスを見つめ、昔話を聞かせてくれたのだった。

「あたしが初めて、ここに来たのは50億年前のことだったよお・・。」
(中略)
「最初に生み出した生き物は、あたしの名前をとってつけたんだよお・・・」
(中略)
「恐竜どもは、可哀想だったねえ・・・増えすぎて生意気になったからさあ・・」
(中略)
「人間は最低の生き物だねえ・・・そろそろ整理せにゃあ、いかんのう・・・」
(中略)

何と言うことだ!宇宙を創造した「神」が、今、俺の目の前で酔っ払って愚痴をこぼしているのだ!

原始生物に「トメ」という名前をつけたのも婆さんの仕業!
恐竜を生み出し、それを絶滅させたのも婆さんの仕業!

そして今、ババアは・・いや、神様は、人間を滅ぼそうとしているのだ!

「もうそろそろ、人間どもも、きれいさっぱり消してしまわねばなあ・・。こんなきれいな星を滅茶苦茶にしおって・・まったく・・。」

やばい・・・!ババアの瞳に怒りの色が浮かんでいるではないか!
お・・俺が酒を呑ませたばかりに、今日、今、この瞬間に人類が消滅しようとしているのだ!

(そ・・阻止せねば・・人類絶滅を阻止せねば!!)

しかし、相手は「神様」である。どうせ、また俺の考えは読み取られているに違いない。

(何とかせねば・・この婆さんに意識を読まれない方法はないのか!)

そ・・そうだ。自分でも「思いもよらないこと」を言ってみる。自分の意思では到底、考えられないようなことを・・。それなら、自分の意思ではないのだから、婆さんも読み取ることはできないはずだ。

(か・・神への挑戦だ。)

これで、神様とて「万能」ではないことを思い知らせてやるのだ。そうすれば人類絶滅を思いとどまらせるチャンスも切り開けるだろう!

「どうしたー若者〜?難しい顔をして・・まあ、あんたも今日が最後。短い付き合いだったのお・・。」

田中のババアは、そういうと、鼻をムズムズと動かした。

(クシャミか!人類を滅ぼすクシャミをする気か・・!)

もう時間がない。俺は「自分では到底、思いつかないこと」を、とうとう大声で口走っていた。

「田中さん!田中トメさん!あ・・愛してます〜!ぼ・・僕と結婚してくださーい!」

田中のババア・・いや、神様は、俺の突然のプロポーズにキョトンとして表情を浮かべている。成功だ!この考えは読み取られていなかった!当たり前だ!こんなこと、冗談でも思いつかない。しかし、その直後、婆さんは立ち上がると、俺の腕を掴んでこう言ったのだ。

「はいはい。結婚かい?よっしゃ!ほな、さっそく初夜をしよー!」

(え・・?え・え・・・??)

「何をグズグズしてるんだい。あたしたちは今日から夫婦。さっさと初夜を済ませましょ!」

婆さんは、俺の腕を掴み、俺を奥の寝室へと引きずり込んだ。

「ま・・待って・・待ってくれ。婆さん!」

そう言い終わらない内に、俺の着ていた洋服が消滅し、俺は全裸にされていた。

「うひひ・・・若い男と再婚かあ・・久しぶりだねえ・・789万3922回目の初夜だよ。」

ベッドに押し倒され、ババアの裸体が俺に覆いかぶさってきた時、俺はようやく気がついたのだ。

(くそお・・・全部・・婆さんの策略だったのかあぁぁぁぁ〜!)

叫ぼうとする俺の唇は、すでに婆さんの唇で・・・・  ・・・  ・・・

・・・  ・・・ ・・・ ・・・・

(第一部・完)

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宇宙を創造した「田中の婆さん」について、あまり知られていないようなので、ここに、「田中の婆さんの偉大なる奇跡」を記して、これを後世に伝えたいと思う。

言うまでもなく「田中の婆さん」とは、俺の家の近所に住んでいるババアである。彼女が13歳の時、母親に命じられて、やや大きめの樽で「きゅうりのぬか漬け」を作ろうとした。

まだ空っぽの樽の覗き込んだ時、ふいに「くしゃみ」が出て、婆さん(当時は少女)の鼻水が一滴、樽の中にポトリと落ちたのだ。これが「宇宙の元」である。

鼻水は無数に分離して、樽の中に広がり始めた。少女・田中は、慌てて、無数の鼻水を樽から取り出そうとして、中に手を伸ばしたのだが、その時、バランスを崩して、彼女自身が樽に落ちてしまったのだ。

「あれ〜・・!」と悲鳴を上げながら、落ちた場所が地球という「鼻水の欠片」の上であり、後に日本と呼ばれる土地だったことは言うまでもない。

それ以来、少女・田中は地球時間約40億年にわたって、そこに住み着いているのだが、彼女がくしゃみをするたびに、様々な生き物が生まれ、地球は賑やかになったのだ。

人類はやがて進化して、知恵を発達させて「宇宙の創造」についてあれこれと思いを巡らすようになった。科学が未開だった頃は、地球上のあちこちで「インチキ神様」が生み出され、「やあやあ、我こそは創造主なり〜!」と騒いでいたらしい。

やがて、科学が進歩すると、婆さんが樽に落とした「最初の鼻水の痕跡」を発見し、これを「ビッグ・バン」などと呼ぶようになったが、しかし、宇宙の全容についてはまだまだ、人間の知力、科学力では、それを知ることは出来ない。

宇宙は「樽の内部」に広がる空間であり、物質はすべて「田中の婆さんの鼻水」である。これが真実であることは、俺が婆さん本人から聞いたので間違いない。婆さんはかつて、「神」と纏られていたのだが、最近、認知症が進行し、自分が神であることを忘れかけているらしい。

しかし、その全知全能・無限の力は今も健在である。つい最近も、婆さんはスギ花粉の影響で、5回ほどくしゃみをしたのだが、その日、その時に地球上では、新たな生命の誕生が500万ほど発生している。(注・・人間だけではない!)

つまり、くしゃみ一回で何と「100万の生命」を生み出してしまうのだ!このように、「神様」が、現実に実在するのだから、日本もそろそろ、神の登場しないインチキ宗教への税金優遇措置など廃止して、「田中の婆さん」をわが国の守り神として国家を上げて纏るべきなのだ。

「田中の婆さん教・・・信者さん募集中!」

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