本格ミステリ練習帳

長い放課後になりそうだ……ってなことを考えているヒマがあるならブログ書きやがれってことですね、ハイ。

ミステリ英単語帳

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【faintly】

ほのかに。かすかに。弱々しく。力なく。

形容詞 faint の副詞形。faint が「ほのかな」、
「かすかな」という意味をあらわす。

ちなみに、サッカーなどで使われるフェイントは
feint と書く。「見せかけでだます」、「・・・の
ふりをする」という意味。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

ミステリ史にその大きな足跡を残すアメリカの作家、
エラリー・クイーン。いとこ同士であるマンフレッド・
リーとフレデリック・ダネイの二人が、その名で発表した
作品の数々は、ミステリとしての質の高さから多くの
ファンの支持を受け、現在でも人気があります。

彼らが創作した名探偵は二人。作者と同じ名前のエラリー・
クイーンと元俳優のドルリー・レーンです。

ドルリー・レーンはすでに引退した舞台俳優です。かつては
ハムレットの役などで活躍しましたが、引退するとニュー
ヨークに「ハムレット荘」という館を建て、そこで暮らして
います。時折、市警のサム警部や地方検事のブルーノの
手助けをするため、事件の捜査に赴くことになります。
『Xの悲劇』に始まる《ドルリー・レーン四部作》で、
そうした彼の活躍が描かれています。

特に第二作の『Yの悲劇』は、江戸川乱歩の選定による
ミステリのベストテンに入ったのをはじめ、オール
タイムのベスト・ミステリの企画では、必ずといって
いいほど顔を出すくらいに、人気のある本格ミステリです。

その舞台となるのは、ニューヨークの名門ハッター家。
失踪していた当主のヨーク・ハッターが水死体で発見された
のち、孫が猛毒を飲んで死にかけるなど、不審な出来事が
続きます。そしてヨークの妻エミリーがハッター家の屋敷内で
殺害されるに及んで、ついに悲劇が本格的に始まります。

ひと癖ある人々で成り立っている家族、屋敷の見取り図、
エミリー殺害の凶器がマンドリンであるという奇妙な謎、
レーンが組み立てる緻密な論理、最後に明かされる驚くべき
真相・・・『Yの悲劇』を構成するそういった要素の数々が、
本格ミステリの重要ポイントに見事にはまるため、長く名作の
評価を得てきたものと想像されます。

上の写真にうつっているのは、講談社インターナショナルの
《ルビー・ブックス》の一冊として発売された『Yの悲劇』
です。《ルビー・ブックス》とは、すべて英文で書かれて
いるため、一見すると通常の洋書と同じに思える本なのですが、
文中の英単語の下に日本語訳(ルビ)が添えられていて、
辞書をひく手間を大幅に省き、原文のまま英米文学の名作が
読めるというコンセプトでつくられたシリーズです。ミステリ
関係でいえば、ドイルやクリスティ、チェスタトンのブラウン
神父ものが収録されています。

僕は『Yの悲劇』をずっと読んだことがありませんでした。
名作だというのは以前から知っていましたが、なかなか
手が伸びませんでした。《ルビー・ブックス》の一冊として
発売されたのを機に、英語の勉強を兼ねて、それを買って読んで
みたのです。

360ページ超の英文を読むのは、たとえ訳が添えられて
いても、好きなミステリであっても、楽なことではありません
でしたが、普段の読書にはない達成感がありました。そもそも
クイーンの洋書を書店で見つけることは、クリスティのものなどと
違って困難なので、その原文を読めるのは珍しいことです。

今回の英単語「faintly」は、レーンが静かに微笑む場面などで
使われていた単語です。そんなに頻繁には出てきていないはず
ですが、レーンの特徴とあいまって、印象が強い単語として
僕はおぼえていました。

実は、ドルリー・レーンは過去の事故で耳が聞こえなくなって
いるのです。そのため、普段は読唇術で人が言っていることを
理解しています。目を閉じさえすれば、完全に外の世界と
自分とを切り離すことができ、思考に集中できるというわけ
です。決して消極的ではなく、事件の捜査ではむしろ行動的な
一面を見せているレーンですが、名推理を考えつく「静的」な
イメージも持ちあわせているわけで、そことマッチした単語で
あると僕は感じたのです。

