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世界のどこかにあるというミステリ研究所では、今日も ミステリ好きな博士と助手が、いつ終わるとも知れぬ 雑談を続けておりました・・・。 「今回は、ちょっとマジメなことでも言ってみようかと 思っとるんじゃよ」 「いつもは不真面目なんだということを、暗に認めましたね」 「何か言ったか?」 「いえ」 「ズバリ『ミステリを書く訓練法』についてじゃ」 「・・・ええと、ミステリを『書く方法』のことですか?」 「うーん、微妙に違うな。いつか自分でミステリを書くときに 備えての、その予行というかその訓練というか、まあ そんなことじゃ」 「何だかよくわかりませんが、これを習得したからといって ミステリが書ける訳ではないんですか」 「いやいや、そんなことはない。書けるようにするための 訓練じゃから」 「?」 「混乱するので、本題に入ったほうがよさそうじゃ。 昔、『金田一少年の事件簿』というマンガがあったのは 知っとるじゃろ」 「はい。大ヒットしたミステリマンガでしたね」 「その『金田一』の初期の話の中に、トリックを借用した ものがあったことは知っとるかね?」 「それも知ってます。ガストン・ルルーとか、日本の 某本格ミステリの大家の作品から、トリックが盗用されて いました。特にその某大家のトリックなんて、デビュー作で 使われた、ミステリ史上に残る独創的なものといっていいもの ですが、堂々とマンガの方に盗用され、当時の週刊誌の 記事にもなっていました」 「そうじゃ。さすがにこれは大問題だと思うが、ただ わしにはちょっとばかり感心したこともあったんじゃ」 「それはどういうことですか」 「確かにトリックは完全な盗用じゃった。許されることでは ない。だがそれ以外の部分は、当然のことながら、まったくの オリジナルで、作者がつくったものじゃった。それが、なかなか よくできていた印象があるのじゃ。ストーリーや登場人物や 舞台設定などは、トリックの盗用元の作品とは大きくかけ離れて いて、結構面白く読めたのじゃ。トリックを他から持ってきた 割には、そのほかの部分を自らよく作り上げていたという ことじゃな。・・・つまり、トリックを盗用した以上、 作品の総合的な評価は最低となるが、物語としての評価は 上々じゃった」 「そのこととミステリを書く訓練と、どうつながって くるんですか?」 「うむ。ミステリを書いたことのない人は、一度、メインの トリックだけを何かの作品や推理クイズから借用して、 その他の部分は自らのオリジナルで埋めつくして、最後まで 書き上げてみたらどうかと思うのじゃ。もちろん、それは 世間には発表できないがね」 「そうすることで、何が得られるんですか?」 「一般的なミステリの構成を、自分の身をもって感じる ことができるのじゃ」 「ミステリの構成ですか」 「よくよく考えれば、トリックだけでミステリは成り立って いるわけではない。トリックすらないミステリもあるしな。 むしろ、それ以外の部分がミステリたらしめているとも いえる。具体的には、 ・犯人を捜す行動とその論理 ・トリックを見破る行動とその論理 ・それらを支える手がかりや伏線の存在 ・小説としての最低限の叙述 ・物語を魅力的にするストーリー展開や登場人物 ・そして、何より「謎」 などがあるな」 「そうですね」 「というわけで、盗用にしろ自分で考えたにしろ、 トリックだけ手中にあっても、ミステリは書けんのだ。 それ以外のことにも十分に気を配り、熟考し、作中に 配置して、完成へと近づけていかねばならん。ミステリを 書くということは、そういうことを確実に遂行すると いうことじゃ」 「すごい、ホントにマジメなことしか言ってない」 「何か言ったか?」 「いえ」 「つまり、そうしたトリック以外の部分も作者は自ら考え、
作品に書いていかなければならないわけだから、こういう 訓練をしたらどうか、というのが今回の本題じゃ」 「それが、さっき言っていたやつですか」 「そうじゃ。まずトリックだけは、何でもいいから、 どこかから借りてくる。それこそ陳腐なトリックの代名詞と いわれている『針と糸の密室』でもかまわん。そうして、 それ以外の部分を自分で加えて、ミステリを書いてみるのじゃ。 探偵役がどう犯人を絞っていくのか、どのようにトリックを 見破るか、物語がどんな展開をするのか・・・そういったことは、 言うほど簡単には考えつかないことじゃぞ。それが出来た あかつきには、ミステリというものがどう構成されているか、 どのように創作されるべきかを、体験したということになる。 いつか本当に自分でミステリを創作する際に、参考にできる 経験を手に入れられるわけじゃ」 |
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