最後に余談を。

本作をすでに読まれた方はおわかりだと思いますが、この
『Yの悲劇』を「翻訳」で読むか「原文」で読むかという
点に関して、物語を読み進めていくうちに、ある部分で違いが
出てきます。それを知らずに上記のように「原文」で読んだ僕は、
思わず「うわ!」と声をあげてしまいました。これは本当の
ことです。誇張でも何でもありません。やられた感が5倍増し
でした。
 
【drug】

薬・薬物のこと。麻薬のことも指す。

ちなみに、マウスの操作の《ドラッグ》は、drag で
「引く・引きずる・ひっぱる」という意味。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

近年、『葉桜の季節に君を想うということ』(文芸春秋)で
ミステリ界の話題をさらった歌野晶午のデビュー作は、
『長い家の殺人』(講談社文庫)でした。デビューした
おおよその時期や出版元が、綾辻行人や法月綸太郎と
共通しているため、彼らと同じく《新本格派》の第一期の
作家として知られています。デビュー作のみならず、
その後に発表された作品においても、《新本格派》の
名にふさわしい良質のミステリ・マインドを、見せつけて
くれています。

歌野ミステリのいくつかで探偵役をつとめているのが、
マリファナを愛飲する自由人、信濃譲二です。デビュー作
から登場し、その後の《家シリーズ》や本格ミステリ色の
強い短編で、謎を解決しています。海外を放浪した経験を
もち、その中でマリファナをおぼえたようです。本人曰く、
頭をすっきりさせる効果があるらしく、マリファナに関しては
肯定論者みたいです。だから、謎も解けるのでしょうか。

ドラッグが物語と大きく関わってくるミステリが、有栖川有栖の
『幻想運河』(講談社文庫)です。彼の作品にしては大変
珍しいことなんですが、海外が舞台になっていて、特定の
シリーズ・キャラクターも登場せず、また本格ミステリの
体裁をとった物語でもありません。このことは、本人に
よるエッセイ『有栖の乱読』(メディアファクトリー)の
中でも、自身が認めています。彼の他の作品に比べて、
異色なものであることは確かです。

舞台となったのは、オランダのアムステルダムです。
主人公の日本人、山尾恭司がそこで遭遇した出来事が、
タイトルにあるとおり《幻想》をまじえながら、つづられて
います。その《幻想》を生み出しているのが、彼の地で
合法となっているドラッグなのです。恭司はバイトで
貯めたお金で放浪(あ、信濃譲二と同じだ)している途中、
アムステルダムに滞在することになります。現地の日本人と
知り合って、ドラッグをためしてみるのですが、そうした
過程を通して、アムステルダムにおけるドラッグ事情を
知ることができます。ドラッグを提供する店が何故か
《コーヒーショップ》といわれていることなど、僕らには
知らないことだらけです。ただ、親本が出版されたのが
96年なので、現在とは微妙に違ってきているかも
しれませんが。

ちなみに、現地で合法だからといっても、日本国民に
とっては国内の法律が海外でも適用されるみたいなので、
旅行中にやっても違法みたいですよ。バレないでしょうけど。

【locked room】 

密室のこと。直訳だと「鍵をかけられた部屋」なので、
広義の密室の場合は、当てはまらないこともある。

また、密室をミステリの用語としてとらえない場合、
つまり、単純に人が入れない部屋を指して言うときは、
back room とか、sanctum という言い方もある。
これらは、「部屋に入れない」という部分を強調した
結果の言葉であり、「施錠された」とか「封印されて
いる」などといった、「入れない理由」に注目した言葉
ではない。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

密室はミステリの華・・・みたいなことを、すでにこの
ブログで書いたかと思います。それが全てではないにしても、
魅力的な要素であるのは、確かでしょう。

密室ものを集めた短編集が一冊あると、結構楽しめます。
色々な密室が連続して楽しめることは、飽きてくる可能性を
多少はらんでいるとはいえ、ワクワク感をかきたてます。
密室ものというからには、少なくとも物語のはじめに
「犯行が不可能な状況」があり、結末でそこに解決が与え
られるわけです。その過程が楽しみに思えるからこその、
ワクワク感だと思われます。頭脳明晰な人にとって、あるいは、
密室の謎が途中でわかってしまった人にとっては、
ガックリ感しか感じられませんが、それはワクワク感の
裏返しですね。

ハヤカワ文庫では、近年《クラシック・セレクション》として、
復刻版のような位置づけで、昔のミステリが文庫になって
読めるようになっています。二年前、H・S・サンテッスンの
『密室殺人傑作選』がそこに加わりました。エラリー・
クィーンやジョン・ディクスン・カーなどの密室ミステリの
短編が14篇収録されています。

読んでみると、古今の様々な密室ミステリがあるため、
バリエーションの点では、飽きが来ない一冊です。
ただ、こういうアンソロジーには、異色なものも含まれる
のが宿命だったりするので、中には密室の「ミステリ」とは
呼べないな・・・というのもあります。でも、ミステリ・
ファンならば、買いですね。

ミステリ英単語「館」

【mansion】 

館。大邸宅のこと。日本語でいう「マンション」では
ない。日本流の、集合住宅としての「マンション」は、
英語では apartment (house) という。

しかし、集合住宅のほうで、「○○ Mansions」という
ぐあいに、名称の一部として mansion が使われることは
ある。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

館は、綾辻行人の「館シリーズ」によって示されている
ように、今では本格ミステリの、象徴的な存在になって
いると言っていいと思います。

なぜでしょう? 考えられる要因として、以下のような
ものがあります。

 ・本格ミステリは、限定された状況を舞台にして、
  同様に限定された容疑者の中から、犯人をさがす
  ストーリーを楽しむもの。館は、その「限定された
  状況」を作り出す、ひとつの手段として有効である。
 ・そもそも、歴史的にみて、ミステリというものが、
  高度な知的ゲームを楽しむという、高級さの漂う
  ジャンルであった事実がある。それなりの舞台として、
  ブルジョアな人々が集う館が選ばれたのは、自然な
  流れ。
 ・単純に、館を舞台にしたミステリが増えている。

フィクションの世界とはいえ、現代の日本を舞台に
「館ミステリ」を書こうとすると、色々と不自然・不都合な
点が出てきます。ただのお屋敷、豪邸というだけなら
全然問題はないでしょう。リアル系ではなく、ちょっと
マンガ的というか、非現実的な設定の物語を書く場合も、
問題はないでしょう。

ごく普通のリアルなミステリの中で、特異さの目立つ
館を登場させる場合が、ちょっと問題なのかもしれません。
でもやっぱりフィクションだから、読者、作者ともに
気にしない人が多いかも知れませんが。

まっとうな「館ミステリ短編集」としてご紹介したいのが、
有栖川有栖の『絶叫城殺人事件』(新潮文庫)です。
表題作を含め、六つの短編のタイトルに、独創的な建物の
名前が冠されており、実際にその建物に絡んで、物語が
展開します。有栖川有栖の端正な本格短編ミステリと同時に、
独特の味わいを持った建物の情景を、楽しむことができます。

【The dog did nothing in the night-time.】

"Is there any other point to which you wish to draw
my attention?"

"To the curious incident of the dog in the night-time."

"The dog did nothing in the night-time."

"That was the curious incident," remarked Sherlock
Holmes.

「他に私が注意するところはありますか?」
「夜のあいだの犬の奇妙な出来事だね」
「犬は夜のあいだ、何もしませんでしたよ」
「それこそ奇妙な出来事じゃないか」とシャーロック・
ホームズは言った。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

今回は、シャーロック・ホームズの『銀星号事件』からの
一節を引用しました。

シルヴァー・ブレイズ(銀星号)という名の競走馬の失踪を
調査したホームズは、その結果、ある確信を得ます。そんな時、
現地の警察官に捜査のヒントを聞かれ、それに応じるのですが、
上のやりとりがその場面です。

「(馬の厩舎にいた)犬が何もしなかった」ということが、
実は大きな手がかりとなっています。この手がかりは、
優れた手がかりの例として、しばしばミステリ関連の
文章などに取り上げられることもあります。

世間一般には、さほど有名な一節だとは思えませんが、
2003年、上のやりとりの二行目にあるホームズの
セリフをもとに、『The Curious Incident of the Dog
in the Night-Time』というタイトルをつけた本が出版
されました。日本語訳は『夜中に犬に起こった奇妙な
事件』というもので、早川書房から出ています。

これはミステリではなく、15歳の自閉症の少年が
主人公の物語です。天才的な頭脳をもつ一方、自閉症ゆえ
周囲が苦労することも多いという少年が、ホームズのまねを
して、近所の犬が殺された事件を追っていくというものです。
 

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